17.流星群

 今日の屋上からの空は少し曇っている。

 別に特別空を見るのが好きというわけでもないが、やはり晴れている空の方がいいなとつかさは思った。


「最近ちょっと落ち着いた感じか?」


 弁当を食べ終わった栄一が尋ねてくる。


「そんなに落ち着いてなかったか?」


 予想していなかった質問に司は質問で返した。


「別に騒がしかったわけじゃないけどさー。無理して感情を抑え込んでた感じ?」


 どきっとした。


 遥に対する恋心を前よりも強く感じている自分に気づいて、律に嫉妬したり、思わず本音が漏れたり……。

 彼らから離れている学校や家では誰かにそのような感情を直接ぶつけることはないが、ちょっとしたことでイライラしていたのも確かだ。


 栄一にはお見通しといったところか。


「よく判らないけど、南がそう言うなら、そうなんだろう」


 栄一は、そっか、と言って空を見た。


「曇ってんなー。雨降るのか?」

「おまえ、天気予報見たか?」

「見てなーい」


 やっぱり、と司は笑った。栄一は空を見るのが好きなくせにあまり天気予報を気にしていない。

 ちなみに天気はこれから回復して、夜にはきれいな星空が見えるという予報だった。


「そういえば、初めて話したのもここだったよな」


 司は昨年の四月に栄一と初めて会った時のことを思い出した。


 入学したての頃、クラスにあまりなじめないと司は昼休みに騒ぐ教室を抜け出して屋上に来ていた。


「あれ、氷室もここ?」


 声をかけてきたのが、栄一だった。

 失礼ながら、彼のことはクラスで見かけてるけれど名前は知らない、といった感心しかなかった。


「おれさー、空見るのが好きなんだよなー」


 言いながら栄一は司の隣に座って弁当を広げた。

 変わった奴だなと司は思いながら、別に嫌でもなかったので栄一と並んで座って昼食をとった。


 それから毎日のように二人でこの場所に座って一緒にお昼を食べる仲になった。


「氷室も空見るのが好きだから来ているのかなと思ったけど、単にクラスになじめないからかって後で気づいた」


 栄一がからからと笑う。


 司と違って彼にはそれなりに友人はいるが、なぜだか司と一番親しくしてくれているように感じる。


 司には、同じ高校で友人とまで呼べるのは栄一だけだ。彼があの時話しかけてくれなければ「ボッチ」だったかもしれない。無視されているわけでないなら学校生活に困らないが、ちょっとした時に寂しいと感じていただろう。


 改めて、ありがたいなと司は思った。


「空っていえばさー。冬は夜空が綺麗だよな。寒いけど」

「空気が澄んでるから、らしいな」

「流星群とかもあって、いいよなー」

「そういや、今夜しし座流星群だっけ。見に行くか? 神社裏の山に登ったらちょっとは灯も気にならないだろう」

「おっ、いいねぇ。できればそういうのは女の子とロマンディックに行きたいところだけどさー」


 あははーと笑う栄一に、司もつられて笑う。


 律と遥は、そういうのには興味あるんだろうか。

 時々流れる星を二人が並んで眺めている後ろ姿が簡単に想像できた。


 不思議と、前ほどの悔しさは湧いてこない。


 これがあきらめの境地ってやつかなと司の笑みに苦いものがまじった。

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