27.ほろほろ
三日と開けずに
最近増えていると
今日は隣の県で発生した蒼の夜に向かった。
広範囲が影響下にあって、魔物も一体ではなかった。
他にも対応に来ていたパーティと力をあわせ、数体の魔物を倒してどうにか蒼の夜を払うことができた。
律と他パーティのリーダーが知り合いらしく、公園の隅に移動して何やら話している。
待つことしかできない司はベンチに座ってあたりの景色を何気なく見ていた。
「ねぇ、あなたも、高校生?」
話しかけられて司は驚いた。
興味津々といった顔の女の子が司のそばに立ってじっと見てくる。
一緒に戦った一人だ。彼女も仲間を待っているのだろう。
律達をちらりと見るが、まだ話は終わる気配はない。
「あぁ。最近手伝い始めた」
「そうなんだぁ、わたしもだよ」
座っていい? と隣を指されたので、ちょっと恥ずかしかったがいいよと答えた。
司と女の子、
美咲も高校二年生で、ひと月近く前に蒼の夜に巻き込まれて存在を知ったという。
「氷室くんも似たようなものなんだね。先月までふつーに生活してたのにこんなことになって驚きだよね」
驚きだというわりに、美咲はにこにことしている。
どうしてそんな顔ができるのだろうと司は不思議に思う。
「怖くないのか?」
「怖いよ。けど、わたしが何もしなくっても、蒼の夜はたくさん起っちゃって、誰かが巻き込まれて死んじゃうかもしれないんだからね」
やるしかないんじゃない? と美咲はいう。
「それにさ、こんなこと言ったら不謹慎だからあんまり言えないけど。自分が動くことで世界の危機がちょっとだけでも遠ざけられるなんて、かっこよくない? めったにできないことだよ」
美咲はへへっと笑った。
軽い笑いに似合わない、強い決意のようなものを感じた。
「関わってしまったんだから、前向きに、ってね」
まだ身近な人が巻き込まれてしまったことはないんだなと司は見て取った。
その方がいい。
純粋に人の役に立てることを誇らしいと思っていられるなら、その方が断然いいのだ。
司も似たような気持ちはまだ持っている。
だが友人が犠牲になってしまった後では、魔物に対して復讐してやるという思いもまた、少しなりともある。
それを苦しく感じることもある。
「ね、せっかく知り合ったんだし連絡先交換しようよ」
美咲がスマートフォンを出してきた。
同年代の女子と連絡先を交換するなんて初めてだ。
少し恥ずかしかったが、それよりも真っ直ぐな美咲がこの先どうなっていくのか、気になった。
「ん。いいよ」
「ありがと。こういう話できる相手っていないからねー」
へへへと笑う美咲は、可愛い。
彼女の笑顔が蒼の夜に踏みにじられなければいいと司は思った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
司達から少し離れたところで律と遥、もう一つのパーティリーダーは顔を突き合わせて話していた。
蒼の夜の発生はますます増えて、だんだんと隠し通せなくなってきている。
いっそ公開してしまった方がいいのではないかという意見も強くなってきている。
だがやはりパニックを恐れて、伏せておいた方がいいという勢力の方が多い。
近々蒼の夜の発生源である異世界に渡る人選が決定するという噂もある。
これからどうなるのか、律達にも判らない。
彼らにできるのは、できるだけ犠牲者を出さないことだけだ。
暗い雰囲気を吹き飛ばすように、司達の方を見て遥が軽く笑った。
「仲良くなったみたいね」
視線の先で、美咲がスマフォを出して司も応じている。
「今の氷室くんには同年代で気軽に話せる友達が必要だからね」
「そのまま恋仲に発展、なんてことになったりして?」
美咲のパートナーがにやっと笑う。
「それはそれでいいんじゃないかな」
誰かを大切に思えるようになるなら、と律は願った。
つらい経験に閉ざした心の殻を、ほろほろと崩してくれる相手は貴重な存在だ。
美咲がそうならなくとも、周りを見るきっかけになってくれればと思う。
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