第2話 知らない天井→現状把握



知らない天井だ。


くぅ、期せずして

人生で一度は言ってみたい言葉

上位のあれを言ってしまった。


いや、言ってないか。

考えただけだったわ。


んで、この状況は?

さっきのは夢だったのか?


いや、違うからこその

この状況なんだろう。


むくりと起き上がる。



【おはようございます

 船長(マスター)】

おわっっっっ!!



び、びびった。

心臓飛び出るか思うたわ。


いや、何故に似非関西弁?


自分で突っ込む。

関西弁って格好いいし可愛いけど。


し、しかしこれは...


ゲームの起床エフェクトのAIでは?!


まじか、

という事は...ここはゲームの世界!?

鏡をばっ!と見る。


多少ラフなSF服に、

若干の灰色が混じった赤い髪。

ポニテでゆるくまとめており、

細い目には赤いアイシャドウっぽい

何かがペイントされてある。

玉のようなお肌に右の泣きホクロ。

パーカーに記された

アイコンの刺繍は紛れもなく...


俺がプレイしていたゲームのアバター、

朱弧であった。





「ひゃっふぅぅぅぅ!!」


おっといかん。

感情の赴くまま叫んでしまった。


すると、見るからにな

SFチックなこの素敵部屋は...


「ここってどこ?」

『はい、スペースオーシャン製

 ver.R1.2超大型母船最新型です』


やっぱり...!もう一回叫ぼうかな。













この母船は

ゲームならではの物理無視な代物だ。


ショップにでたばかりだったから、

期待度も性能も圧倒的だった。


ゲーム内通貨を貯めに貯めに

貯めまくって限界額まで貯まりきった時、

その時一番高い、

性能の良いやつを買おうと思ってた

矢先にこれが出てきたからな。


調整すらはいっていない

ぶっ壊れ性能だ。


母船でありながら

戦闘機並みの速度が出せる。


最大、各65機まで戦闘機や作業機

周辺搭乗機を収納可能。


攻撃・迎撃・防御用装備も万端。


しかし見た目には見えないように

内蔵してあるので、

見てくれもばっちり。


ワープ装置で購入したものは倉庫に直送。

その倉庫も容量は抜群だ。


武器庫も同じくらい広く、

俺の15年にわたる活動で得た

膨大な量の武器ですら、

入れてなお容量は十分あまりある。


そしてこれら全てを

自立AIで管理出来る。


勿論自動でも操縦出来る。

あくまで手動優先でだが。


うふふはははは、

我ながらクランメンバーに

自慢したい性能だ。



ま、クランメンバーはもう

いない訳だが...


ぷしゅーと開いたドアから廊下に出る。


おおお...


一々全てに感動してしまう。


ゲームの中では、

船の中は人工重力が設けられていて

普通に地球にいる時の様に

動く事が出来ていた。

ここの船内でもそうらしい。


廊下からコックピットに向かう。


基本的に一人で操縦出来る様にはなっている。


「〜んん...この船に、名前をつけなきゃだよな」


どうしようかな?


んむむ...むぅぅ...


ミネア...違う。ミナルーバ...これも違う。

ミネルヴァ。これでどうだ!!



たしか商業とか工芸とか

魔術の女神様だったはず。


「この船の名前は、ミネルヴァ。

 ミネルヴァ号だ。どうだ?」


【承りました、

 これよりこの船及び私の名前は

 ミネルヴァです。素敵な名前を

 ありがとうございます

 船長(マスター)】


相変わらずの

抑揚のない声で告げられる。


まぁでもうん、

かっこいいじゃないか。



船長席に座り、マップを開く。


【付近のマップが未作成です。

 空間を読み込みますか?】


「頼む」




数秒もすれば、広大なこの星のマップが

かなりの精度で出来上がっていた。


そりゃあ、宇宙を行き来するんだもの。


星一つ程度のマップ作成に分以上使っちゃ

絶対に欠陥だわな。



そして今述べた通りなのだが、

思っていた状況と違いここは...

宇宙ではなく空だった。




...「ハァァァァ!?!?」

ナンデ?ウチュウジャナイノナンデ!?


メインコックピットからの慟哭は

ミネルヴァの素晴らしい

防音・吸音機能によって

全く外に聞こえなかったという。











「うわぁー、

 完全に宇宙だと思ってた。

 まだ…それこそ

 大気すら出てなさそうな高度だったとは」


しかし、地球並みに豊かそうな星ではある。


マップを3Dにして周辺を確認すると、

山々が多いものの、海や湖、

森などと言ったものも

結構存在している。


文明があるという可能性も大きい。


あ、そうだ...

大切な質問は先に済ませておこう。


「ミネルヴァ、

 傭兵センターって近くにある?」

傭兵センターとは、

自前の宇宙装備を使って

宙族討伐や傭兵などの仕事を

請け負うための場所だ。


【類似機能をもつ施設が

 ちらほらとあるようですが、

 船長が望むものではないと

 僭越ながら愚考致します】


うーむ、やはりここは

ゲームの世界ではないのか?


【船長。少し補足があります。

 この次元の全宇宙に、

 宇宙船・又はそれに属する存在は

 全く確認出来ません】


えっっっっっっ。うっっっっっっそだろ。


【またこの星にある文明も、

 複雑な機械を作成出来る程の発達は

 遂げていない模様です】


お、おいよいよい。まじすか。


俺の夢見た傭兵ライフは

どこへいっちまったんだ...


コックピットから見える青い空と雲を眺める。


まっ、いいや。

宇宙船諸々を手に入れる事は

できてるんだし。

ある程度不都合があっても仕方ない。


ていうか、言うほど不都合じゃないし。


「んー...マップが使えてんだったら...

 ミネルヴァ。

 ショップとかカーゴルームとか、

 この船の機能は問題なく使えんの?」


【はい、勿論です。ただし一つだけ、

 センターや他機、

 《運営》に連絡を取る事が

 不可能となっております】


「うわぁ」


改めて確信したな。

ここはゲームの世界観じゃ

なかったってこった。


「今の備蓄はどうなってんの?」


【食料庫のリストがこちらです。

武器庫のリストがこちらです。

燃料及びエネルギー資源倉庫の

リストがこちらです。

搭乗機器のリストがこちらです】


食料は...うん、

ゲームやってた頃の内容と変わんない。


腹を満たすためだけの様な格安品から、

オーガニックや人工の食材達、

味に凝った高級品までピンキリだ。


カーゴに入れている限り、

賞味期限が存在しないので

下手すると五十年くらい食っていけそう。


因みに燃料類はゲーム内宇宙に

高濃度ガスで出来た星の星群や

超高密度のエネルギー液体に埋もれた

星々の銀河等。


そっから無限に取れるもんで、

ショップに行けばいつでも安価で

取り寄せできる。


最初は他のゲームしかり

もうちょい高めだったが

やる要素の多すぎるこのゲームで

スタミナ制にすると全く追いつかないから

プレイヤー達から

要望が殺到したんだってな。


しかしリアリティを追求するために

安くはあるが燃料制は続投したんだ。


あれだ、いつかの時代。


札束がおもちゃ扱いされてたやつ、

あれと同じだよ(全然違う)。


ただそれでもスラムの人間(NPC)

はないよりマシみたいで、

縋り付くように働いてた。


お陰で、ゲーム内通貨を

日本円に換算すると...

ミネルヴァのクソでかいタンク満タンで

150円くらいか。

それで買えたんだが...

いや改めてやっっっす。


だから容量ギリギリまで

燃料エネルギーは積んである。


でも不思議だな。

クランの自分専用倉庫に

入れてあったはずなのに。


ま、神様の心遣いという事でいいや。

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