第6話:旅の道連れ

とりあえず、俺とナディアは冒険者ギルドまで戻ってきた。


「まずはレッドサイクロプスと、その群れの討伐報告をしておこう」


「そうだね。他の人たちが怖がるといけないもんね」


討伐報告は、基本的にモンスターの頭を見せることが多い。


「ちょっと、すまない。レッドサイクロプスの討伐報告に来たのだが」


冒険者登録をしたときの受付嬢に話しかける。


「え?Sランクモンスターのレッドサイクロプスを?って、うおっ、アスカさん」


受付嬢はまた驚いた声を出した。だから、そんなに驚かなくてもいいだろうに。俺はレッドサイクロプスの頭を見せる。


「ほら、この通りだ。それとサイクロプスたちが群れを作っていたから、そいつらも討伐しておいたぞ。群れの討伐状況については、森の中を見てもらえればすぐにわかるはずだ。さすがに、全ての頭を一度に持ってくるのは大変だからな」


それに、ナディアを早く安全なところに連れてきたかった。


「アスカ・サザーランドさん?」


なぜか受付嬢は、冷たい目でこちらを見ている。


「そういえば、討伐依頼は出ていなくても報奨金とかは貰えるのか?」


確かに討伐依頼は出ていない。しかし、危険なSランクモンスターとその群れを討伐したのだ。少しくらい報酬を出しても、ギルドとしては問題ないだろう。


「アスカ・サザーランドさん?」


それにしても、なぜあんたはそんなに冷たい目で俺を見ているんだ?


「それと、Sランクモンスターを倒したんだから、俺の冒険者ランクも上がるよな?」


さすがにSランクとは言わない。だが、せめてBランクくらいにはしてほしいところだ。SランクモンスターとAランクモンスターの群れを討伐したのだからな。


「スライムは?」


「ん?スライム?」


なぜ今スライムの話題が出てくるんだ?俺が討伐に行ったのはレッドサイクロプスで………………って、しまったあああああああ!そうだったああああああ!スライムの討伐に行ったんだ!死体を回収するのを忘れていたあああああ!サイクロプスたちのことで頭がいっぱいになっていたからだ!


「死体がないということは、スライムの討伐はクエスト失敗ということでいいですね?この程度のクエストもクリアできないなんて、これから冒険者としてやってくのは厳しいですよ?このレッドサイクロプスの死体も、どうせ仲間割れかなんかでしょう。スライムも倒せないようなDランク冒険者が、倒せるわけないじゃないですか」


受付嬢が何の迷いもなく、クエスト失敗の印を押そうとする。失敗の印が多いと、冒険者ランクの昇格が遅くなってしまう。俺は早くSランク冒険者になりたい。クエストのランクが高いほど、その分“魔王”に近づけるはずだ。それに、世の中にはSランク冒険者でないと知ることができない情報もあるという。


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ。ちゃんとスライムも討伐したんだ。すぐに死体を回収して持ってくるから!」


俺は慌てて弁明する。ただでさえCランクからDランクに下げられているのだ。このままではSランク冒険者なんて、夢のまた夢になってしまう。


「仲間割れなんかじゃないもん!アスカはちゃんとモンスター倒したよ!」


そのとき、隣にいたナディアが受付嬢に向かって言った。受付嬢は目をぱちくりさせている。


「レッドサイクロプスも、サイクロプスの群れも本当に倒したんだよ!それも一瞬だったんだから!」


なぜかナディアは、ドンッ!と胸を張っている。そしてとても誇らしげだ。


「そちらにいるのはナディア・ロウさんですね?先ほどリーダーの方よりパーティーからの脱退届が出されましたが、これからは個人でクエストを受注しますか?」


「あっ、それは……」


受付嬢に言われると、ナディアはとたんにシュンとなってしまった。やはりショックが大きい出来事だったんだろう。大きな猫耳もぺタンと垂れ下がっている。


「……どうだナディア、俺とパーティーでも組むか?“魔王”討伐を目指しているから、楽しい旅とは言えないかもしれないが」


俺が言うと、ナディアはえ?という顔をした。


「で、でも私なんかと組んでてもいいことないよ。それにまた怖いモンスターを呼び寄せちゃったりしたら……」


どうやら、不吉な一族の末裔と言われたことが深い傷になってるようだな。無論、サイクロプスの出現とナディアは全くの無関係だ。


「なに、ちょうど旅の道連れが欲しかったところだ。それに、猫人族は不吉な一族でも何でもないぞ。俺は昔お前の一族に出会ったことがあるが、みんな礼儀正しい人達だったしな。もし仮にお前がモンスターを呼び寄せたとして、また秒殺してやるだけさ。ま、お前が嫌なら別に組む必要はないが」


旅の道連れが欲しいというのは、俺の正直な思いだ。一人で冒険していてもつまらんからな。それにナディアの目は、鍛えてさえやればこの先誰にも負けない武器になる。俺にはナディアの冒険者としての成長を見てみたいという気持ちもあった。


「わ……私もアスカと……その……一緒に旅がしたいな」


ナディアが伏し目がちに言う。よかった、どうやら嫌われてはいないようだな。しかし……ナディアの頬が何となく赤っぽい感じがするのだが、もしかして熱でもあるのか?


「そうか、なら決まりだな」


そう答えてから受付嬢の方を見ると、彼女の髪の毛がザワザワと逆立っている。今にもこちらに襲い掛かってきそうだ。


「どわあっ!ど、どうしたんだ!?」


「……イチャイチャしとんじゃねえぞ、この新米冒険者どもがぁ!ギルドは青春味わうところじゃねえんだよぉ!こちとら婚期を逃しそうなんじゃボケェ!わかったら、さっさとスライム持ってこいやあああああああああああああああああああ!」


「す、すまなかったあああああ!す、すぐ持ってくる!」


「ご、ごめんないいいいいい!」


俺たちは大慌てでギルドから出ていく。その後、急いでスライムの死体を持っていった。受付嬢はぶつくさ文句を言いながらも、クエスト成功の印と報奨金を渡してくれた。


結局レッドサイクロプスとその群れの討伐は、正式には認められなかった。モンスター同士の仲間割れだろう、という結論になったようだ。やはり、<荷物持ち>上がりのDランク<剣士>では、信憑性がなかったらしい。もちろん、冒険者ランクの昇格もお預けだ。


まぁ、人に危害が出なかっただけよしとするか。おかげで念願の旅の道連れもできたことだしな。しかし、受付嬢は俺とナディアの、いったい何が気に障ったんだ?

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