三 愛

 高校生になって、好きな人が三人できた。『本当の愛』っていうのは、この世で唯一つの『カケガエノナイモノ』だと言う。だから私はたった一人を愛する為に、二人を殺すことにした。誰を殺そうか。ベッドに寝転んでスマホをいじりながら、私は今までの人生で一番悩んだ。好きな人の事を考えるのって、楽しい。




 一人目は、同じ学年の男の子で、イケメン野球部の田中慶太君だ。慶太君はウチの学年でも一、二番を争う『人気枠』だ。とても情熱的な人で、夢想家で、いつも「俺は甲子園に行くんだ!」と豪語している。一年の頃は野球浸けで、恋愛など興味なさそうだったが、もう二年になるし、そろそろ彼も彼女とか欲しい年頃だろう。彼を狙ってる女子はたくさんいる。友人の美代子だってそうだ。




 二人目は、一年上の高田センパイ。細身で、長身で、インテリ眼鏡。大変頭が御宜しくて、全国模試でもトップテンに入ってるような秀才だ。東大を狙って、この夏も猛勉強している姿が何度も見受けられた。センパイは大変謙虚で、褒められると照れたように笑って「僕なんか大したことないよ」と言うのがお決まりだった。センパイを狙ってる女子はたくさんいる。友人の美代子だってそうだ。



 三人目は、同じクラスのマルオ。コイツだけは、未だに何故好きになったのか分からない。平面顔で、七三分けだし、頭も悪いし、筋肉もないし、ほんっとに良い所がない。性格も臆病で、よくへこへこしている。ただ同じ書道部に入ってて、隣の席だからよく愚痴を言っていただけなのに 。何故好きになってしまったのだろう。彼を狙ってる女子は一人もいない。友人の美代子だって、多分。





 さて。この中から『本当の愛』を見つけ出すためには、二人殺さなくては。そうすれば、私は『永遠の幸せ』を手にすることができるだろう。誰を殺そうか。インスタ映えする写真を撮りながら、私は思いっきり頭を抱え込んだ。……消去法で行こう。よし、一人目はアイツだ。


※※※


 その日の夜。マルオの告別式が終わると、私はのんびり自宅で紅茶を飲みながら、哀しみに暮れていた。


一人目は、マルオにした。殺した理由は、『好きになってしまったから』。これも一つの『愛の形』なんだから、しょうがないよね。『愛する』って、奥が深いなぁ。


 紅茶一杯分の感傷に浸った後、次に私は天井から太いロープを吊るし、早速二人目を殺しにかかった。二人目は、私だ。私自身を、マルオの待つ天国に送る。こうすれば、私とマルオは向こうの世界で『永遠の幸せ』を手にするに違いない。二人を邪魔するのはもう、誰もいなくなる。多分。


愛するって、本当に奥が深いなぁ。

私はぶら下がった。

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