第38話:フード野郎(Side:ゴーマン⑫)

「おい、お前!サーブルグの遺跡にいた奴だよな!」


俺はフード野郎に、ズンズンと近づいていく。しかし、フード野郎は動こうともしなかった。いい度胸だ。こいつの正体を暴いてやる。


「ゴ、ゴーマン!?きゅ、急にどうした……のだ?」


「あいつが古代遺跡で、ガーディアン・ゴーレムを追い払ったんだよ。それも魔法の攻撃でな」


「え?対魔法石で作られているガーディアン・ゴーレムを!?」


バルバラが驚いた声を出した。こいつも<魔法使い>の端くれなので、それがいかに凄いことかわかったのだろう。いや、待てよ。フード野郎を仲間に入れるのもいいかもしれない。


「でも良くわからない人に近づくのは、危ないのではないでしょうか?」


「そ、そうだぞ。もし敵だったらどうするのだ?」


パーティーメンバーたちは怖気づいている。しかし、俺はこんな奴怖くも何ともなかった。


「素顔を見せやがれってんだ!」


俺はフード野郎の服を掴もうとする。


キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!


突然、耳をつんざく音がして体が動かなくなった。フード野郎が何かの魔法を発動したに違いない。


「なっ……か、体が……」


こんなに強い金縛りを喰らうのは初めてだ。全く身動きがとれない。


「こ、これは何なのですか!?」


「あたし、まだ死にたくないよ!」


「ゴ、ゴーマン!助けてくれ!」


パーティーメンバーたちも、口々に悲鳴を上げていた。


「ちくしょう……!てめえ!こんなことしてタダで済むと思うなよ!」


俺はフード野郎を睨みつける。仲間になる前から舐めた態度しやがって。


『まずは、礼儀を教える必要がありそうだナ。素材は良いのだから、しっかり育てれば使い物にはなりそうダ』


フード野郎はやけに甲高い声だった。


「素材ってどういうことだよ!使い物だって?人のことをバカにしてんのか!?」


『なに、こっちの話ダ。フフフフフ、それにバカにしてなどおらン』


太陽が出ているというのに、なぜか奴のフードの中は真っ暗だ。ここまで近寄っても、フード野郎の顔は見えない。だが、こいつはニヤニヤしていることが雰囲気でわかった。


「笑ってないで、さっさとこの魔法を解けよ」


『まぁ、そう慌てるナ。だが、そのままでは話しにくいだろウ。首から上だけ動けるようにしてやル』


奴の言うように、頭だけ動けるようになった。しかし、腕や脚は相変わらず動かない。そして、フード野郎はやけに落ち着き払っていた。それが特に薄気味悪い。


『アスカ・サザーランド』


「…………は?」


どうしてここで、あの無能アスカの名前が出てくる?そしてなぜこいつが、ゴミカスクズ無能アスカのことを知っているんだ?俺は疑問に感じた。しかし、フード野郎が次に言ったことで、そんなことはどうでもよくなった。


『今までお前たちが活躍できていたのは、アスカ・サザーランドのおかげだったみたいだナ』


その言葉を聞いて、俺の心は怒りでいっぱいになる。


「んなわけないだろうが!!なんでゴミクズアスカのおかげなんだよ!!」


『お前らはアスカ・サザーランドの活躍を、全く知らないみたいだから教えてやル』


「か、活躍だと?Dランクの<荷物持ち>がどう活躍するんだよ!あいつは図体がでかいだけの、ただの<荷物持ち>だぞ!」


さっきからフード野郎は、意味が分からないことを言ってくる。


『アスカ・サザーランドはお前たちと別れたあと、まずユタラティの街に行っタ。そこでレッドサイクロプスと、サイクロプスの群れを討伐したのダ。それも瞬殺ダ』


「ギャハハハハハハ!レッドサイクロプスってSランクモンスターだろ。なんでゴミクズアスカなんかに討伐できるんだよ」


Sランクモンスターとその群れの討伐なんて、それこそギルド中大騒ぎになるくらい凄いことだ。ゴミクズカスのバカアスカに、そんなことができるわけない。


『その後、奴はカウパリーネンに行っタ。そこで街を脅していたメデューサの上位種である、ハイ・メデューサを討伐したのダ。今カウパリーネンでは、アスカ・サザーランドを称える銅像が作られていル』


「そんなわけないだろうが!フード野郎、お前は相当なバカだったみたいだな!っていうか、ハイ・メデューサってなんだよ!?聞いたことねえよ、そんなモンスター!」


メデューサ自体、立派なSランクモンスターだ。Sランクモンスターの上位種なんて、いるはずがない。


『そしてラチッタの街に行った奴は、ウンディーネの聖泉に棲みついたヒュドラを討伐しタ。ラチッタとウンディーネの里では、アスカ・サザーランドを英雄として崇めていル』


「ハハハハハ!ヒュドラの討伐なんて、メンバー全員がSランク冒険者のパーティーじゃないと不可能に決まってるだろ!どうやったら、一人で討伐できるんだ!?」


俺は腹を抱えたいくらい笑っていた。体を動かせないのが残念だ。しかし、フード野郎は何も言わない。


「…………まさか、全部本当のことだって言うのかよ!?」


『ワタシがウソを吐く必要が、どこにあるのダ?』


古代遺跡で、ダンが言っていたことを思い出した。ゴミアスカがいなくなってから俺たちは……。


「い……いや、そんなことがあるわけないだろ。俺は信じないぞ!というか、お前は何者だよ!正体を見せろ!」


『フフフフフ、ワタシの正体をまだ見せるわけにはいかないナ。ところで、お前たちはこれからどうするのダ?』


「はぁ?そんなのお前に関係ないだろうが」


どうしてフード野郎は、そんなことを聞いてくる?俺には奴の考えていることが、全くわからない。


『資格が無ければ、冒険者として活動することはできないゾ?』


「んなこたぁ知ってんだよ!だから、こいつらと相談してたんだろうが!そうだよな、お前ら!」


俺は後ろを振り向いて言った。


「お……お願いします……命だけはお助けください」


「あたしは……まだ死にたくないです」


「た、頼む……殺さないでくれ」


パーティーメンバーたちは、ブルブル震えているだけだ。こんなんじゃ、この先冒険者としてやっていけない。


「お前ら、なにこんな奴にビビってるんだよ!」


『フフフフフ。どうやら、お前以外のメンバーは命の危機を感じ取れるみたいだナ』


「なんだと、てめえ!?クソッ、金縛りが解けたらぶっ殺してやる!」


体が動かせないのが、もどかしくてしょうがなかった。


『お前たちがこんな目にあったのも、全てアスカ・サザーランドが悪イ。……違うカ?』


フード野郎の言葉が、ストンと俺の心に入る。それを聞いて、不思議と胸のつかえがとれた気がした。何かから解放されたようで、とにかくスッキリする。


「……全てゴミアスカが悪い?」


『そうダ。アスカ・サザーランドは、今までお前たちをだましていタ。無能を装っていたのダ。一人になった途端、ここぞとばかりに実力を見せびらかし始めタ。何よりお前たちに、散々迷惑をかけていたではないカ』


「……俺たちをだましていた?……無能を装っていただと?」


『アスカ・サザーランドと過ごした日々を思い返してみロ』


今までの冒険が思い出されていく。あいつはいつまで経っても、戦闘中ボーっと立っているだけだった。いくら注意しても、「【呪い】のせいで、お前らとタイミングを合わせないといけない」だとか意味不明の口答えをしていた。


『Sランクモンスターを秒殺できるほどの力があったのに、ずっと何もしなかったなんておかしいだロ。お前たちをだます以外に、理由が考えられるカ?アスカ・サザーランドはお前たちを踏み台にして、成り上がるつもりダ。奴は自分のことしか考えていない、傲慢極まりない男なのダ』


そうか、俺の剣術やダンの装備とかに口出ししてきたのは、俺たちを混乱させるためだったのだ。こいつの言う通り、冒険者資格の剥奪などは全部クソアスカを追放してから起きたことだ。あの無能な<荷物持ち>は、あろうことかこのゴーマンをあざむいていたのだ。


『あのクソアスカめええええええええええええええええええええええええええ!!!!!絶対許さねえええええええええええええええええええええええええええ!!!!!』


「いやあああああああああああああああああああああ!」


「ぎゃあああああああああああああああああああああ!」


「うわあああああああああああああああああああああ!」


俺の咆哮が荒地に響く。そして、なぜかパーティーメンバーたちは悲鳴を上げていた。


『フフフフフ、そんなにカッカするナ。ワタシがアスカ・サザーランドに復讐する手伝いをしてやろウ』


『手伝い?なんでお前が俺たちの手伝いなんかするんだよ!?』


『なに、こっちの都合ダ。ワタシもアスカ・サザーランドには迷惑しているんでナ』


『知るか!お前の助けなんかいらねえ!ゴミアスカは俺たちで倒す!さっさと金縛りを解け!』


『アスカ・サザーランドは最低な男だが、実力だけは確かダ。トレントに殺されそうだったお前たちで勝てる相手カ?』


「そ、それは……」


あの時は俺の本気を出せていなかっただけだ。本当は俺はめちゃくちゃ強いはずだ。


『そのままでは返り討ちにされるだけダ。ワタシの元に来れば、今よりずっと強くしてやル。まぁ、逆らうようであればこのまま殺すだけだガ』


「……ぐっ」


悔しいが、ここは一度鍛え直してもいいかもしれない。俺は最強に強いのは確かだ。しかし、こいつの元でさらに力をつけて、確実にゴミアスカを葬るのもいい。


「わかった。お前の言うようにしよう」


金縛りの魔法が解け、体が自由になった。パーティーメンバーたちも一息ついている。


『フフフフフ、ワタシもムダな殺生をしなくて良かったゾ。ついてこイ』


俺はフード野郎の後を追う。


「ゴ、ゴーマンさん。本当にあの人についていくのですか?」


「危険じゃないか?」


「ねえ、逃げようよ」


メンバーのカスどもは尻込みしていた。


『逆らうんじゃねえ!お前らは黙って俺の言うことを聞いてりゃ良いんだよ!』


「「「ご、ごめんなさいいいいいいいいいいいいいいいいい!」」」


俺は荒地の中を、力強く歩いていく。見てろよ、無能のゴミクズアスカ。俺をだましていた代償は大きいぞ。絶対にブッ殺してやる。

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