第4話:久しぶりのDランククエスト
予定より数日早く、俺はユタラティの街に着いた。
「思っていたより栄えている街だ。まずはギルドで冒険者登録をしないとな」
少し歩いていると、街の中心部に冒険者ギルドを見つけた。
「よっこいせっと」
いつものように、身をかがめるようにして入る。中に入ると、周りの冒険者たちが一斉にこっちを見た。この反応もいつものことだ。俺は今まで、自分より大きい人間を見たことがない。
「ちょっと、すまない。冒険者登録をしたいのだが」
奥のカウンターにいる受付嬢に話しかける。
「はい、ではギルドカードうおっ!」
受付嬢は俺を見ると、驚いた声を出した。別にそんなに驚くことはないだろうに、俺は突っ立ているだけだぞ。
「ギルドカードなら、ここにある」
俺は一枚の紙を受付嬢に渡す。
「ふむふむ、アスカ・サザーランドさん、18歳男性。前のギルドでは<荷物持ち>で……、おや?冒険者ランクが、CからDになってますね?」
「まぁ……ちょっと色々あってな。それと冒険者登録なんだが、<魔導剣士>として登録できないか?」
ゴーマン達との一件は説明が面倒なので、適当にごまかした。
「そうですか、色々ねぇ……。まぁ、今は人手不足だから、一応登録はしておきます。しかし、<魔導剣士>なんて聞いたことがありませんよ。<剣士>か<魔法使い>ではダメですか?」
受付嬢は怪訝な顔をしていたが、とりあえず登録はしてくれるようだ。
「そうか、それなら<剣士>で登録しといてくれ。もちろん、剣ならここに持っている」
基本的には、剣術と魔法はどちらか一方をマスターするので精一杯だ。両方できると認められるには、それなりの活躍が必要なんだろう。
「確かに剣は持っているみたいですね。わかりました、それでは<剣士>で登録しましたよ。クエストの依頼書はランク別に、そこの掲示板に張り出されてます。受注するときは自分の名前か、パーティーの名前を書いてください。くれぐれも、ここでは問題を起こさないでくださいね?わかりましたね?」
「了解した」
釘を刺してくる受付嬢から離れ、そのまま掲示板に行く。まずはクエストをいくつか受けてみるか。クエストを探そうとして、俺は自分の冒険者ランクを思い出した。
(そうだった、俺は今Dランクじゃないか)
クエストは自分のランク以下のものしか受けられない。
(Dランクのクエストか。さすがに簡単過ぎるな。どれどれ)
Dランクの欄を見ると、まだ受注されていないクエストがあった。“黒い森”に出現した、スライムの群れの討伐だ。
(スライムならば、それほど深くまで行かなくても見つかるだろう)
森やダンジョンなどに住んでいるモンスターは、ランク毎に生息エリアが分かれていることが多い。奥や下層階に行くほどモンスターのランクは上がり、強くなるのが定石だ。
(ついでに、他のクエストも眺めてみるか。……ふむ、モンスター討伐以外にも、薬草や果実の採取などが多いのか。やっぱり、クエストの内容は地域で変わるんだな。おっ)
俺と同じく、“黒い森”へモンスターの討伐に向かっているパーティーがある。Cランクモンスターであるオークの討伐だ。
(もしかしたら、クエスト中に出会うかもしれないな)
俺はさっそくスライム討伐に向かおうとしたが、掲示板の張り紙が目に入った。
(どうやら、何か注意喚起されているようだ)
『“黒い森”の深部にて、Sランクモンスターであるレッドサイクロプスの目撃情報あり!冒険者達は注意せよ!』
(ほぉ、レッドサイクロプスか)
こいつはAランクモンスターであるサイクロプスの上位種だ。サイクロプスはとても凶暴な性格をしている。人間はおろか、他の種族のモンスターも見かけただけで襲い掛かってくるくらいだ。そのため、よくギルドの討伐対象にされる。
(討伐依頼のクエストが出ていないということは、まだ人間に危害は加えていないな)
しかし、サイクロプスは群れを作ることもある。もしかしたら上位種をボスに、一つの群れを作っている可能性があった。
(スライムを倒したら、念のため少し奥まで行ってみるか)
俺はクエストを受注して、“黒い森”に向かう。
(しかしスライムの討伐なんて、一体何年ぶりだ)
最初にモンスターを討伐したときのことを思い出す。あの頃、俺は幼馴染のノエル・ダレンバートと二人で修行していた。
(お互い歳が近いこともあって、俺たちはいつも一緒にいたなぁ。あいつは昔から剣も魔法も上手かった。さすがはダレンバート家の出身だ。そういえば王国騎士修道会に入りたいと言っていたが、無事に入会できたのだろうか)
10歳の頃だ。あいつが王国騎士修道会に行くと言ったのは。俺は修行が足りないと思っていたから、そのまま両親の元に残ったが。そして、別れ際あいつはずっと泣いていた。
(この旅の途中で再会したりしてな。いや、そんなことあるわけないか。おっと、ここが“黒い森”か)
その名の通り木々の葉は黒っぽく、暗い雰囲気の森だ。しかし、この森で採れる果実やキノコはとても美味いらしい。そのため、人間だけでなくモンスターも集まるのだ。俺はさっさと森の中に進んでいく。少し歩くと、スライムがたくさん出てきた。
『ピギィ!ピギィ!ピ、ピギィ!』
サイクロプスに限らず、モンスターは基本的に凶暴だ。必ず向こうから仕掛けてくる。スライムが体を小さくしたかと思うと、反動を使って飛びかかってきた。
(やっぱり、どこに行ってもモンスターは攻撃的だ。よっと)
俺は一瞬で剣を抜き、空中を突く。剣で空気を突くことで、空気の塊をスライムにあてた。
シュッ!パァーン!
『ギィッ!』
スライムの体が瞬く間もなく破裂した。残骸がボトボト地面に落ちる。それを見ると、他のスライム達が一斉に襲い掛かってきた。
「まったく、逃げればいいものを」
シュッ!パパパパパパァーン!
『ピッ……ギィィィィィィィィィ!』
スライムの断末魔が響きわたり、無数の破片が落ちてくる。俺はきっちりスライムの数だけ空中を突いて、必要最小限の動きで全滅させた。
(この技を習得するのも苦労したな)
簡単そうにやってはいるが、これはSランククラスの技術だ。剣で空気の塊を猛スピードで飛ばして攻撃する、それは並大抵の努力ではできない。
(スライムの回収は後回しにして、もうちょっと奥まで行ってみるか)
森の奥へ歩いていくと、モンスターの死骸がそこかしこに散らばっていた。どれも頭を潰されたり体を引き裂かれたりと、見るも痛ましい光景だ。
(こいつはBランクモンスターのグリズリーだな。状態を見ると、おそらく即死か。このレベルのモンスターが一撃でやられるとは)
サイクロプスにやられたであろうことは、ほとんど確実だった。まだそれほど森の深い場所ではないが、思ったよりサイクロプスの行動範囲は広いのかもしれない。と、そのとき森の奥から叫び声が聞こえた。
『ガアアアアアアアアアアアアアア!』
「うわあああああ!サイクロプスだああああああ!」
「なんでこんなとこにAランクモンスターがいるのよ!」
「誰かー!助けてくれー!」
たぶんオークの討伐に出ているパーティーだ。Cランクパーティーでは、サイクロプスには勝ち目がないだろう。
「急がないとまずいな」
俺は叫び声が聞こえた方に、急いで走っていった。
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