6.どんぐり
「暁」の訓練室。蒼の夜の疑似空間で
台の上には、かぼちゃ。
訓練が始まって一週間。まだ司はかぼちゃを一刀両断できていない。
師匠の
大きく呼吸する。
脳裏に浮かんでくるのは、司を襲ってきたゴブリン達。
ゴブリンが司に向き直った。棍棒を持つ手を振り上げる。
今だ!
かっと目を見開き軽く振り上げた刃を袈裟懸けにする。
ゴブリン、もとい、かぼちゃは降参とでもいうように綺麗なオレンジ色の断面を見せた。
「見事です」
遥はいつもより歯を見せて笑った。
喜んでくれているのだと感じて嬉しくなる。
「次の段階に進みましょう」
もしかして師匠と模擬戦かと期待した司だったが、遥がてのひらを上に向けて開くと、そこにはどんぐりが。
「どんぐり、ですか」
「ええ。今ちょうどあちこちに転がっていて見つけやすいので」
そんな理由で修行のアイテムを決めてるのかと司はあんぐりと口を開ける。
「ただ斬るだけじゃないのですよ」
遥は少し意地悪そうに笑って、どんぐりを見つめた。
するとどんぐりが彼女のてのひらから浮かび上がる。
「魔力で……?」
「はい。次は動く的を斬ってもらいます。こちらからも攻撃しますので当たらないように動いてください」
一気に難易度が上がった。
的は何十分の一だろうか。それだけでも難しそうなのに動き回り襲い掛かってくるのだ。
司は気を引き締めた。
「それでは、始めます」
遥がどんぐりを浮かせた。
抜刀し、身構える。
どんぐりがものすごいスピードで司の顔めがけて飛んできた。
これを攻撃しろって?
司は刀を振るうが当たる気がしない。避けるだけで精一杯だ。
だが何度かどんぐりの攻撃を避けて気づいた。
司めがけて突進してきて、司の一メートルほど先でくるりと反転してまた飛んでくる。
反転する時が攻撃チャンスじゃないか、と。
司の腰の高さから顔をめがけて飛んでくるどんぐりを最小の動きで避け、頭より少し上でとどまったどんぐりめがけて刃を振り上げる。
読みはよかった。だが切っ先は惜しくもどんぐりをかすめたにとどまった。
よし、これならいけそうだと気を取り直し司は刀を腰だめにする。
どんぐりが降下してきた。これはかわし、反転する隙に――。
だが司の読みははずれ、どんぐりはとどまることなく大きく旋回して後ろから襲い掛かってきた。
背中に小さな硬いものがぶつかる感触。
「一本」
遥の冷静な声で、どんぐりが当たってしまったのだと念押しされた。
「くそっ」
悔しくて思わずつぶやいた。
「知能がない敵なら単純な攻撃しかしてきませんが、氷室くんが相手の動きを読み取って予測して動くのと同じように、相手もあなたの動きを読んで行動してきます。一度使えると思った手がいつまでも通用するわけではないのです」
遥の指摘にまた悔しくて声を漏らす。
「すごい気迫だね」
いつの間にか訓練室に
「どう? 氷室くんの調子は」
「動きはよくなってます。近いうちに実戦に出られるぐらいにはなるでしょう」
にこりと笑う師匠に、昂った気持ちが和いでくる。
一日でも早く彼らの手助けになれるようにしないと、と司はぐっと柄を握りしめた。
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