第22話:原因

「助けて、とはどういうことだ?」


「何か困っていることでもあるの?」


俺たちが問いかけると、ティルーはおずおずと話してきた。


「じ、実は私どもは今、冒険者の方々に討伐されそうになっているのです……」


討伐?なぜ、ウンディーネが?いったい何があったのだ。


「ふむ、詳しく聞かせてくれないか」


俺たちはティルーの前に座る。彼女はゆっくりと話し始めた。


「あなた方は“魔水”という存在をご存知でしょうか?」


む、魔水か。


「まみず?私は知らないなぁ。アスカは聞いたことある?」


「魔水とは、モンスターに汚染された水のことだ。作物などは育たなくなり、人間が飲むと体調が悪くなる。おそらく、お前たち猫人族にとっても害があるだろう」


「ここ、ラチッタの街の近くに我々の聖地があるのですが、最近になってSランクモンスターのヒュドラが棲みついてしまったのです。ヒュドラは体から毒を出し、とても大事な聖泉を侵してしまいました。その聖泉はこの街の水源でもあるので、魔水が運河にまで流れてしまって……」


そうだったのか、それで街の運河が汚れているわけか。水がこんなに汚れてしまっては、ラチッタの人々は生活に困っているだろう。


「ねえ、アスカ。ヒュドラってどんなモンスターなの?」


「9つの首を持つ、とても巨大な蛇だ。そのうち8本の首は切られると、さらに2つの首が生えてくるらしい。そして吸い込んだだけで死ぬような、恐ろしい猛毒も吐いてくると聞いたことがあるな」


「ひえええええ、つよそー」


ナディアは両手で肩を押さえて震えている。


「しかし、それがなぜウンディーネの討伐に繋がるんだ?」


「うん、ヒュドラを倒しに行けばいいんじゃないの?」


ここの冒険者ギルドの規模なら、Sランクモンスターのヒュドラとはいえ討伐不可能ではないはずだ。それに、ウンディーネと古くから交流があれば、聖泉にも案内してもらえるだろうに。


「しかし、どういうわけか街の人たちは、魔水の原因が私どもウンディーネだと思っているらしいのです」


なるほど、そういうことか。それで、ギルドの雰囲気がやたらとピリピリしていたのか。彼らも冷静に考えれば、ウンディーネのはずがないとわかるとは思うが……。ラチッタの人々も余裕がないのかもしれん。


「それは、少々厄介なことになっているな」


「もちろん、ウンディーネは魔水なんか作りません。むしろ水が汚れていれば、私たちも弱っていきます。そのせいで、未だにヒュドラを追い払うこともできないのです」


やつれているように見えたのは、魔水で弱っていたからか。本来ならウンディーネの水の魔法は、Sランクモンスターに匹敵するくらい強い。


「冒険者ギルドでも、ウンディーネの討伐計画が立てられているようでして。そこで、まだ動ける私が誤解を解くために、街まで降りてきたのですが上手くいかず……」


「ふむ」


「そこで大変無礼だとは思うのですが、お二人の腕を拝見してぜひとも助けて頂きたいのです。お願いいたします、私どもの代わりにヒュドラを討伐してください。ヒュドラのせいだと分かれば、冒険者たちもウンディーネを討伐しようとは思わないはずです。もちろん、お礼は十分にさせていただきます。何卒お願いいたします」


ティルーは地面に頭をこすりつけるようにして頼んでくる。それほどまでに低姿勢で頼む必要はどこにもないのだが。


「わかった、ヒュドラを討伐しよう。ギルドへ説明に行くより、討伐したヒュドラを見せたほうが良いだろう。そして、そんなに地面に頭をこすりつけるな。それと十分なお礼などいらん」


「いいよ、アスカがいれば絶対勝てるからね」


しごくあっさりと了承した。全く大したことないお願いだからだな。そして、ナディアはまたドンッ!と胸を張っている。しかし、なぜだかティルーは気が抜けたような、ぼんやりした顔をしていた。


「それで、ウンディーネの聖地とやらはどこにあるんだ?」


俺が問いかけると、ティルーはようやく返事をした。


「え?はっ、はい!私が案内いたします!そ、それとこんな危険な依頼を引き受けてくださり、本当にありがとうございます!」


「だから、地面に頭をこすりつけんでいい。それに、俺にとっては危険でも何でもないぞ」


「ティルー、もう歩ける?私、肩でも貸そうか?」


「うっうっうっ、あなた方のような素晴らしい人に出会えたことを神に感謝しなければなりません。うっうっうっ」


ティルーは嗚咽をあげながら泣いている。別に泣くほどのことでもないと思うのだが……。うーむ、ギルドでウンディーネの討伐計画が考えられているのか。これは少し急いだ方が良いかもしれないな。

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