第51話:一騎打ちの始まり

「諸君! よく集まってくれた! 愚かにも、ダグード様と勝負をしたい、という冒険者がいてな! 今日は、その手合わせの日だ!」


おそらく、ダグードの部下だろう。審判のような格好をした男が叫んだ。


「「「ワアアアアアアアアアアアア!」」」


俺はルトロイヤの、大きな闘技場にいる。教会でダグードと会ったとき、一対一の決闘をすることになった。騎士隊の修練場でやるのかと思っていたが、ダグードはわざわざこの場所を選んだらしい。大衆の面前、特に女たちの前で俺を叩きのめしたいのだろう。そのせいで、思ったよりおおごとになってしまった。街中の住民が詰め寄せ、大賑わいだ。


「頑張ってね」


「アスカさんなら大丈夫ですよ」


「ダグードはああ見えて、なかなかの実力者だ。油断するなよ」


「ああ、わかった」


仲間に見送られ、俺は闘技場に進んでいく。観客席に座っているのは、ほとんど騎士隊だった。


「おい、アイツだろ? 偽の推薦状を持ってきた冒険者って」


「バカだよなぁ。ダグード様に勝てるわけないのに」


「これだから冒険者は、命知らずで困る」


(どうやら、俺の評判はすこぶる悪いみたいだな)


やがて、ダグードが姿を現した。わざとらしく、ゆっくりと歩いて来る。気取った歩き方をしているが、様になっていた。その瞬間、観衆のボルテージが一気に上がった。示し合わせたかのように、一斉にダグードコールをする。


「「「ダグード! ダグード! ダグード!」」」


非常に統率がとれたダグードコールだった。


(さすがは、王国騎士修道会だな)


「ダグードさまーーーー!」


「こっち向いてーーーー!」


「愛してますわーーーー!」


「そんな奴、さっさとやっつけてーーー!」


よく見ると、貴族令嬢と思われる女たちもたくさんいた。みな甲高い声で、ダグードに声援を送っている。ダグードが応援に答えると、もはや悲鳴とも言える声を出した。そして徐々に、会場は静かになっていく。


「やぁ、アスカ・サザーランド君。私との勝負を受けたことを、まずは褒めてあげよう。君は意外と、勇気がある人物のようだ。私が流した噂を聞いて、ノコノコ逃げ帰ってしまったのかと思ったよ」


ダグードは事前に、俺の悪い噂を流していたらしい。本拠地の利点を、最大限に活かすつもりなのだろう。


「ずいぶん、お前は人気があるみたいだな」


「あぁ、何と言っても僕は強いからね。女性はみな、強くて美しい男が好きなのさ。君なんかと違ってね」


ダグードは、貴族令嬢が集まっている席に向かってキスを送る。その瞬間、女たちの叫び声がとどろいた。


「余裕そうだな」


「当然だろう。君程度の冒険者に、私が負けるはずなどない。それこそ、天と地がひっくり返っても、あり得ないことだ」


俺とダグードは、正面から向かい合う。ダグードは自信に満ち溢れた表情をしていた。


シーン。


闘技場が静まりかえる。いよいよ、勝負の始まりだ。審判が合図をする。


「始め!」


俺とダグードの、一騎打ちが始まった。

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