第24話:無能な<荷物持ち>の言葉(Side:ゴーマン⑧)

「に、に、に、逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


俺たちはカトリーナを抱え、一目散に走りだした。天井につぶされて死ぬなんて、まっぴらごめんだ。


「これはきっと、遺跡の罠に違いないって!」


「ゴーマンが罠を起動させちまったんだ!何やってんだ!」


「し、仕方ねえだろ!そんなのわからねえよ!」


全速力で走りながらも、こいつらは俺のことを責めてきやがる。ちくしょうめ!だが、今は逃げ切ることを考えろ!


「おい、お前ら!あそこに見えるのは出口じゃねえのか!?」


回廊の奥に小さな光が見えた。遠目でよく見えないが、大きな広間があるようだ。遺跡の中は暗いのに、なぜそこだけ明かりがあるのかはわからない。しかし、考えている暇はない。


「なに、あれ!?」


「俺が知るわけないだろ!一か八かあそこに飛び込むしかねえ!」


「みんな、あと少しだ!がんばれ!」


俺たちは光に向かって飛び込んだ。


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


ドタッと大きな広間に出たと同時に、すぐ後ろで回廊の天井が地面まで落ちた。


「あ、危なかった……ゼェ、ハァ……死ぬかと思ったぜ」


「まさに間一髪だったな」


「ねえ!カトリーナがやばいよ!」


カトリーナの顔が真っ青になっている。激しく動いたから、毒が一気に回ってしまったらしい。


「カトリーナ大丈夫か!?しっかりしろ!」


「ぐっ……く、苦しい……」


早く毒を消さないと、遺跡の調査どころじゃない。Cランクモンスターの毒攻撃だったから、何とか持っているだけだ。周りを良く見てみると、壺やら箱やらがたくさん置いてある。


「もしかしたら、どこかに毒消しアイテムがあるかもしれねえぞ!壺や箱の中を探すんだ!時間がねえから壊して探せ!」


「よ、よしわかった!」


「カトリーナ、待ってて!」


ドガ!ガシャッ!バリーン!


俺たちは手当たり次第に壺や箱を破壊した。しかし、壊せど壊せど中からは何も出てこない。


「ちくしょう!何も入ってないじゃねえかよ!」


「こんなことしてるより、早く外に出た方がいいんじゃないの!?」


バルバラに言われ、俺はハッとした。そうだ、ここで毒消しアイテムを探すより、出口を見つけて脱出した方が良いじゃないか。……って、おい。


「それじゃ逃げたことになるだろ!この遺跡調査をクリアして、念願のSランク冒険者になるんじゃなかったのか!?」


「そ、それはそうだけど……」


「だが、ゴーマン。このままじゃ、カトリーナの状態が悪くなる一方だぞ」


何だこのざまは。どうして、最強最高のゴーマン様のパーティーがこんなに手こずっているんだ。おかしいじゃないか。


「そもそも、お前らが弱いからこんなことになってるんだろ!」


メンバーどもに向かって怒鳴る。俺はもう怒りが抑えられなかった。


「バルバラ!なんでCランクモンスターごとき倒せないんだよ!ヤボクの森の時もそうだったよな!ダン、お前もだよ!どうしてお前はいつも攻撃を外すんだ!カトリーナ!お前はパーティーの回復役だろ!もっと丈夫そうな服を着ろってんだ!この役立たずのゴミどもが!」


足を引っ張りまくっているクソザコのクズメンバーを、思いっきり罵倒する。シーンと静まり返った。へっ、反省しているようだ。まぁ、俺も寛大だから心の底から謝るなら、許してやらないこともないがな。


「……ちょっと、ゴーマン!どういう意味よ!?」


「ゴーマン、いい加減にしろ!」


「うっ……さすがに……ゴミと言われるのは心外です……」


なんだこのゴミメンバーどもは!この期に及んでまだ反抗してきやがる。その横柄な態度が、さらに俺をイライラさせた。


「てめえら、口答えしてんじゃねえ!そんなんだからいつまでもAランクなんだよ!」


「ゴーマンだって、何の役にも立ってないじゃない!」


は?俺はこのパーティーで唯一の、超絶強いSランク冒険者様だぞ。むしろ、俺が一番パーティーに貢献しているだろ。


「お前がマミーを最初に倒せていれば、こんなことにはならなかったんじゃないのか!?」


俺のせいにしようとするな!俺は全く悪くないんだぞ!


「ゴーマンさんは……いつも仲間を責め立てるだけですよね……」


さっきからこいつらは、いったい何を言っているんだ?どう考えても、お前らが悪いだろうが。


「人のせいにしてんじゃねえよ!」


「「「こっちのセリフだ!!」」」


バルバラ、ダン、そしてカトリーナは、憎しみがこもったような目で見てきた。俺はこの目を前にも見たことがある。そ、そうだ、ハージマリのギルドで冒険者どもに追い出された時だ。背筋が冷たくなるのを感じる。


「な、なんだよ」


「リーダーのくせに、なんだお前は!こんなに仲間を尊重しない奴を、俺は見たことがないぞ!」


「あんたって本当に最低!」


「ゴーマンさん……あなたには心底幻滅しました……」


どうして俺が、こんなに悪く言われなきゃいけないんだよ!ふざけんな!


ズシン……!ズシン……!!ズシン……!!!


怒鳴り返そうとしたとき、広間が小さく揺れ出した。奥から何かが近づいてきている。暗くてよく見えないが、気配だけでとんでもない強さだとわかった。ぶわっと額から汗が噴き出る。


「お、おい、何かくるぞ」


『……命知らずな冒険者どもよ。……今さら何の用だ』


ガガガガ、ガーディアン・ゴーレムじゃねえかよ。鎧に身を包んだゴーレムだ。めちゃくちゃ高難易度のダンジョンなどにしか出現しない、正真正銘のSランクモンスターだ。この遺跡はそんなにヤバイところだったのか。いや、待て。おそらくこいつが、この遺跡の主だ。こいつさえ倒せば、クリアしたも同然だ。


「ガーディアン・ゴーレムじゃん!?さすがに、ヤバイって!?」


「この状況で勝てる相手ではないぞ!」


「落ち着け!きっとこいつが、この遺跡の主に違いねえ!全力で倒すぞ!」


『……私は主ではない。……この遺跡の主は、もっと高貴なお方だ。……いや、正確には主だった方か。……まぁ、これから死ぬ人間には意味のないことだがな』


ガーディアン・ゴーレムは人間くらいの大きさだが、その分素早く動いて攻撃してくる。おまけに対魔法の石で作られているので、防御力も強いときた。だが、全員でかかれば倒せない相手じゃないはずだ。


「お前ら、気合いれろ!」


ドガアアアアアアアアアアアアアアア!!


「ぐわあああああああああああああああああ!」


いきなりガーディアン・ゴーレムに体当たりされ、反対側の壁まで吹っ飛んだ。ま、まるで動きが見えなかった。俺は硬い壁に激突する。


「が……あ……」


「大丈夫か!?ゴーマン!?」


大丈夫なわけないだろ!体中痛くてしょうがねえよ!


「まずはこいつの動きを止めるわ!《フリーズ》!あれ、どうして発動しないの!?《フリーズ》!」


バルバラが必死になって呪文を唱える。しかし、ガーディアン・ゴーレムの動きが止まるような気配は全くない。


『……そんな低レベルの魔法も使えないくせに、よくもまあこの遺跡に忍び込もうとしたものだ』


またこれだ!こいつはどうして魔法が使えないんだ!


「ふざけるのも大概にしろよ!バルバラ!」


「ゴーマン!やっぱりおかしいと思わないか!?」


ダンが大声で言ってきた。


「ああ!?何がおかしいんだよ!?」


「アスカを追放してからバルバラは《ファイヤーボール》以外使えなくなったし、カトリーナはすぐバテるし、俺もお前も攻撃が全然当たらなくなったじゃないか!」


何を言い出すんだこいつは。頭がおかしくなったのか?とその時、ゴミカスクズの無能アスカの言葉を思い出した。そ、そういや、あいつを追放したとき何か言っていたな。


(いや、すでに何度も言ったはずなんだが、俺はお前らの攻撃に合わせて敵を倒し、その合間に仲間を回復させていたんだぞ)

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