第54話:修道会議
ザワザワザワ。
俺たちは修道会本部の、大きな部屋にいる。ヨルムンガンドの襲撃を受けて、緊急の修道会議が開かれた。俺たちはその場にいたということで、状況の説明を求められている。隣に座っている、ナディアが呟いた。
「なんだか、緊張するね」
「私も、ドキドキしてしまいます」
ナディアとティルーは、緊張しているようだった。無理もない。この場には、修道会の上役と思われる騎士が、ズラッと並んでいる。騎士隊だけじゃない、四聖も勢揃いしていた。みな、俺たちを見ながら、コソコソと話している。
「おい、アイツだろ? 噂の冒険者って」
「何でも、ヨルムンガンドの攻撃を弾き返したとか」
「俺はダグード様が、街を守ったって聞いたぞ」
(情報が錯そうしているようだ)
俺は二人を、落ち着かせるように言った。
「心配するな。見た通りのことを話せばいいんだ」
「私だっているんだ。大丈夫だ」
奥の方に、ダグードとイセレが座っている。そして、四聖の一人、ドソル・ダブーもいた。“神速の双剣”と呼ばれている、二刀流の使い手だ。黒い髪が、目にかかるほど長い。表情も乏しく、非常に陰気な雰囲気だ。
「あの人、すごい暗いね」
「失礼ですが、ちょっと気持ち悪いです」
しかし、俺には相当の実力者だとわかった。ノエルに、小さな声で話しかける。
「あいつ、かなり強いな」
「修道会の歴史の中でも、大変な手練れだ」
イセレは俺を見ると、わずかにニッコリとした。俺も軽く会釈して応える。その途端、仲間は何となく不機嫌になった。
「余裕だね、アスカは」
「さすがは、アスカさんです」
「まったく、隙あらばこれだ」
「いや、何が何だか……」
しかし、“ルトロイヤの一本槍”と称される、ググリヤ・ルノニンはいなかった。
「ググリヤの姿が見えないな」
「まだ遠征から、帰ってきてないようだ」
ゴヨークは、真ん中の席に偉そうに座っている。そこだけ高い位置にあるので、俺たちを見下すように見ていた。ゴヨークが、スッと立ち上がる。話し声が止んだ。
「では、これから修道会議を始める」
議題はもちろん、ヨルムンガンド襲来の件だ。
「さて、諸君の知っている通り、ヨルムンガンドが、王都に出現した。今回は運よく、ダグードがその場にいたので、大事にはならなかった。だが、今後また同じことが起きるとも限らない。情報によると、ダグードとアスカ・サザーランドとかいう冒険者が、決闘している時に現れたと聞いている。おい、アスカ・サザーランド。まさか、お前が呼び寄せたんじゃないだろうな?」
ゴヨークが言い終わると、会議室はまたざわつき始めた。
「そういえば、タイミングが良すぎる」
「ダグード様に負けるのが嫌で、召喚したんじゃないのか?」
「怪しい」
(予想はしていたが、いきなり疑惑の目で見られるとはな)
「いや……」
俺が否定しようとするよりも先に、ノエルたちが叫んだ。
「どうしてそうなるんだ!? アスカがそんなことを、するはずがないだろう!」
「言いがかりだよ!」
「いい加減にしてください!」
「ゴヨーク。お前が何と言おうと勝手だが、俺がヨルムンガンドを呼んだと言うなら、証拠を見せてほしい」
俺が淡々と言うと、会議室は静かになった。続けて、イセレも発言する。
「ゴヨーク様。アスカさんがヨルムンガンドから王都を守ったことは、大勢の貴族や騎士隊が見ています。現時点でアスカさんを疑うのは、それこそ言いがかりというものです」
ドソルも口を開いた。ゆっくりと、ボソボソ喋っている。
「ゴヨーク様……冒険者の強さを……再評価……する必要が……ある……でしょう。冒険者……排斥運動も……見直した方が……良いかもしれません」
「フンッ! アスカ・サザーランドめ。貴様らはたまたまその場にいたから、この修道会議に同席できているんだぞ。だいいち、ダグードよりその冒険者が強いはずがないだろう。決闘のときも、防戦一方だったそうじゃないか。そうだろう? ダグードよ」
「え? は、はい、ゴヨーク様のおっしゃる通りでございます」
ダグードは一騎打ちの後から、ずっとぼんやりしている。
「ダグードがヨルムンガンドを、追い払ったということでよさそうだな」
「ちょっと待って! そのダグードって人は、何もしてないよ!」
「アスカさんが、ヨルムンガンドから街を守ったんですって!」
「アスカの活躍を、なかったことにするな!」
「黙れ黙れ! それと、貴様はノエル・ダレンバートと言ったな。修道会の一員のくせに、私に向かってそのような態度をとるとは。覚悟しておけよ」
ダダダダダ! バターン!
突然、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「ゴヨーク様! 大変です!」
衛兵が飛び込んできた。走りっぱなしだったのだろう。息も絶え絶えで、汗だくだ。
「うわぁ、びっくりした」
「何かあったのでしょうか」
「修道会議が開かれているときは、入室できないはずなんだが」
(なにか、様子がおかしいな)
どうしても、俺は不穏な気配を感じてしまう。
「なんだ! 修道会議の最中だぞ! 今すぐ出て行け!」
ゴヨークが言っても、衛兵は断固として動こうとしない。直後、叫ぶように言った。
「ググリヤ・ルノニン様が……瀕死の状態で発見されました……!」
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