第5話:猫人族の少女
「わああああああああ!」
森の奥へ行くと、思ったとおりサイクロプスが冒険者パーティーを襲っていた。
「《サ、サンダーアロー!》《サンダーアロー!》ど、どうして効かないの!?」
サイクロプスは、魔法使いが放つ雷の矢をもろともせずに殴りかかる。
『ガアアアアアアアアアアアア!』
ふむ、剣では間合いが遠すぎるな。魔法で倒すか。
ドゴオオオオオオオオン!
『ギャアアアアアアアアアアアア!』
雷鳴のような音が轟き、サイクロプスの頭が一瞬で爆発する。何てことはない、俺が発動したのもただの《サンダーアロー》だ。しかし、鍛錬に鍛錬を重ねた《サンダーアロー》だがな。初級魔法も、極めぬけばこのくらいまでは強くなる。
「おい、大丈夫か!」
俺は冒険者たちに走り寄った。<剣士>や<魔法使い>と言った、典型的なパーティーメンバーだ。見たところ、大きなケガはしていないようだな。
「お、お前のせいでこんな目にあったんだからな!不吉な一族の末裔め!お、お前なんか入れるんじゃなかったぜ!クビだ!もうこのパーティーから出てけ!」
「そ、そうよ!あんたがサイクロプスなんか呼んできちゃったのよ!」
<剣士>と思われる男が、少し離れたところを指さして叫ぶ。そちらを見ると、これまた珍しいことに猫人族の少女がいた。猫人族とは辺境の地で静かに暮らしていると言われる一族で、人間界にはあまり出てこない。俺も実際に見たことがあるのは数えるほどだ。猫をそのまま人間にしたような見た目なので、忌み嫌う人間も少なからずいる。
「で、でも……そっちが入ってほしいって言ったんじゃん」
少女は俯きながら反論した。しかし悲しいのだろう、頭の上に生えている大きな耳が垂れ下がっている。
『グオオオオオオオオオオオ!』『ガアアアアアアアアアアアアア!』
そのとき、別のサイクロプスたちがゾロゾロと木の影から現れた。やはり、群れを作っているようだ。
「ひいいいいいいいいいいい!また出てきた!お、おい、お前はもうクビだからな!追いかけてくんじゃねえぞ!」
「そのデカブツにでも助けてもらいなさい!さあ、早く逃げなきゃ!」
そう言うと、彼らは森の出口へ向かって走りだす。だが、彼らが討伐したと思われるオークの頭だけは、しっかりと抱えていた。
「まぁ、気にするな。ああいう奴らは誰に対してもこんな態度を取るもんだ」
「……グスッ」
猫人族の少女は、グスグスと泣いていた。かなり傷ついてしまったんだろう。とは言え、まずは目の前のサイクロプスたちを何とかしなければならない。
「おい、悲しいのはわかるが泣くのは後にしろ。親玉の登場だ」
ヌッとサイクロプスたちの後ろから、レッドサイクロプスが出てきた。赤い体色で通常のサイクロプスより、一回り大きい体をしている。こいつが群れのリーダーで間違いない。
『オデタチ、ニンゲン、キライ、コロス』
Sランクともなれば、人語を話すモンスターもいる。と言っても、サイクロプスは元々の知能が低いからカタコトだ。
「ハハッ、嫌いだからって殺されちゃたまらんわな」
「あ、あの……」
猫耳少女が小さな声で話してきた。
「なんだ?」
「逃げなくていいの?」
よく見ると、かすかに震えている。確かにサイクロプスは凶暴な上に見た目も怖い。だが、もちろん逃げるという選択肢はない。
「いいや、ここで全て討伐する。逃げると確実に追いかけてくるからな。街の方に連れて行ってしまったら大変だろ」
『オマエラ、ヤレ』『ガアアアアアアアアアアアアアア!』
その一言で、何匹かのサイクロプスが突進してきた。すぐに、俺は猫耳少女を自分の後ろに追いやる。
「おい、お前!俺の後ろに隠れてろよ!」
「え?う、うんっ」
突っ込んでくるサイクロプスは3匹だ。フッ、わざわざ向こうから間合いに入ってきてくれるとはな。俺はサイクロプスたちが間合いに入った瞬間、剣を引き抜いた。
シュッ、ズバッ、ズバッ、ズバアアアアアッ!
『ガ……?』
3匹のサイクロプスの首が、一瞬で宙に浮く。奴らは何が起きたかすらわかってないだろう。ゴトゴトとサイクロプスの首が地面に落ちた。これにはさすがのサイクロプスたちも、少し怖気づいたようだ。
「す、すごい……!」
猫耳少女が俺の後ろでつぶやく。そうだ、念のため討伐している間は、この娘を防護魔法で守っておくか。まだ周辺に隠れている奴らがいるかもしれない。
「《エア・バリア》」
何をしているかわかりやすいように、あえて呪文を詠唱する。俺が猫耳少女に手をかざすと、彼女の周りの空気だけほんのりと青白く光った。
「こ、これはなに?」
「そいつは《エア・バリア》という防御魔法だ。要するに、空気の壁でお前を囲んで守っている。もちろん、強度は保証するぞ。討伐が終わるまで、その中でじっとしていてくれ」
よし、これで安心して討伐に専念できる。とりあえず、レッドサイクロプスは後回しだな。残りのサイクロプスは……全部で5匹か。これは通常ならば、Sランクパーティーが必要になるレベルの脅威だ。
「どうした、かかってこないのか?」
『オ……オマエラ……イ……イケ』
サイクロプスたちも覚悟を決めたようで、一斉に突っ込んできた。もちろん、無駄に長引かせるつもりなど全くない。まずは《サンダーボルト》で5匹全てのサイクロプスの体を吹き飛ばす。
ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
落雷のような音が響き渡り、サイクロプスたちは倒れる。残りはレッドサイクロプスのみだ。
『オ……オノレ、ニンゲン』
レッドサイクロプスが右腕を振り上げ、思いっきり殴りかかってきた。低ランクの冒険者では、一連の動作を見切ることすらできない速さだ。俺は最小限の動きでかわし、即座に首を切り落とした。
シュッ、ドサッ!
レッドサイクロプスの頭があっけなく地面に落ち、ズウウウンと胴体が倒れた。おそらく、あの猫耳少女にも俺たちの戦いは目で追えていないだろう。
「大丈夫だったか?ケガはないか?」
俺は《エア・バリア》を解きながら、猫耳少女に話しかけた。しかし、下を向いたまま反応がない。む、ショックで気絶してしまったか?
「……んんん!……すっごーーーーーーーーーーーーーーーい!」
いきなり、猫耳少女が思いっきり叫んだ。
「うおっ、なんだ、いきなりどうした」
「だってだって、あんなおっかないモンスターを一瞬で倒しちゃうんだもん!」
大きな青い目がキラキラと輝いている。どうやら、元気はもう回復したみたいだ。
「最後だって、あんなに速いパンチを避けてから剣で切るんだもん!びっくりしちゃった!」
「……お前、俺たちの戦いが見えていたのか?」
「まぁ、うっすらとだけどね」
む、この猫耳少女はなかなか、いや、かなり良い目を持っているな。レッドサイクロプスはまだしも、俺の太刀筋が見えるとは。
「そうだ、助けてくれてありがとう。わたしの名前はナディア・ロウ。あなたは?」
フッ、安っぽい小説なら、ここでどこかの王子なんかが登場するのだろう。しかし、あいにくとこれは現実だ。
「俺はアスカ・サザーランド。Dランクのしがない冒険者だ」
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