14.裏腹
栄一と他愛のない話をしながら途中まで一緒に帰って、司はトラストスタッフに向かう。
栄一の言うように女の子はたくさんいる。誰でもいいというわけではないが、遥でなければならないわけでもない。
自分に言い聞かせて律の執務室を訪れた。
「こんばんは氷室くん。今日も短い間ですが頑張りましょう」
律にお茶を出していた遥がにこりと笑う。
笑顔を見ると、途端に胸が苦しくなる。
――どうして、
そんなふうに考えてしまう。
元々二人は長く付き合っていて自分がそこにぽっと出てきただけの存在だ。
どうしてなんて考えるのすら失礼だ。
それは判っている。
律はとてもいい人だ。蒼の夜に対抗するために日夜頑張っている。それこそ、身を粉にして働いているのがひしひしと伝わってくる。司のことも本気で案じてくれているのも感じる。
それも判っている。
理屈では、判っているのだ。
だが感情が、判りたくないと訴えている。
遥に心からの笑顔を見せてほしい。
他の誰でもない、あなただけだ、というあの笑顔を。
どうして律なのだ。
彼がいい人なのは確かだが「男」としての力強さは司の方があるのではないか。
どす黒い感情が司の心を覆いつくそうとした。
「よろしくお願いします、師匠」
司はぐっと拳を握って笑顔を作り、頭を下げた。
「気をつけて、頑張ってね」
律がふわりと笑う。
この人に対して悪く考えた自分を恥じたくなるような笑顔だ。
いっそ憎めたらいいのにとさえ思ってしまう。
司の心を表すかのように、外では雨が降り始めていた。
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