第11話:会敵メデューサ
「あそこがカミラの言っていた洞窟……なんだか薄気味悪いところだね」
「陰気な場所だな。よくもまあ、こんなところを見つけたものだ」
俺たちは、メデューサの住処だという洞窟に来ていた。カウパリーネンからは、少ししか離れていない。
「アスカ、作戦はどうするの?相手はメデューサだから注意しないとね」
「普通に正面突破する予定だぞ」
「しょ、正面突破!?」
ナディアの目がまん丸に見開いている。そんなつもりはなかったが、少々驚かしてしまったらしい。
「さすがに石化対策はしていくがな」
「なんだ、びっくりさせないでよ、もう!」
怒ったナディアがポコポコ殴ってくる。
「すまんすまん。よしっ、ナディア、そこに立ってくれ」
俺は心の中で魔法を念じた。
――《カース・インバリエイト・アーマー》。
ブウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン。
ナディアの体を、薄い緑色の光が覆う。
「えっ、なに!?どうしたの!?」
「心配するな。それはあらゆる魔法攻撃や、呪いを無効化する魔法の鎧だ。メデューサの石化は呪いの類だからな。この魔法がちょうど良いだろう。たとえ、相手が上位種だろうが問題ない」
もちろん、俺の体にも発動させている。
「す、すごっ!こんな魔法使える人はなかなかいないんじゃないの?」
「あぁ、このレベルの魔法を使える冒険者は、間違いなくSランクだろうな。それでも長ったらしい呪文詠唱が必要だから、使い勝手はあまり良くない魔法なんだが」
「そういえば、アスカは魔法を使うとき呪文を唱えたりしないよね」
「いつからだったか、念じるだけで魔法は発動できるようになったなぁ」
「すごすぎて、私はもうわけがわからないよ……」
「さて雑談はほどほどにして、そろそろメデューサ退治に行くか。ナディアは俺の後についてこい」
「う、うん、わかった!……緊張する~」
俺たちは洞窟に足を踏み入れた。中はひんやりとしていて、薄暗い。歩くたびに足音が響いた。そしてさっきから、ナディアは俺の服の裾を掴んでいる。歩きにくいのだが?
「うううう、これじゃ暗くてどこからメデューサが出てくるかわからないよぉ」
「そうだな、少し明るくするか」
《ライト・オール・リュミエール》。
俺が念じた途端、洞窟の中全体が明るくなった。まるで昼間のようだ。ナディアはあっけにとられたように、辺りを見回している。
「ぜ、全然少しじゃない……」
「まぁ、とりあえずはこれくらいで十分だろう」
「あっ、あそこに誰かいるよ!?」
柱の後ろに人影が見えた。逃げ遅れた冒険者かもしれない。
「行くぞ、ナディア!」
俺たちは人影に向かって走り出す。
「大丈夫ですか?って、うわ!ア、アスカこれって!」
「……む。これは石にされた人だ」
人だと思ったそれは、人間の石像だった。周りを見ると、同じような石像がたくさんある。剣を持った像や、杖を持った像もあった。メデューサの討伐に来た、カウパリーネンの冒険者たちに違いない。
「カミラの言う通り、冒険者たちは残らず石にされてしまったようだな」
「石にされちゃった人は、もう元に戻らないの?」
「いいや、斬り落としたメデューサの魔眼を当てれば、あるいは……」
突然、背後に何者かの気配を感じた。この感じはSランクモンスターだ。十中八九メデューサだな。
『わらわの領地を汚すものは誰だ』
「ひえああああああ!で、出たああああ!」
思ったとおり、洞窟の奥からメデューサが歩いて来た。頭に生えている蛇の数が、一般的なものよりずっと多い。やっぱり、こいつは上位種のハイ・メデューサだ。
『魔法を発動したのはお前か。見たところ、洞窟内全てを照らしておるな。たいしたものよ』
「お前がカウパリーネンの人たちに、ちょっかいを出しているメデューサだな。みんなお前に迷惑しているぞ」
『ハッ!お前などに迷惑と言われる筋合いはない。人間どもはわらわのために生きていれば良いのだ』
「ふ、ふざけないで!あなたのせいで、みんな苦しんでいるんだよ!」
『ほお、そこにいるのは猫人族だな。これは珍しい。ちょうど人間の石像ばかりで飽きてきたところだ』
「ひいいいいいいいい!」
メデューサがギロリとナディアを見る。魔力の感じから、まだ魔眼は使っていないらしい。
『わらわは生まれ持った才能が違うのだ!他のメデューサは目を合わせんと石化できないが、わらわは違う!魔眼を使えば見るだけで、お前らなど石にできるのだ!』
メデューサが両目を閉じた。魔力の流れから力を溜めていることがわかる。
「ど、どうしよう、アスカ!?」
「別にどうってことはない。じっとしていろ」
メデューサが目を見開いた。その両目が真っ赤に光っている。
『お前たちも私のコレクションの一部にしてやる!くらえ!!』
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
しかし、俺もナディアも石になる様子は全くない。それを見て、メデューサは感心したように言ってきた。
『ほお、どうやら呪いを無効化する魔法を使っているらしい。我が魔眼を防ぐとはな。このレベルの魔法が使える奴は、今までいなかったぞ。お前、相当な術者だな』
「そうか、ありがとう」
『だが、そんな魔法を維持するには魔力をかなり消耗するはずだ。しかも二人分だからな。クックックッ、いつまでもつか楽しみぞよ』
「あと念のため言っておくが、俺は特に魔力なんか使ってないからな」
『バカを言うな!魔力を使わずに魔法が発動できるか!このたわけ者!その減らず口を黙らしてやる!くらえ!』
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
メデューサの渾身の魔力が伝わってくる。しかし、当然のことながら俺もナディアも石になるようなことはない。
『フンッ!またしても防ぐとは。お前は魔力が豊富な人間のようだな』
「何度やっても同じことだぞ。というか、疲れてきているのはお前だろう。もう諦めたらどうだ」
ムダな魔力を使いすぎているのが良くわかった。俺が作り出した魔法の鎧を、無理に突破しようとしているからだ。
『黙らんか!ハァ、ハァ、くらえ!』
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ。
「いくらやっても同じことだ。お前の石化の呪いは、俺たちには通じない」
『ゲホッ、ま、まさか……こんなことが……!……あ、ありえない!……ありえんぞ!』
もはや、メデューサはひどく動揺している。全ての生き物を石に変えてきた魔眼が、俺たちには絶対に通用しないとわかってしまったからだ。メデューサはやけになったように叫ぶ。
『き、き、貴様は何者だ!』
「俺は通りすがりの冒険者だ。Dランクのな」
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