五 『全国高校生異能力者バトル選手権』

「はあ、はあ……参りました。僕の負けです」


 冷たいリングに膝をつき、滴る汗を拭う。僕の敗北宣言を聞いて、両隣にいた審判が白い旗を上げる。


 勝敗は火を見るよりも明らかだった。完全に僕の負けだ。何だか不思議な気分だ。観客の歓声も悲鳴も、どこか遠いものに感じる。気が付いたら目の前に対戦相手の手が差し出されていた。僕は半ば呆然としたまま立ち上がった。


 こうして、僕の『全国高校生異能力者バトル選手権』は二回戦で幕を閉じた。僕自身、『不老不死』の能力を手に入れてからは負け知らずだったが、やはり上には上がいるものだ。


「いい戦いだったよ。ありがとう」

「いえ……こちらこそ」


 どこまでも爽やかな対戦相手だ。とても同じ高校生とは思えないほど、彼は落ち着いていた。


「君の『不老不死』、とても良かったよ。すごい能力だね」

「そんな……貴方の『未来予知』ほどじゃありませんよ。現に負けましたし」


 僕は肩をすくめた。実際、僕の攻撃はことごとく躱された。対して、『死なないけれども痛みを感じない訳ではない』という『不老不死』の弱点を突かれた僕は、彼の怒涛のラッシュに耐え切れず早々にリングに沈んでしまったのだ。


「そんなことないさ。どうだい?良かったら、今僕と『能力交換』しないか?」

「え?だって貴方は、これから三回戦、四回戦とあるじゃないですか!何もこんなところで……」

「『未来予知』程度じゃ不満かい?」

 僕は慌てて首を振った。

「とんでもない! むしろ最強クラスの能力じゃないですか! 手放すには惜しすぎますって!」

「いいじゃないか。『異能力交換』は、対戦相手を称える慣例だよ。僕は君の『不老不死』で必ずこの大会優勝してみせる。約束だ。僕の『未来予知』を受け取ってくれ」

「!」


 彼はそう言って『未来予知』を脱ぎ始めた。僕でいいのだろうか、なんて疑問もありつつも、僕も急いで『不老不死』を脱いだ。『能力交換』の際、もう一度がっちり握手を交わす。観客達の声援のボリュームが、突然大きくなった気がした。万雷の拍手に包まれながら、僕らはリングを後にした。





「伊地知相太くん。来年の夏、今度は決勝の舞台で会おう」

「は、はい!」


 そう言い残して、彼……いや、福島十太郎くんは颯爽と三回戦のリングへと姿を消した。悔しいけど、最後まで格好いいやつだ。負かされた相手だというのに、不思議と怒りは湧いてこない。むしろ彼のファンになったくらいで、応援するために急いで僕は試合会場へと向かった。


 会場はもちろん、熱気で包まれていた。次の福島くんの対戦相手、瑞穂さんの『時間停止』は今大会屈指の優勝候補だ。福島くんに戦略はあるのか? もしかしたらそれも加味した上で、僕に『能力交換』を持ちかけたのだろうか……。一体どんな試合になるのだろう。始まる前から観客はもちろん、僕もだいぶ興奮していた。


 そうだ! ちょっとだけ、さっき手に入れた『未来予知』を使ってみよう。

早速僕は『未来予知』を身につけ、これから訪れる未来を覗き込んだ。さすがに試合の結果まで見てしまうと興ざめなので、控えめに1分後の未来にしておく。やがて、僕の頭の中に鮮明なイメージが現れ始めた。これは……。


「……なんだこれ?」


 そこに写っていたのは、荒れ果てた試合会場だった。1分後、此処に巨大な大震災が発生し、僕らは皆崩壊したコンクリートの下敷きになって死んでいた。瓦礫の上に立っていたのは、『不老不死』の能力を持つ少年ただ一人……。

 

「ありがとう、『不老不死』のおかげで助かったよ」


 突然、イメージの中の彼がこちらを振り向いて、嬉しそうに唇を釣り上げた。僕が驚く間もなく、1分はすぐにやってきて……。

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