「第二章:王国騎士修道会編」
第44話:王都ルトロイヤ
「ここがルトロイヤか。確かに大きな街だ」
俺たちは王都ルトロイヤに着いた。王都というだけあり、今まで来たどの街より大きい。
「広い街だねえ」
「ここが王都ですか。とても立派な建物が、たくさん並んでいます」
ナディアとティルーは、街の雰囲気に圧倒されている。
「私も久しぶりに来たが、このゴテゴテした感じはやっぱり居心地が悪いな」
ノエルは王都があまり好きではないようだった。
「ノエル、修道会の本部はどこにあるんだ?」
「ここからずっと奥の方だ。地図で言うと、ルトロイヤの中心に位置する」
歩いていくと、住民がたくさんいた。みな、豪勢な服を着た者ばかりだ。ノエルが言ったように、この街にいるのはほとんど貴族なのだろう。
「あの人たちはみんな貴族? 宝石がギラギラしていて眩しいよ」
「他の身分の方は住んでいないのですかね」
「おっ、あそこにいるのは冒険者たちじゃないか?」
よく見ると、冒険者らしき人間たちもいた。中には街の片隅で、露店のような店を開いている者もいる。
「貴族以外にも住民はいるぞ。見ての通り、冒険者もな」
「でも、修道会の人たちは冒険者が嫌いなんじゃないの?」
ナディアがノエルに聞いた。俺もちょうど疑問に感じていたところだ。
「あそこを見てみろ」
ノエルは街の一角を指さした。そこでも、冒険者たちが店をやっている。
「あの方たちは、何か売っているようです。何でしょう?」
よく見ると台の上には、毛皮だとか動物の牙、モンスターの爪の一部などが置いてあった。
「あいつらは王都では手に入らない物を売っているのだ。貴族たちは珍しい物が好きだからな」
辺りを見ると、他にも同じような店がちらほらある。どこも貴族がたくさん集まっていた。しばらく眺めていると、どの品も飛ぶように売れている。
「ふむ、まるで商人じゃないか。辺境の地では、命がけで戦っている者もいると言うのに」
これでは修道会の騎士隊が、冒険者を嫌うのも無理はない。そう思ったとき、ノエルがぼやくように言った。
「貴族も貴族だ。おおかた、ここがモンスターに襲われるなんて考えてもいないのだろう。……ん? 妙に人だかりができているな」
俺たちはノエルの視線の先を見る。少し離れた広場に人が集まっていた。その奥では立派な建物のバルコニーに、男が立って何かを話している。男はひと際豪華な装いだ。金の装飾が光に反射しているので、遠目からでもわかった。
「ねえアスカ、あの人たちは何をしているのかな?」
「よくわからんが、何かの演説をしているようだ」
「見に行ってみますか?」
「どうせ本部に行くには、あの広場を通らなければならない。私たちも行ってみるとしよう」
俺たちは人だかりの一番後ろに立った。徐々に演説の内容が聞こえてくる。
「……であるからして、モンスターの討伐は全て修道会の人間が行うべきである! 冒険者とギルドについては、今後本格的に排斥していくことを検討している! 現在、ダグードに命じて冒険者排斥部隊を組織させているところだ!」
「「「そうだそうだ! 冒険者はいなくなれー!」」」
バルコニーの男が叫ぶように言っている。聴衆も大きな声で賛同していた。ほとんど修道会の騎士隊みたいだが、貴族も何人かいる。
「どうやら、冒険者の排斥運動についての演説みたいだな」
「うわぁ、嫌なところに来ちゃったね」
「聞いていて、気分が良いとはとても言えません」
ナディアとティルーは、揃ってしかめっ面をしていた。ノエルはバルコニーの男を見ながら言う。
「中央にいるあいつは、ゴヨーク・カヨブイクだ。ルトロイヤで一番の大貴族で、修道会の教皇でもある」
「あいつが教皇なのか。しかし、貴族がトップだとは俺も知らなかったな」
「修道会の教皇は世襲制なんだ」
「世襲って代々親子で引き継いでいく、ってことだよね? あの人も修道会の騎士なの?」
ナディアは小柄なので、背伸びしながら見ている。
「いや、ただの欲深い貴族だ。そんな奴が騎士隊のトップなのはおかしいと、私はずっと思っている。いずれ、この仕組みを変えていきたいな」
とそこで、周りにいる貴族たちの話し声が聞こえてきた。
「冒険者がいなくなると困るんだよなぁ。まだ欲しい品が届いていないってのに」
「あぁ、修道会の騎士隊はモンスターの素材とか売ったりしないからな」
「きっとゴヨーク様は欲しい物なんか、もう全て持っているんだろう。だから冒険者の排斥なんて考えが生まれてくるんだよ」
貴族の中には、冒険者の排斥に反対の者もいるようだ。そしてあのゴヨークという男が、冒険者の排斥を扇動しているらしい。しかし、貴族たちは自分の物欲を満たすことしか、興味がないのだろうか。
「冒険者への風当たりが強くなったのは、あいつが原因みたいだ。まさか教皇自らが仕向けているとはな」
「私も王都に来るまでは知らなかった。これは少々厄介なことになりそうだ」
俺たちは人だかりから離れた。それとは別に、気になったことをノエルに聞く。
「ところで、奴が言っていたダグードとは、あのダグード・サチニイノか?」
「あぁ、そうだ。さすがアスカだ、良く知っているな」
「ねえ、ちょっと、私たちも話に混ぜてよ」
「情報の共有は大切なことです」
ナディアとティルーは、少し怒りながら言ってきた。確かに、除け者にされて嬉しい奴なんていない。
「あぁ、すまない。王国騎士修道会には四聖と呼ばれる、四人の大剣士がいてな。そのうちの一人が、ダグード・サチニイノと言う男なんだ」
「「へえ~」」
四聖は冒険者で言うと、全員Sランククラスの腕前だ。もしかしたら、それより上かもしれない。実績もあるので、国民からの信頼も厚い。そんな奴が排斥運動の筆頭になると、冒険者の立場はかなり危うくなるだろう。
「しかし、なぜこんなに冒険者を排斥したがるのだ。彼らが完全にいなくなっては、モンスターの討伐がより大変になってしまうと私は思うのだが」
ノエルは顎に手をあてて、しきりに考えていた。
「ねえ、そんな計画は早く辞めさせるように言ってこようよ」
「このままでは私たちも、冒険者でいれなくなっちゃいます。“魔王”討伐どころじゃなくなりますよ」
ナディアたちは慌てていた。俺も焦る気持ちはよくわかる。
「いや、待つんだ。あれはただの演説だ。話の内容だと、まだ正式に決まったわけではないのだろう。冒険者の印象を悪くするようなことは、避けた方が良い」
「アスカの言う通りだ。修道会の人間全てが、ゴヨークに賛成しているわけではない。さすがに教皇と言えど、内部の意見をまとめる必要がある。多少なりとも時間はあるはずだ」
ノエルの言葉を聞くと、二人はホッとしたようだ。
「そうだね、まずは情報を集めていかなきゃ」
「アスカさんは、いつも冷静で頼りになります」
「とりあえず本部に行って、Sランクの申請をしてみよう。ハードヘッドからの推薦状もあるから、追い返されるようなことはないだろう」
「それでは、私は魔剣の修理に行ってくる。もちろん排斥運動についての情報も、できるだけ集めてくる。また後で落ち合おう」
俺たちは修道会の本部へ、ノエルは魔剣の修理へ向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます