第47話:ルトロイヤ教会
「あなた達は、ゴイニアから来た冒険者の方々ですよね?」
振り返ると、そこには修道服に身を包んだ女がいた。シスターだ。そういえば、本部の地下には教会があると、地図に書いてあった。
「あぁ、そうだが。あんたは?」
「わたくしはルトロイヤ教会のモナと申します。ここにいらっしゃったということは、Sランクの申請でしょうか? 見たところ嬉しそうにはされていませんが……もしかして、追い出されてしまったのですか?」
「そうだよ! 教皇様だが何だか知らないけど、あんな失礼な態度は見たことがないって!」
「ハードヘッドさんに書いてもらった推薦状も、ビリビリに破られてしまったんです!」
二人はここぞとばかりに不満を垂れていた。収拾がつかなくなる前に、俺はモナに尋ねた。
「ところで、どうして俺たちにそんなことを聞くんだ?」
「質問に質問で返すことになってしまいますが、あなた達はイセレ・グトートン様のことをご存じでしょうか?」
「「イセレ・グトートン?」」
ナディアとティルーは知らないようだった。俺は簡単に説明する。
「聖女の中でも、ひと際優れた大聖女だ。四聖の一人に選ばれるほどな」
「ふ~ん、聖女さんねぇ」
「しかし、アスカさん。四聖とは大剣士だとおっしゃってませんでしたか?」
「確かに、聖女さんは剣士じゃないよね?」
「ティルーの言うように、四聖は基本的に騎士隊の中から選ばれる。しかし、“聖なる力”の純度が非常に高いので、例外的に四聖として選ばれたのだ。聞いた話だと、神託を得る力があるとか何とか」
「「へえ~」」
ひとしきり話し終わったところで、モナが言った。
「わたくしは、イセレ様の使いの者でございます」
「使いの者? 俺たちに何の用だ?」
「また何か言われるのかな」
「もう勘弁して頂きたいですよ」
先ほどの対応を思い出したのか、ナディアたちはうんざりしている。
「おっしゃるように、イセレ様は神託を受けられる方です。この度、修道会にかつてない危機が訪れる、ゴイニアより来た冒険者に助けを求めよ、とのお告げがあったそうです。そのパーティーが大男と女戦士たちということなので、あなたたちかと思いまして」
「ふむ」
「なんだか怪しいなぁ~」
「本当にそんなことができるのでしょうか」
教皇に会うや否やあのような態度を取られたのでは、不信感を持つのも無理はない。ノエルの意見も聞いてみよう。
「そういえば、ノエルはまだ戻ってきてないよな?」
「今ちょうどこっちに来てるよ」
「しかし、ノエルさん恐ろしい顔をしてますね」
ナディアとティルーが奥の通りを指さす。ノエルがやってくるのが見えた。しかし、とてつもなく怖い形相をしている。何かあったのだろうか。俺は恐る恐る声をかけた。
「ノ、ノエル、魔剣の修理は、お、終わったのか?」
「終わった」
ノエルは俺のことをギロリと睨みつけると、そっぽを向いてしまった。
「そ、そうだ、ノエル。この人はシスターのモナだ。イセレ・グトートンの使いだそうだ」
「初めまして、モナと申します。ノエル様、お噂はかねがね聞いております。ゴイニアではアスカさんたちと奮闘されていたようですね。実はあなた方をイセレ様がお呼びなのです。ノエル様も一緒に来ていただけませんか?」
「一緒に来て? なぜだ」
俺は今のやり取りを説明する。
「ほぉ、イセレ・グトートンがなぁ。ところで、Sランクの申請はどうだったんだ? 上手くいったのか?」
「いや、それがな。申請どころか、追い出されてしまったよ。ハードヘッドからの推薦状でさえ、破かれる始末だ」
「あのゴヨークって人、私は嫌い」
「今ちょうど、モナさんにも愚痴を言っていたところです」
ノエルも何かしら情報を掴んだのだろうか。
「そっちの方は何か情報があったか?」
「鍛冶屋の店主曰く、教皇が代替わりしてから冒険者の排斥運動が生まれたそうだ」
「わたくしたちルトロイヤ教会も、この度の機運には驚いています。ゴヨーク様が教皇になられてから、色々と変わってしまいました」
モナも相槌を打っていた。ノエルが続けて言う。
「それと、冒険者排斥部隊の結成については、ほとんど決定事項らしい。実は鍛冶屋でダグードに会ってな。本人が言っていたから、間違いないだろう。まずいな、思ったより時間がないかもしれん」
「どうでしょうか、イセレ様にご相談してみては? お力になって頂けると思います」
モナの言うことも一理あった。武力で抵抗したところで、冒険者たちの立ち位置が悪くなるだけだ。出来るだけ穏便にことを進めたい。
「俺たちが抗議しても、あのゴヨークは相手にしないだろう。ここでは冒険者の立場が低いからな。四聖に手助けしてもらえるなら、ありがたい」
「そうだね、味方は少しでも多い方が良いよ」
「一度お話だけでも聞いてみましょう」
「私もとりあえず、会ってみた方が良いと思う」
ひとまず、俺たちの意見はまとまった。
「よし、決まりだな。では、モナよ。案内してもらえるか?」
「はい、わたくしについてきてください」
少し歩くと、地下への階段があった。そのまま、奥に進んでいく。
「中はひんやりしているね」
「あぁ、地下は気温が低いからな」
階段は、小さなロウソクの明かりだけで照らされていた。どことなくほの暗い雰囲気だ。
「モナさん、ルトロイヤ教会と修道会はどのような関係なのですか?」
「わたくしたちは、修道会に属する教会です。昔はルトロイヤ教会の方が立場が弱かったですが、イセレ様が四聖になられてからは対等になりました」
「修道会にも色んな事情があるんだ。ノエルみたいな良い人ばかりならいいのに」
「人が多いからな、色々あるさ」
ノエルがため息を吐くように言った。
「皆さん、着きましたよ。ここがルトロイヤ教会です」
いつの間にか、一番下まで来ていた。木でできた重厚そうな扉を、モナがゆっくりと開けていく。
「わぁ、広いねぇ」
「これは素晴らしいです」
地下洞窟を加工したのだろうか、教会は石造りだった。余計な装飾がない、比較的質素な建築だ。壁面の白っぽい灰色と、黒く塗られた床のコントラストが美しかった。そして、正面に女神の石像が鎮座されている。ここには上の建物と違って、ある種の畏怖があった。
「こういうところの方が、俺は落ち着くな」
「私も同感だ。本部はゴテゴテしすぎている」
モナが奥の方を厳かに示す。
「あちらにいらっしゃるのが、イセレ様でございます」
石像の前に、真っ白の修道服を着たシスターが座っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます