第50話:新たな力(Side:ゴーマン⑬)

「ぐあああああああああああああ!」


『うるさイ。我慢しロ』


俺はあれからずっと、磔にされている。抵抗しようにも、フード野郎の金縛り魔法で、全く動けなかった。


「おい! お前! 俺たちを騙しやがったな! 何が強くしてやるだ!」


荒地から連れてこられるや否や、今の今までこの状態だ。もうどれくらい経ったかすら、わからない。ここがどこかも不明だ。そこかしこに、モンスターや人間の骨が転がっている。ただ一つ、人間が来るような場所ではないことだけは確かだった。


『だから何度も言っているだろウ。私はお前に力を分け与えているのだゾ。お前たちを強くするには、これが一番手っ取り早い方法なのダ』


フード野郎が俺に手を触れた。その瞬間、猛烈な激痛が体中を襲う。まるで、体の中から内臓を焼かれているようだ。


「……うっ」


『寝るんじゃなイ。起きロ』


「ぐううううううううううううううう!」


何度も気絶しそうになった。だが、その度にさらなる痛みで現実に戻される。


「……あいつらは……どうしているんだ?」


俺は息も絶え絶えになって聞いた。バルバラ、ダン、カトリーナの姿は、何日も見ていない。さすがに、奴らの身が心配になった。


『フフフ、安心しロ。奴らはもう完成していル』


「……完成だと? ……どういう意味だ」


『さて、そろそろ仕上げといこウ』


フード野郎が、どこからか盃を持ってきた。何かはわからないが、中の液体はグツグツと煮えたぎっている。それだけではない、嗅いだことのない異臭がした。見るからにヤバそうだ。


「うっ、なんだよそれは」


『これは力を強める、とても貴重な秘薬ダ。お前のために、わざわざ用意したのだゾ』


フード野郎は、迷いなく俺に飲ませようとしてきた。俺は必死になって抵抗する。


「や、やめろ! 秘薬だなんて信じられるか!」


『信じる信じないは、お前の自由ダ。だが、お前は飲むしかなイ。拒否権などないからナ』


ググググ!


「あ……がっ……ゴクゴクゴク!」


無理やり、謎の液体を飲まされてしまった。頭が爆発したかのような衝撃を受ける。俺は今度こそ、完全に意識を失った。






『うっ……ここは……?』


気がつくと、俺は硬い地面に横たわっていた。どうやら、あの後寝てしまったらしい。


『大丈夫か、ゴーマン』


『ゴーマンさん、無事ですか』


『死んじゃったかと思ったわよ』


聞き覚えのある声が聞こえてきた。そうだ、俺のパーティーメンバーたちだ。


『お、お前ら……無事だったか……うわぁ!』


何と言うことだ。俺の周りにいるのは、あいつらじゃなかった。モンスターだ。トロール、レイス、フェニックス。どれもめちゃくちゃ強いモンスターだ。


(まずい、早く態勢を整えろ!)


俺は慌てて立ち上がる。しかし、バランスを崩して倒れてしまった。


(もうダメだ! 殺される!)


『『『アハハハハハハハハハハハハハハハ!』』』


しかし、モンスターは笑っているだけだ。攻撃の素振りすら見せなかった。


(な、なんだ……?)


ウウウウウウウウウウウウウウン!


突然、モンスターたちの姿が変わる。トロールはダン、レイスはカトリーナ、フェニックスはバルバラになった。


『は? これは、いったいどういうことだ……?』


『俺たちも強くしてもらったというわけだ』


『これならどんな敵も倒せますわ』


『強くなりたかったのは、ゴーマンだけじゃないってこと』


どこからどう見ても、俺のメンバーだ。


『だって、さっきまでお前らはモンスターだっただろ』


俺は目の前で起きたことが、まるで信じられなかった。モンスターが人間になるなんてことは、あるはずがない。


『どうダ? ゴーマンよ、お前の仲間たちはなかなか優秀だったゾ』


フード野郎が奥から歩いてきた。


『こいつらに何したんだ!?』


『何したって、力を分け与えただけダ。お前にしたようにナ』


『てめえ、俺の仲間をモンスターにしやがったのか!?』


『力が欲しいと言ったのは、お前たちだろうガ』


『俺の体に何した!』


フード野郎が手をかざす。大きな鏡が現れた。ちょうど、俺の全身が映る大きさだ。


『こ、これは……』


俺の姿は、全く変わっていなかった。


『お前は特別なのダ』


『ふざけんな! おい、いい加減に正体を見せろ!』


『いいだろウ』


奴の顔を見た瞬間、俺はかつてないほどゾッとした。血の気が引いていくとは、まさにこのことだ。


『う……噓だろ……お前は……!』


しかし、メンバーたちは至って冷静だ。


『びっくりしただろ、ゴーマン』


『私たちには強力な味方がいるってわけ』


『もう何も恐れる必要はないのです』


フード野郎が俺を、鏡の前に連れて行った。


『な、なんだよ』


『これからお前を、ヨルムンガンドの巣に転送すル。お前の力を試しこイ』


伝承でしか聞かないような、ウミヘビのモンスターだ。間違いなく、Sランクはある。


『いきなり、わけのわからないことを言うんじゃねえ!』


『うるさイ。早く行ケ』


ドンッ!


『うわぁ!』


俺は鏡の中に押し込まれた。





その後、俺は無傷で帰ってきた。


『こんな力があれば、もう無敵だぜ!』


『フフフ、それは良かっタ。ところで、アスカ・サザーランドは、今ルトロイヤにいるゾ』


『なに!?』


アスカと聞いて、あの怒りが思い出される。


『ルトロイヤのどこにいるんだ! 今すぐぶち殺しに行ってやる!』


『まあ、待テ。お前たちは強くなったが、まだ力をコントロールできていなイ。準備もしないで勝負を挑んでは、簡単に負けてしまうゾ』


ふむ、相手はアスカだ。どんな汚い手を使ってくるかわからない。


『お前たちも、四聖くらいは聞いたことがあるだろウ』


『当たり前だろうが。バカにすんな』


四聖と言えば、王国騎士修道会の四大剣士だ。


『その中の、ググリヤ・ルノニンと戦え』


『ググリヤ・ルノニンだと? あの“ルトロイヤの一本槍”と名高い……』


騎士隊は魔剣を装備するのが基本だ。しかし、ググリヤだけ例外的に槍を使っている。王国一と言われているほどの名手だ。さすがに四聖と聞いて、俺たちもひるんだ。


『アスカ・サザーランドは、確実に四聖よりも強い。ググリヤ・ルノニンくらい倒せないと、勝てるわけないゾ』


確かに、実戦もなしに勝負を挑むのは良くない。それに、今ならどんな奴だって倒せそうだ。まずは四聖をぶっ倒し、確実にアスカを葬るとしよう。


『よし、わかった。お前のお望み通り、四聖を倒してやるよ』

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