28.隙間
夜、
蒼の夜で知り合った高校生、
『こんばんはー。連絡先交換してくれてありがとう。実は男の子と連絡先やりとりしたの初めてでドキドキです(笑)』
自分が彼女の初めての相手、などと考えるとすごく誤解を招く言い方だが、実際司はそう考えて、一人で赤面していた。
誰に聞かせる考えでもないしと自分に言い訳して、ふと栄一を思い出す。
彼ならきっと「お? 氷室、おっとなー」とかいって茶化すのだろう。
おまえもきっと同じように考えるだろうと想像上の栄一につっこんで、ふっと笑った。
栄一のことを思い出して笑ったのは初めてだ。
少しの罪悪感を覚えながらも、いや、楽しく思い出すのはいいことなんだと思い直す。
『実は俺も初めて。あんまりメッセージとか慣れてないから、変なこと言ったらごめんな』
返信すると、すぐに既読がついて、一分と経たずに返事が来た。
『わたしもー。慣れない同士、よろしくねー』
それからしばらく他愛のないやり取りをして「おやすみ」の挨拶をお互いに送って司はスマートフォンを机の上に置いた。
なんか、普通の高校生なやりとりだよなと司は考えて、自分は普通の高校生じゃないのか? と自問する。
少なくとも蒼の夜などという今までの常識では考えられないものに関わっているという点では普通ではない。
だがそれ以外は、学校に通い勉強しテストを受け、クラスメイトと話したり、ちょっと遊んだりする、普通の高校生だ。
蒼の夜のことを世間に知られないためにも普通を演じなければならないというのもある。
普通で、いいんだ。
美咲とのやりとりも、普通の高校生だから、いいんだ。
そんなふうに考えながら、少しだけ心地よく入眠した。
訓練のためにトラストスタッフに向かっていると、違和感を覚えた。
紙飛行機で遊んでいた子供達が巻き込まれた蒼の夜の発生時によく似た感覚だった。
この近くに来るのか? と司が身構え時、辺りが暗くなった。司は蒼の夜の中にいた。
発生してすぐに蒼の夜の中にいるということは、もしかするとまだ魔物は出ていないのかもしれない。
司は辺りを見回しながら
律達はすぐに駆けつけてくれた。
魔物の気配は、まだない。
「魔物はまだ出ていない。これは、貴重なデータになりそうだ」
律はタブレットで周りを撮影しはじめる。
後方から強い魔力を感じて司は振り返った。
すぐに律と
――まるで、空間が割れていくかのようだ。
司がそう感じるほどに、ビシビシと音を立てんばかりの光景だ。
空間に生じたひびがぼろぼろと崩れ、蒼の夜の中に別の景色が生まれた。
昼の森の中と思われるところから、魔物がぬっと現れた。
「あれが、異世界」
遥がぼそりとつぶやいた。
「きっと、そうだね」
撮影者の律もごくりと唾をのんだ。
ひび割れた景色の隙間から狂暴そうな熊の魔物が完全に「こちら」にやってくると、穴はするすると小さくなって消えていく。
なるほど、こうやって消えてしまうのだから異世界への通り道が簡単には見つからないわけだ。
刀を抜きながら司は律と遥を見た。
二人がうなずき、すかさず戦闘態勢に入った。
律の撮影した映像で、蒼の夜の謎が解明されていけば、と願いながら司は魔物に斬りかかった。
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