第17話:ラチッタの街へ

「さて、このままラチッタの街に行くぞ。“水の都”と呼ばれているくらいだから、人の流れも盛んなはずだ。今度は“魔王”に繋がりそうな情報があればいいのだが……」


“魔王”がどこにいるのかは、まだ誰も知らない。俺の父と母でさえ、居場所は突き止められなかった。ちなみに、父と母はすでに冒険者を引退して、今は田舎で健康に暮らしている。


「アスカは、前にもパーティーを組んでいたの?」


歩きながらナディアが聞いてきた。そういえば、まだお互いのことをしっかり話していなかったな。


「お前と出会う前は、ハージマリの街でパーティーを組んでいた。まぁ、あれがパーティーと言えるかはわからんが」


ナディアと出会う前の出来事を思い出す。ゴーマン達は、ちゃんとクエストをクリアできているのだろうか?まさか、ザコモンスターにも苦戦してるんじゃないだろうな?


「お、女の人もパーティーにいたの?」


「そりゃいるに決まってるだろ。世の中の半分は女なんだぞ。そうだな、<魔法使い>や<神官>のメンバーは女だったな」


冒険者パーティーに女がいるのは、至って普通のことなんだが。


「フ、フーン。その人達とは、な……仲が良かったの?」


さっきから、ナディアが質問攻めしてくるのはなぜだ?そんなに俺が組んでいたパーティーが気になるのだろうか。バルバラとカトリーナの顔を思い出す。結局、あいつらに褒められたことは一度もなかった。


「いや、仲が良いと思ったことは全くない。いつも罵倒されているばかりだったしな」


「ヘ、ヘェー、そうなんだね。……良かったぁ」


俺がそう答えると、なぜかナディアは嬉しそうにしている。いや、俺は罵倒されてて良かったとは思わないが?


ガサッ!ガサガサッ!


『グウウウウウウウウウウッ!』


とそのとき、森の中からモンスターが現れた。Cランクモンスターのコボルドだ。手には小さなナイフを持っていた。おそらく、冒険者か旅人からでも奪ったのだろう。こいつは魔法は使えないが、刃物の扱いには長けている。低ランクだからと油断して、返り討ちにあう冒険者が多いのだ。


「アスカ!モ、モンスター!」


「落ち着け、ナディア。こいつはコボルド、ただのCランクモンスターだ。ちょっと待ってろ、今討伐するから」


コボルドは威嚇しながら、こちらの様子を伺っている。


「ま、待ってアスカ!私に討伐させて!」


俺がコボルドに向かおうとしたとき、ナディアが言った。


「いつまでもアスカに守られてちゃだめだから。少しでも強くならないと!」


ナディアが真剣な表情でコボルドを見ている。俺もかつては、こんな表情でモンスターを見ていたのだろうか。


「……そうだな。じゃあこのコボルドは、ナディアに任せるとしよう。武器は持っているか?」


「一応、短剣なら持ってるよ」


ナディアは短剣を見せてきた。しかし、これは護身用に近い。モンスターを倒すなら、もっとしっかりした武器が必要だ。


「これでは短すぎるな、俺の剣を使え。少し重いかもしれないが、扱いにくいことはないはずだ」


俺はナディアに自分の剣を渡す。万人向けの形だから、ナディアでも十分使えるだろう。


「あ、ありがとう、アスカ」


ナディアは剣を受け取ると、コボルドの正面に立つ。


『グウウウウウウウウウウッ!』


「いいか、ナディア!お前は目が良い!コボルトの動きを良く見て、カウンターを狙うつもりで攻撃するんだ!ただし、相手は低ランクといえ、いっぱしのモンスターだ!決して油断するんじゃないぞ!」


「わ、わかった!」


『ガウウウウウウウウウウウッ!』


コボルドがナディアに飛びかかった。手に持っているナイフで切りつけるつもりだ。ナディアはナイフで切られる直前、コボルドの攻撃をヒラリとかわす。


「えいっ!」


ズバアアアアア!


『ガアアアアア!』


ナディアは一撃でコボルドの首を切り落とした。ドサッとコボルドの体が地面に倒れる。ふむ、猫人族は運動神経が高いらしいが、本当だったようだ。


「や、やった!倒したよ、アスカ!」


「よくやったぞ、ナディア」


「アスカの剣のおかげだよ!ありがとう!いま返すからね、あっ!」


パキーンッ!


ナディアから俺の剣を受け取ろうとしたとき、刀身が折れてしまった。


「うそっ、け、剣が折れちゃった!ご、ごめんなさい!ど、どうしよう!?」


剣を見てみると、見事に真ん中で真っ二つに折れている。


「気にするな、ナディア。どうせ、今までの戦いでひびでも入っていたんだろう。この剣は適当な武器屋で買った、Dランクの安物だったからな。もともと、丈夫な作りじゃなかったんだ」


俺はどこぞの勇者と違って、剣や装備にはこだわらない主義だ。自分の技術を極めぬいていれば、Dランクの武器でSランクモンスターも倒せる。ただ、剣を持っていないとギルドで怪しまれるから持ってただけだ。まぁ、いざとなれば魔法で剣を作り出せばいいだけだが。


「ご、ごめんなさい、アスカ」


気にするな、と言ったのにナディアはシュンとしている。


「まぁ、剣なんてまた買えばいい。それより、今の感覚を忘れないようにしろよ」


「うん……ありがとう、アスカ」


ナディアはポーッと俺の方を見ている。そして、また何となく頬が赤くなっていた。うーむ、コボルドとの戦いで疲れたのだろうか?


「よし、それじゃあ旅を続けるか。…………おい、ナディア、なに突っ立てるんだ?置いていくぞ」


「ご、ごめんっ、いま行く!置いて行かないで!」


ナディアは慌てて追いかけてくる。そんなに慌てんでも、置いていくはずないだろうが。

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