第21話:古代遺跡(Side:ゴーマン⑦)

「やっぱり遺跡っていうくらいですから、中は暗くてちょっと怖いですね」


俺たちはすでに、人目を盗んで古代遺跡の中に侵入していた。できるパーティーは、行動力もケタ違いなのだ。今は回廊のような道を奥に進んでいる。


「バルバラさん、暗いので少し明るくしてくれませんか?」


カトリーナの言うように、遺跡の中は暗くて視界が悪い。まぁ、バルバラが何とかしてくれるだろう。


「オッケー。《ライト》!……あれ?《ライト》!」


しかし、回廊は一向に明るくならない。何やってんだよ、こいつは。


「おい、バルバラァ。またかよ。ふざけるのもいい加減にしてくれよ」


「べ、別にふざけてなんかないって。もういいや、《ファイアーボール》!」


ボオオオオオオオオオオ!


バルバラが指先に小さな火の玉を作る。火に照らされて、辺りが良く見えるようになった。


「おおっ!明るくなったぞ!」


「さすがはバルバラさんです!」


なんかこいつ魔法が下手になってきてないか?まぁ、明るくなったからとりあえずはいいか。しばらく歩いていると、開けた場所に出てきた。


「みんな、広場みたいなところに出たぞ。ゴーマン、財宝はここにあるのか?」


ダンが鼻息荒く言ってくる。汚い鼻息が、フンフンと俺の顔にあたった。あまり近寄るなよ、不愉快でしょうがないうえに気持ち悪いだろ。


「あのなぁ、こんなすぐに財宝が出てくるわけないだろうが。財宝なんてもんはな、もっとずっとずっと奥にあるのがお決まりなんだよ」


「あっ、ゴーマンさん。奥の壁に何か絵みたいなものが描かれてます」


「ん?ほんとだ。なんだろうな」


「ねえ、ちょっと見てみようよ!」


バルバラが壁にかかっているたいまつに火をともす。広場はいっきに明るくなった。奥へ行くと、壁面全体に大きな絵が描かれているのがわかる。抽象画っぽい描き方なので、何の絵かはわかりにくい。


「へえ~、これは立派なもんだな」


「真ん中の絵は巨大な人間のようにも見えますね」


カトリーナの言うように、絵の中央には巨人のような生き物が立っている。


「何だか気持ち悪い絵だ、早く財宝を見つけに行こう」


ダンはさっきから財宝、財宝とうるさい。くそっ、少し焚き付けすぎたか。


「そうだよ、財宝見つけなきゃ」


「こんな絵を見ている場合ではありません」


いつの間にか、遺跡に来た目的が財宝の探索になっている。財宝だけ持って行っても、クエストクリアにはならないってのに。これではまるで盗賊だ。


「わかったわかった。そう先を急ぐなって。それと、財宝を見つけるのは二の次だからな。俺たちの目的は、あくまでも……」


ヒュンッ!グサアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


「ぎゃああああああああああああああ!」


何かが飛んできて、俺の肩に思いっきり突き刺さった。ものすごい激痛が走る。


「いってえええええええええええええええ!」


あまりの痛さに倒れそうになるが、俺は必死に堪えた。肩に手をやると、ナイフが刺さっている。血がダラダラ垂れてきた。


「ど、どうしたんだゴーマン!?」


「どうしたじゃねえよ!おい!何かいるぞ!」


「みんな!あそこ見て!」


広場の片隅に、ユラユラと揺れている人影が見える。まずい、ギルドの連中に嗅ぎつけられたか!?


「ちくしょう!あいつがナイフを投げてきたんだ!隠れてないで、さっさと出てこい!」


人影が姿を現す。それは包帯にくるまれた人間だった。何てことはない、ただのマミーだ。Cランクのザコモンスターだった。


『ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛!』


「なんだよ、マミーかよ。驚かせやがってよぉ」


こんなゴミザコなら、手負いでも十分すぎる。むしろ、ちょうどいいハンデだ。


「せっかくだから、お前が投げてきたナイフで相手してやるよ。ほらこいよ」


ヒラヒラとナイフを見せびらかして挑発する。俺は剣術の天才だから、すでに全く隙のない完全に完成された構えをしていた。


「ゴーマンさん!回復してからの方が!」


「ヘッ、こんなザコ、このままで平気だよ。ほれほれどうした…………がはああああああああああああああ!」


ドゴオ!


マミーの拳が俺のみぞおちに食い込む。な、なぜだぁ。完璧な構えのはずだろぉ。


「かっ、かはっ……い、息が……」


「このぉぉぉ!喰らえ!《ファイヤーボール》!!」


ドガアアアアアアアアアン!


あぶねえ、バルバラが助太刀に来てくれた。マミーは炎系の魔法が弱点だ。バルバラの《ファイヤーボール》ならひとたまりも……。


『ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


直撃したはずなのに、マミーは少し包帯が焼け焦げただけだ。いや、ほとんど無傷といえる。


「おい、バルバラ!なんでこいつ、死んでねえんだよ!この役立たず!」


「し、知らないって!あ、あたしが聞きたいわよ!っていうか、役立たずってどういう意味!」


「二人とも待て、喧嘩は後にしろ!こいつは俺がやる!カトリーナはゴーマンを回復させるんだ!」


あわや殴り合いとなったとき、すかさずダンが出てきた。さすが、パーティーきっての冷静さだ。


「《オール・キュア》」


キュウウウウウウウウウウウウウウウン!


あっという間に肩の傷が消えていく。わざわざ最強クラスの回復魔法で治してくれるなんて、カトリーナは俺のことが好きなんだろうなぁ。クックックッ、このクエストをクリアした暁には……。


ブンッ!ブンッ!ブウン!


「それ!えい!はあああああああああああああああああ!」


ダンは斧でマミーに斬りかかる。しかし、勢いだけで全く攻撃が当たっていない。なんだよ、こいつは!


「ダン!何やってんだ!全然攻撃が当たってないぞ!」


「そ、そんなこと言ったって……!」


「きゃあ!」


ダンがのろのろしているせいで、マミーの一撃がカトリーナに当たった。


「大丈夫か!?カトリーナ!」


「え、ええ……ぐっ……」


ドサッとカトリーナが倒れる。くそっ、マミーの毒攻撃だ。


「いったん逃げるぞ!あそこの道に飛び込め!」


俺たちは大慌てで、別の回廊に逃げ込んだ。マミーは目標を見失ったのか、追って来なかった。


「ふうっ、助かったぁ~」


バルバラが安心したように言う。あのままじゃパーティー全滅してたかもな……っておい。


「Cランクモンスターごときになんだよ、あのざまは!お前ら本当に元Aランクか!いい加減にしろ!」


俺はバルバラとダンに怒鳴りつけた。


「はあ!?ゴーマンだって死にそうになってたじゃん!?」


「お前こそ本当に元Sランク冒険者か!?」


こいつら!言わせておけば!


「ぐっ……うっ……」


カトリーナのうめき声が聞こえた。そうだ、早く毒を消さないと。


「まずはカトリーナの毒消しが先だ。お前ら、毒消しポーションは持ってきてるよな?」


「「……持ってきてない」」


「はぁ?なんで持ってきてねえだよ!」


「ゴーマンは持ってきたの!?」


「い、いや、俺も……」


「お前はいつも他人を責めるが、お前はどうなんだ!?」


二人に詰め寄られ、俺はジリジリと後ずさる。


「と、とりあえず……早く外に……」


辛そうにカトリーナが言った。そうだ、まずは外に出ないと。


ガコッ!


足を踏み出した瞬間、いきなり床板が沈んだ。


「うおっ!んだよ、あぶねーな!」


俺は思わず転びそうになってしまった。良く見ると案の定、床板の一部が沈んでいる。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


突然、聞いたこともないような地響きが鳴り始める。しかも遺跡全体が揺れているようで、パラパラと粉が降ってきた。


「ちょ、ちょっとなに!?」


「おい、ゴーマン!お前何したんだ!」


「し、知らねえよ!」


まさか、このまま遺跡は崩れるのか!?おいおいおい、どうすんだ!?俺はまだ死にたくねえよ!?


「み、皆さん……あれを見てください……」


カトリーナが回廊の天井を指さす。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


何ということだ。俺たちを押しつぶそうと、じわじわ天井が迫ってきている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る