第31話:魔法牢

「おらっ!さっさと歩け!俺たちは忙しいんだよ!お前らポンコツ冒険者と違ってな!」


「ちょっと、押さないでよ!」


「危ないじゃないですか!」


俺たちは騎士団に連れられ、街の外れまで来ていた。ゴイニアは街を囲むように城壁がある。修道会の本部もこの辺りにあるようだ。城壁の外は荒地で、モンスターがちらほらと見える。


「こいつらから武器を取り上げろ!ギルドカードも忘れるなよ!」


「抵抗するんじゃねえぞ!」


まるで強盗のように、俺たちの装備や荷物を奪い取った。どうしてこんなに、冒険者を敵視しているのだろうか。


「へっ!こいつDランクかよ……って、Cランクから降格されてるじゃねえか!ギャハハハハハ!図体だけでかい無能め!」


「やっぱり冒険者なんて、役立たずの集団なんだな!」


彼らは俺のギルドカードを見て、腹を抱えて笑っている。すると奥から一人の男が、騎士団を引き連れてやってきた。武器は持っていないが、立派な身なりをしている。見るからに頭が固そうだ。一目でこの拠点のリーダーだとわかった。


「私はここで拠点長をしている、ハードヘッドという者だ。フンッ、部下たちの言う通りだな。巨人のような大男に猫人族の幼女、ウンディーネの小娘とは……。これほどまでに怪しさ極まる冒険者どもは、私も見るのは初めてだ」


「コ、コラー!誰が幼女よ!私はこれでも立派な……むぐっ!」


ナディアはハードヘッドに掴みかかろうとしたが、俺とティルーに取り押さえられる。


「ナディア、ここはおとなしくしておくんだ」


「少し様子を見ましょう」


俺は一歩踏み出して言った。この状況は、むしろ好都合だろう。


「拠点長がいるなら話が早い。すぐに伝えたいことがある。魔族四皇のヴァンパイア伯爵は知っているな?次の満月の夜に、伯爵が攻めてくるという情報を掴んだ。だから、すぐに戦闘の準備と住民の避難を……」


それを聞くと、ハードヘッドや騎士団は一瞬で静かになった。と思ったら、全員大声で笑い始めた。


「ハハハハハ!ヴァンパイア伯爵が攻めてくるって?ずっと姿を見せていない魔族四皇が?そんなことあるわけないだろうが!」


「何で今さら出てくるんだよ!証拠はあんのか、証拠は!」


「おいおいおい!苦しまぎれでも、もっとまともな嘘をついたらどうだ!」


騎士団の笑い声が響き渡る。ハードヘッドが笑いを堪えながら話してきた。息をするのも苦しそうな表情だ。


「クックックッ、お前は冒険者としては能無しらしいが、芸人としては才能があるようだ。こんなに笑ったのは久しぶりだぞ。いいか?私たちはお前のような冒険者の言うことは信じない。仮にお前の言うように伯爵が攻めてきたところで、我らの敵ではない」


「いや、自信を持つのは結構なんだが、油断していると全滅しかねないぞ!」


俺は必死に説得する。相手のヴァンパイア伯爵は魔族四皇だ。何をしてくるかわからない。


「ええい!修道会に向かって無礼な奴だ!こいつらを魔法牢へ閉じ込めておけ!哨戒部隊が帰還しだい、修道会議にかける!」


ハードヘッドが叫ぶと、騎士団は俺たちを連行していく。


「なんで牢屋に入れられないといけないのよ!」


「私たちは何もしてないじゃないですか!」


「うるせえ、この冒険者ども!ハードヘッド様の言う通りにしやがれ!」


そして騎士団は、俺たちをそのまま牢屋に押し込んでしまった。


ドガッ!ガシャン!


「だから痛いって!」


「押さないでください!」


俺たちを牢屋に入れると、騎士団はご満悦といった表情をしている。


「これは魔法牢だ。修道会が必死になって造り上げた最強の牢だ。絶対に中から開けることはできない。魔法を完全に封じ込める力があるぞ。ウンディーネに魔法を使われたら厄介だからな。だからといって、力で無理矢理突破しようとするなよ。そんなことをすれば強力な電撃が襲い掛かる。疑いが晴れるまで、ずっとそこにいるんだな。ハッ、死刑にならないことを祈っておけ!」


騎士団は言うだけ言うと、さっさと出て行こうとする。俺は牢屋の中から、必死に呼びかけた。


「頼む、聞いてくれ!次の満月の夜、本当にヴァンパイア伯爵が攻めてくるんだ!すぐに対策を……!」


しかし騎士団は立ち止まると、一斉に笑い出した。


「さっきもハードヘッド様がおっしゃっただろ!俺たちはお前らなんかの言うことは信用しねえんだよ!仮にヴァンパイア伯爵が現れようが、俺たちの敵じゃねえしな!安心しろ!そんな時はさすがに牢屋から出してやるよ!」


ギャハハハ!と笑いながら、騎士団は行ってしまった。


「牢屋に閉じ込められるなんて聞いてないよ……」


「まさか、こんなことになるとは……」


「ここまでの対応は、正直言って予想外だったな」


ナディアとティルーは牢の中で呆然としている。諦めるしかないといった感じだ。


「魔法牢の強さは私も知っています……アスカさん……私はもはや無力です……くぅっ……せっかくアスカさんの役に立てると思ったのにっ……!きっと死ぬまでこのままですわ」


「アスカ……もうだめだよ……くぅっ……今度こそは力になりたかったのにっ……!あいつら絶対ここから出してくれないよ」


二人とも人生が終わってしまったかのような、絶望的な表情をしている。


「こうなったら、せめて……アスカさんのためにこの身を……!」


突然、ティルーがズンズンと近づいてきた。何かの覚悟を決めたような顔をしている。


「ちょっとティルー!またちゃっかり……!」


「いや、別にここから出るのは簡単なんだがな」


俺は取っ組み合っている二人を眺めながら言った。しかし、こいつらは本当に仲が良いな。


「簡単って、アスカさん!あの魔法牢ですよ!魔法の攻撃は絶対に通しません!」


「剣だって取られちゃったよ!」


「いやだから、魔法も剣もだめなら素手でぶち破ればいいだろ。奴らは電撃がどうのとか言っていたが、それこそ防御系の魔法を使えば問題ない」


基礎訓練も死ぬほどやってきたから、力には自信がある。しかし俺の言葉を聞くと、二人とも黙ってしまった。さっきの一件を思い出し、少しずつ怖くなってくる。


「な、何か変なことを言ったか?」


「すっごーーーーーーーい!やっぱりアスカはすごい人だよ!」


「さすがはアスカさんです!」


「だが、今ここで魔法牢を突破するのは良くないと思う。奴らは俺たちのことを、完全に疑っているからな。仕方がない、満月の夜を待つか」


時が来れば、ヴァンパイア伯爵が本当に攻めてくるかはっきりするはずだ。

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