5.秋灯

 国語の授業で俳句の季語について習った。

 秋を表す季語がたくさん例として挙げられた。


 つかさが一番気になったのは「秋灯」だった。

 今日まで見たことのない言葉だったが、秋の夜にひっそりとともる灯を想像して、なんとなく寂しいけど惹かれたのだ。


「秋ってなんでこう、くらーいイメージなんだろうなぁ」


 いつものように昼休みを屋上で過ごす司に友人の栄一が言う。


「寒くなっていくから、とか」


 司が思うところを述べると栄一はそうかもなぁと同意した。


「おれはどっちかっていうと春とかのほうがいいな。華やかでさー」


 春も秋も似たような気温で過ごしやすさも同じようなものなのに、春の方が明るいのは確かだ。


 日本は年度の変わり目だから新しいことに期待してるのもあるのかもな、とぼんやりと思う。


「氷室は? 春と秋はどっちがいい?」


 のんびりとした栄一の声に、うーん、と司は考える。


 ふと、訓練を終えた後のはるかとのやり取りを思い出した。




『師匠はどうして戦う気になったんですか?』

『そうね……、一つは家の意思、一つはわたしの意思、ですね』


 司は遥をなんと呼べばいいのか少し迷って「師匠」と呼ぶことにした。

 天道さんと呼ぶと、とても遠い存在の人のような響きな気がした。が、遥さんと呼ぶほどの仲ではない。なので「師匠」だ。


 遥は師匠呼びにうっすらと微笑んで応えた。


 遥の家は剣術を教えている。遥も幼い頃から鍛えられていた。ある程度力をつけると遥自身も上達したいと思うようになり一層稽古に励んだ。


 蒼の夜の存在は父から聞いた。もしも遥が蒼の夜の中でも活動ができるなら「暁」に加わってほしいと。


 剣術の腕は上がったが命をかけて戦うことには抵抗があった。

 だが、実際に蒼の夜の中で何も知らずに気を失い倒れている人が魔物に襲われそうになっているのを目にして、遥はすぐに動いた。


 魔物を初めて斬った時は手が震えた。

 それよりも、襲われかけた人が無事なのが、嬉しかった。

 なので遥は戦う決意をした。


 そのような話をしてくれた。


『今でも戦うのは、少し怖いです。それでもわたしが戦うことで救われる命があるなら』


 静かに語った遥はまるで、夜の闇の中で迷う人をひっそりと照らし光ある方へ導く灯のようだと司は思った。




「秋、かな」

「へー、意外。氷室って自分から騒ぐタイプじゃないけど賑やかなのは好きそうな感じなのに」


 栄一が言う。彼の言う通りだ。が。


「春も好きだけど。秋もいいなって最近思うようになった」


 司の脳裏には秋灯のような遥の微笑が浮かんでいた。

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