第45話:修道会本部

「まったく、豪勢な建物だな。まぁ、想像通りか」


俺たちは修道会の本部に来た。ルトロイヤの建物はみな贅を極めているが、その中でも特に豪華絢爛だ。おそらく、代々教皇を務めてきたカヨブイク家の趣味なんだろう。ノエルから、ここは教皇の住まいも兼ねていると聞いていた。


「いくら王国直属の騎士隊と言えど、ちょっと派手すぎじゃないですか」


「これを建てるのに、お金はどれくらいかかったんだろうね。全部で3階建てだし」


ナディアとティルーも、ただただ見上げている。


「とりあえず、中に入ってみるか」


室内もまた煌びやかだった。そこかしこに、高そうな壺や絵画などが飾られている。そして、贅沢なだけじゃなくとても広かった。ここを訪ねてきた冒険者に、レベルの違いを見せつけるという意図を感じる。


「あ! あそこに地図があるよ! 建物の地図じゃないかな?」


ナディアが壁にかかっている地図を見つけた。


「お手柄ですよ、ナディアさん。とても地図なしでは迷ってしまいそうです」


「ふむ、どれどれ……」


俺たちがいる1階が主に行政施設、2階が騎士隊の待機場所、そして3階がゴヨークの住まいらしい。


「地下には教会があるみたいだね」


ナディアが地図の一部を指した。確かに、地下には教会があると書いてある。


「……となると、ここが冒険者ランクについての受付じゃないか?」


地図上だとSランクへの申請場所は、1階の隅の方にあった。


「こんな端っこにあるよ」


「もうちょっと、真ん中でもいいと思いますが」


「ここでは本当に冒険者は肩身が狭いようだな」


そのまま俺たちは受付に向かう。他の部署は大きなくせに、受付カウンターは一つしかなかった。


「ちょっと、すまない。俺たちは冒険者なんだが、Sランクへの昇格を申請したくてな。ここで合っているか?」


「はい、こちらでお受けしますよ。このご時世に冒険者なんて、大変ですね。では、ギルドカードを見せてください」


どうやら、この受付嬢は冒険者をそれほど嫌ってはいないらしい。俺たちは静かにホッとした。


「これだ。ほら、ナディアとティルーも」


「「よろしくお願いします」」


俺たちは揃ってギルドカードを見せた。俺は知らなかったが、ティルーも冒険者資格は登録していたようだ。


「えーっと、アスカ・サザーランドさん。冒険者ランクが……ってDランクですか!? あとのお二人もDランク!? ちょっと気が早すぎませんかね。まずはAランクになって頂いた方が……」


受付嬢は慌てたように言ってきた。すぐにハードヘッドからの手紙を差し出す。


「いや、ちょっとこれを読んでくれ。ゴイニアで拠点長をしているハードヘッドからの推薦状だ」


「ハードヘッド様ですか? 推薦状?」


やがて、徐々に受付嬢の目が見開いていった。驚きの表情をしている。


「え!? どういうことですか!? ゴイニアがヴァンパイア伯爵に攻められたのは知っていますが……。アスカさんが《ナンブネス・パラライシス・バインディング》で敵の動きを止めて、《ホーリー・セイクリッド・グローリールーメン》でアンデット系のモンスターを、って! ちょっと意味が分からないですよ! あなた方はDランクですよね!?」


気が動転してしまったようだった。無理もない、Dランク冒険者では不可能な魔法ばかりだ。


「ほ、ほんとにあなた方がヴァンパイア伯爵を……?」


とそこで、奥から太った男が出てきた。こいつは……。


「おい、何を騒いでいるのだ。うるさいだろうが」


「も、申し訳ありません! 教皇様!」


ゴヨーク・カヨブイクが現れた。護衛を何人か引き連れている。演説を終えて戻ってきたらしい。周りの人間たちも、途端に姿勢を正した。


「なんだ、貴様らは」


「あ、あの、私たちは……」


ナディアが答える間もなく、ゴヨークはギルドカードを乱暴に手に取る。俺たちのことを、ゴミでも見るような目で見てきた。


「フン、冒険者か。しかし、みすぼらしい格好だな。王都に来るのというのに、もっとまともな格好ができないのか。汚らしい」


「俺たちはSランクの申請に来ただけだ」


「なに、Sランクだと? 偉そうに……」


ゴヨークはギルドカードを見たかと思うと、大声で笑い始めた。


「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! 貴様らは、Dランクではないか! そんな未熟者どもが、Sランクになれるわけないだろう! さっさと王都から出て行け!」


「バカにするのも結構だが、ハードヘッドからの推薦状を見てくれないか?」


「推薦状だと?」


受付嬢が恐る恐る手紙を渡す。


…………ビリビリビリビリ!


しばらく目を通したかと思うと、ゴヨークは勢いよく破いてしまった。散り散りになった手紙が、パラパラと地面に落ちる。


「あ! ちょっと、何てことするのよ!?」


「せっかくハードヘッドさんが書いてくれたのですよ!」


ナディアたちは今にも掴みかかりそうだった。


「落ち着くんだ、二人とも」


「フン、どうせここに書いてあることは全て嘘だろう。ゴイニアなんて辺境にいる拠点長の買収なら、問題ないと考えていたようだ。だがな、私の目は誤魔化せんぞ」


「ちょっと待ってくれ。ゴイニアがヴァンパイア伯爵に攻められたことを知らないのか?」


「そんなことは知っている。魔族四皇の出現により、貴様らは王都が混乱していると思っていたのだろう。いっそのこと、正直に言ったらどうだ? どさくさに紛れて、Sランクになってやろうという魂胆だと」


ゴヨークは完全に、俺たちを見下している。冒険者の言うことなど、絶対に信じないらしい。


「アスカはゴイニアを救ったんだって!」


「そうです、街の危機を救った英雄ですよ!」


「冒険者ごときが魔族四皇を倒せるはずがなかろう。おおかた、騎士隊の足を引っ張っていただけだろう。それにハードヘッドからの報告だと、ビッグ・ベヒーモスがいたそうじゃないか。どうせ、そいつが大暴れして共倒れになった、というのが真実なんじゃないか?」


取り付く島もないとはこのことか。冒険者というだけで毛嫌いしているようだ。


「さあ、早く神聖な王都から出て行ってもらおうか。抵抗するようなら、牢屋に監禁するぞ」


「ど、どうしよう、アスカ」


「アスカさん……」


「仕方がない。外でノエルが帰ってくるのを待とう」


俺たちは一旦、外に出ることにした。出口に向かって歩いていく。


「フン、二度と姿を見せるな。冒険者どもめ」


ゴヨークは最後まで悪態をついていた。





「さて、困ったものだ」


「あんなに失礼な人は、なかなかいないよ!」


「何なんですか、あの態度は!」


ナディアとティルーは、プンプンと怒っていた。だが、どうしてあそこまで冒険者を敵視するのだろうか。


「あ、あの……すみません」


そう思ったとき、俺たちに誰かが話しかけてきた。

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