第20話:新たなギルド(Side:ゴーマン⑥)

「お、お前ら、もうすぐサーブルグの街に着くぞ!」


ハージマリの街でギルドから追い出された俺たちは、新しい街に向かっていた。サーブルグはレンブルク王国の国境近くだが、そこそこ大きな街だ。冒険者としてやり直すのに悪くはない。


「Dランクにされるとか、マジ最悪なんだけど」


「ゴーマン、お前がこんなにできない奴だとは思わなかったぞ」


「もうこのパーティーを抜けようかしら……?」


しかし、パーティーメンバーはずっと俺のことを責めてきている。


「だから悪かったって。終わっちまったことはしょうがねぇだろ。そんなにいつまでも責めないでくれよ。それに俺たちの実力なら、またすぐにランクを駆け上がっていけるって。というか、むしろランクが元通りになったりしてな!」


「そんなわけないじゃん」


「いい加減にしろ」


「ゴーマンさん、バカにもほどがありますよ」


俺は雰囲気を明るくしようとしたのに、こいつらはネチネチと文句を言ってくる。おまけにバカとか言われて、俺は怒鳴りそうになったが必死に我慢した。ここでパーティーが崩壊したら全てが終わってしまう。やがて、サーブルグの街に着いた。冒険者ギルドはすぐそこにある。新しい冒険者生活の始まりだ。


「よ、よぉしっ、さっそくギルドに行くぞ!まずは冒険者の登録だ!」


俺はギルドの奥にいる受付嬢へ歩いていく。フンっ、元Sランク冒険者様のお通りだ!


「冒険者の登録を頼む!」


ドンッ!とメンバー全員のギルドカードを出した。ハッハッハッ!Sランクなんて見たことないだろう!こいつの驚く顔が、簡単に目に浮かぶぜ!


「はい、かしこまりました。ええと、ゴーマン・エレファンテさん、<勇者>でランクが…………SランクからDランクへ降格ですって!?他の方々もAランクからDランク!?いったいあなたたちは、何をしたんですか!そんな危ない方々は登録できませんよ!」


受付嬢が大きな声で叫んだ。とても驚いた顔をしている。周りの冒険者どもも、いっせいにこちらに注目した。しめしめ……っておい。


「登録てきないって、どういうことだよ!冒険者登録するのがお前の仕事だろうが!」


登録できないと聞いて、他のメンバーたちも食ってかかる。


「ちょっと待ってくれ!どうして登録できないのだ!?」


「そんなことは聞いたことがないですよ!」


「それじゃ冒険者できないじゃん!」


思わず全員で、机の上に身体を乗り出した。受付嬢は引き気味に話してくる。おいっ、そんな目で見るんじゃねえ!


「で、ですから、他の冒険者の方々と住民の皆さんの安全のため、危険そうな経歴の方は登録できないんですよ!」


危険そうな経歴と言われて、めちゃくちゃに腹が立った。俺は受付嬢に掴みかかる。


「てめえ!ふざけやがって!」


「ひいいいいいいいいいいいいい!お、お助けを!し、支配人んんんんんんん!」


受付嬢が騒いでいると、見るからにギルドの支配人といった男が出てきた。


「私は支配人のシリアスだ。何の騒ぎかね?」


「おい!この受付嬢を今すぐ辞めさせろ!俺たちを冒険者登録しないとか言ってるんだよ!」


「ふむ、ギルドカードを見せなさい」


俺はシリアスとかいう男に、ギルドカードを突き出す。ハッ、Sランク冒険者様のギルドカードだ。ありがたく見やがれ。


「君たちは、噂の勇者パーティーだな。君たちがクエストを失敗したせいで、ハージマリのギルドは取り潰しにされるみたいじゃないか。そんな危険人物を、この街で冒険者として登録するわけにはいかんな。すぐに立ち去ってくれ」


ギルドの取り潰しと聞いて、周りの冒険者どもがコソコソと話し始めた。俺たちのことを、盗み見るようにチラチラ見ている。


「ふざけんな!この野郎!俺はエレファンテ家のゴーマンだぞ!」


「貴族の出身ともあろうものが、この態度とは。まるでチンピラだ。恥ずかしくないのかね?」


「チンピラだとぉ、言わせておけば!」


俺が叫んでいると、冒険者どもの話し声が聞こえてきた。


「あいつら、トレントに負けたとかいうAランクパーティーだろ?何しに来たんだよ」


「中でもリーダーが一番のポンコツとか。Sランクなんて嘘だったんだな」


「あいつ、エレファンテ家の出身なんだって。貴族のくせに冒険者なんかやるなって、誰か言ってやれよ」


「「「ハハハハハハハハハハ!」」」


ギルド中に笑い声が響く。ち……ちくしょう!シリアスが勝ち誇ったように言ってきた。


「どうやら、ここでも君たちは厄介者のようだ。さあ、出てってくれ」


「おい、ゴーマンどうする!?」


「どうにかしてよぉ!リーダーなんだから!」


「何か言い返してくださいよ!」


とそこで、俺はクエスト掲示板のある依頼が目に入った。賢い俺の頭に、ある名案が思い浮かぶ。これだ!


「みんな、この人たちの言う通りだ。ここで冒険者をやるのは諦めよう」


俺はあっさりと引き下がることにした。


「え?おい、ゴーマン」


「あたし、ずっとDランクのままは嫌だよ」


「ここで冒険者できなくてもいいのですか?」


当然のようにメンバーたちはしぶる。しかし、俺はグイグイと無理やり出口に追いやっていった。


「いやぁ、すまなかった。安心してくれ、すぐにいなくなるから。じゃあな」


予想以上にあっけなかったからか、シリウスや冒険者どもはポカンとしている。ギルドから離れたところにくると、メンバーたちはいきり立った。


「これからどうするんだ!?」


「何ですんなり引き下がるのよ!」


「あっさりしすぎじゃありませんか!?」


俺は冷静に手をかざして落ちつかせる。


「お前ら、クエスト掲示板は見たか?」


皆、一様に首を横に振る。こういうところがSランクとAランクの違いなんだよなぁ。


「この街では、最近古代遺跡が出土したらしい。王国から直接依頼されたSランクのクエストが出ていたんだよ。古代遺跡の調査兼モンスター討伐って内容でな」


「すまん、お前は何が言いたいのだ?」


「何を言ってるの?ゴーマン」


「私もゴーマンさんのおっしゃっている意味がよくわかりませんわ」


俺は得意げにチッチッチッ、と指を振った。しかし、相変わらずメンバーは要領を得ない顔をしている。まったく、これだからAランク冒険者は。


「だから、誰かがやる前に俺たちでクリアしちまうんだよ」


しかし、メンバーたちは俺の提案にすぐには乗ってこない。Sランククエストと聞いて尻込みしている。スワンプドラゴンのクエスト失敗が、頭に残っているようだ。


「さすがに勝手に行っちゃうのはまずいんじゃない?」


「クリアしちまえばこっちのもんだよ!」


「そもそも登録もできないんじゃクエストの受注すら不可能だろう?」


「そんなもんはただの形式上の手続きだ!」


「古代遺跡っていうくらいだから、強いモンスターがたくさんいるんじゃないですか?」


「モンスターっていっても、どうせ大したことはねえって!」


ここまで言っても、こいつらはもじもじしている。だめだ、すっかり自信をなくしている。だが、問題ない。俺には魔法の言葉がある。


「……お前らSランクになりたくねえのか?」


Sランクと聞いて、メンバーたちは急に顔を上げた。


「「「Sランク……!」」」


全員恍惚とした表情をしている。クックックッ、わかりやすい奴らだ。もう一押しだな。


「このクエストをクリアすれば、絶対Sランクになれるはずだ!なんてったって、王国からの依頼なんだからな!」


「で、でもそういうクエストは修道会がやるんじゃないの?なんでギルドに依頼が来てるの?」


バルバラが余計なことを言ってきた。黙って聞いとけや。


「この近くに修道会はないんだよ。魔族や盗賊に荒らされる前に、早く調査したいってことなんだろ」


俺は適当なことを言ってごまかした。


「それに遺跡には財宝だってあるかもしれないぞ!さすがに全部は無理かもしれないが、少しくらい分け前をもらってもいいはずだ!」


「「「財宝……!」」」


途端に、三人とも瞳が輝き出す。


「こ、古代遺跡の財宝って何があるんですかね」


「どうしよう、あたし急に楽しみになってきちゃった」


「良く考えると、遺跡の調査なんてなかなかお目にかかれるクエストじゃないぞ」


さっきまで乗り気じゃなかったくせに、皆急にワイワイと話し始めた。財宝をもらったら何を買うかまで話を進めている。ここまで来たらもう大丈夫だな。


「Sランク冒険者になれて、おまけに財宝までもらえる。こんなにおいしい話が他にあるか!?」


「「「いや……ない!」」」


満場一致で、俺たちは古代遺跡の調査に行くことになった。メンバーを上手くまとめるなんて、やっぱり俺は超絶優秀なリーダーだぜ!ハッハッハッ!

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