第39話:宴と内情

「「「この度は本っっっっっっっ当に、申し訳ございませんでした!!!」」」


ハードヘッドを筆頭に、騎士隊がもう何度目かわからない謝罪をしてきた。後ろの方ではノエルが腕を組み、彼らをきつくにらみつけている。今宵、勝利を祝う盛大な宴が開かれていた。俺たちはゴイニアを救った偉大なパーティーということで、ひときわ大きなテーブルに座らされている。


「いや、だからもういいって」


「もう怒ってないよ」


「お願いですから、みなさん頭をあげてください」


何回言っても、彼らは謝罪と感謝の言葉を繰り返す。そして、すでにたくさんの食べ物に囲まれているというのに、次々と肉や酒が運ばれてきた。


「アスカ様方にそう言って頂けますと、私どもも救われる思いでございます。さ、ゴイニアで一番上等なぶどう酒でございますよ」


ハードヘッドが、ぶどう酒をなみなみと注いでいく。


「いや、俺は酒はあまり……」


「まぁまぁ、そう言わずに。それでは、アスカ様方への感謝と我らの勝利を祝おう!かんぱーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!」


「「「かんぱーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!」」」


カチカチ、カチーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!


乾杯が済んだ瞬間、続々と騎士隊が俺たちの周りに集まってきた。全員、満面の笑顔だ。


「アスカ様方のおかげで、ゴイニアは救われました!感謝の言葉もありません!」


「一人も死者が出なかったのは、まさしく奇跡です!」


「私が今日この場にいるのも、全てはあなた方のおかげでございます!一生をかけて恩返しいたします!」


カウパリーネンやラチッタの時もそうだったが、こういうことはなかなか慣れないものだ。そして、さっきからナディアとティルーは、静かに一点を見つめている。視線の先を追うと、ノエルがいた。そうか、あの二人はノエルと初めて会う。俺が紹介した方が良さそうだ。


「ノエル、ちょっと来てくれ。この二人は、俺が一緒に旅をしている仲間だ。こっちがナディアで、こっちがティルー。見ての通り、ナディアは猫人族でティルーはウンディーネの娘だ」


「は、初めまして、ナディア・ロウ……です」


「私はティルーと申します。よろしくお願いいたします」


「ノエル・ダレンバートだ。よろしく」


三人は握手を交わした。しかし、どことなくぎこちない感じがする。まぁ、初対面だから仕方ないか。そして、なぜかノエルは俺のことをキッとにらんできた。もしかして、紹介するタイミングが悪かったか?乾杯した直後は良くなかったかもしれない。とそこで、俺はゴイニアへ来た時に感じたことを、ハードヘッドに聞いた。


「ゴイニアではいつも冒険者に厳しいのか?できれば、もう少し穏やかな態度で接してくれるとありがたいのだが……」


初めてこの街に来たときのことが思い出される。この先、また別の冒険者が来るかもしれない。今後のためにも、あのような騎士隊の態度は改めた方が良いだろう。


「本当に、大変申し訳ありませんでした。実はですね……最近修道会内で、冒険者と冒険者ギルドを排斥せよ、という動きが強くなっておりまして……。私たちもその風潮にのせられてしまったのです……」


ハードヘッドの話を聞いて、ノエルが俺の隣に座ってきた。


「私たちが、冒険者をあまり良く思っていないのは確かだ。私もそうだ。しかし、それは弱い冒険者や役に立っていないギルドに対してだ。冒険者そのものを嫌う傾向が、最近はより顕著になっているように感じる。アスカたちのような強い者だっていることは、修道会も良く知っているはずなのに」


「ふむ……それは気になるな」


確かに、あの時の騎士隊の対応はあまりにも過敏すぎる。しかし、それが上からの圧力ならば説明がついた。


「な、なぁ……アスカ。この際だから、冒険者を辞めてお前も修道会に入らないか?」


ノエルの言葉を聞いた途端、ハードヘッドや周りの騎士隊が色めきだつ。一方で、ナディアとティルーは急にそわそわし始めた。


「そうですよ!アスカ様が来てくれたら最高です!」


「私でよければ推薦状を書きますぞ!」


「冒険者辞めないよね、アスカ!?」


「一緒に旅が出来なくなるなんて、私は嫌ですよ!?」


みな、身を乗り出すようにして言ってきた。


「いや、そういってくれるのはありがたいのだが、遠慮しておこう。修道会に属するよりは、冒険者の方が動きやすいだろうからな」


「さようでございますか……。それは誠に残念ですが、アスカ様がそう仰るなら仕方ありません……」


ハードヘッドたちは、心底ガッカリしている。反対に、ナディアとティルーはホッとしているようだった。


「すまないな。ところで、Sランク冒険者になるには修道会へ申請する必要があると聞いたんだが、ここでも大丈夫か?」


「いいえ、王都にある修道会の本拠地じゃないと認められません。アスカ様方の実力は間違いなくSランクなのですが、ゴイニアはいかんせん辺境の拠点なので、そのような権限はないのです。私にできることと言ったら、それこそ推薦状を書くことくらいです」


「なるほど、そうだったのか」


ハードヘッドは、さらに説明を続ける。


「Sランク冒険者になるには、王都へ本人が直接行かなければなりません。どうでしょうか、この際一度王都に行ってみるというのは。ゴイニアの後始末についてはお任せください。私どもで何とかします。もう、アスカ様方に面倒をかけては申し訳ないので。そうだ!ついでに修道会の方も見学して……!」


ハードヘッドが興奮してしまったので、俺は制するように言った。


「なら、王都へ行くことにしよう。しかし、Dランク冒険者がいきなり訪ねたところで、相手にされるだろうか」


またゴイニアに来たときのように監禁されると、少々厄介だ。


「私が一緒に……行ってやってもいい」


俺の耳元で、ノエルの声がボソッと聞こえた。聞こえるか聞こえないくらいの、本当に小さな声だ。普段はもっとはきはきしているのに、不思議なこともある。


「でも、ノエルはゴイニアにいなくていいのか?」


「私もちょうど、王都に行く用事があったところだ。魔剣が折れてしまったからな、修理が必要だ。それに、王都で修道会がどのように動いているのか気になる。直接行って確かめた方が良さそうだ。いいよな?ハードヘッド」


「ま、まぁ、ノエルなら安心できるが、もうちょっと……ゴニョ……私のそばにいてくれても……ゴニョゴニョ」


「どうなんだ?」


ノエルは怖い声で言う。


「あ、はい、すみません、お願いします」


どうやら、決まったみたいだ。


「そうか、ノエルが来てくれるなら助かる。ナディアとティルーも、別に良いよな?」


俺はナディアたちの方を見て言う。


「うん……」


「まぁ、私は構いませんが……」


しかし、二人とも何だか歯切れ悪い。


「どうした?ノエルと一緒に行くのが嫌なのか?」


「「いや、別に嫌ってわけじゃ……」」


二人はうにゃうにゃしていた。しかも周りがうるさいので、何を言っているのかよくわからない。


「だから、何か言いたいことがあるならハッキリ……」


「…………アスカのバカ!!」


ズバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


「アスカさん、鈍感すぎです!!」


ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


どうしたわけか、ナディアに思いっきり切り裂かれ、ティルーに力いっぱい殴られた。一瞬で俺の体はボロボロになる。どちらも、凄まじいほどの一撃だった。


「で、では……少し忙しいが……早速、明日……出発……しよう」





出発は翌日ということになり、俺たちは寝室へ案内される。修道会が個々に部屋を用意してくれたようだ。


「それじゃあな。みんな、しっかり休めよ」


「おやすみ」


「おやすみなさい、みなさん」


「おやすみ、アスカ。ティルーとノエルもね」


互いにあいさつを交わし、部屋へ入る。俺も今夜はゆっくり休むとしよう。俺はベッドに潜り込むや否や、すぐさま眠ってしまった。

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