第3話 そして始まるガチャタイム



「さーて何から説明しようかな」


 少女は心なしかウキウキして早く話したくてしょうがないといった様子だ。


「とりあえず少し長くなると思うから皆座ろうか」


 そう言って少女が手を振ると何もない空間から椅子が9つ現れ玉座の前に並ぶ。見るからに高級そうな椅子だが現れ方からして得体が知れない。皆も同じような考えなのか椅子の前で座るべきか迷っているとモモちゃんが声をかける。


「皆、座りましょう」


 ・・・声が震えている。モモちゃんも怖いのだろう。だがこのまま座らずこのニアとかいう神様の機嫌を損ねるのも恐ろしい。意を決して座ってみるとそのフカフカ具合に驚く。皆も恐る恐る座ると同じように驚いている。そして全員座ったところでニアが話し出す。


「まったく...せっかくいい椅子を用意してあげたんだからそんな警戒しなくてもいいじゃないか」


 この状況でビビるなという方が無理だと思うが、どうやら神様にはそういった心情は分からないらしい。


「まあいっか。じゃあまずはこの世界の説明からしてあげよう。

 さっきも言ったけどこの世界の名前はエルノア、僕が作った世界だよ。君たちの世界とは違って魔力っていうものが存在しているから、覚えれば魔法だって使えちゃうんだ。ただ代わりに機械とかはないから注意してね」


 どうやらこの世界は王道ファンタジーのような世界らしい。この状況で少し不謹慎だとは思うが、ゲーム好きとして少しワクワクしてくる。


「この世界は大きく3つの国に分かれてるんだ。

 まず1つ目がヒトやエルフ、ドワーフ、獣人とか色んな種族の子たちが一緒に作ったソラタニカ共和国。基本的には平和主義の国だよ。

 2つ目が主にヒトと獣人の子たちで作ったイルドブリア帝国。この国は強さこそがすべての国で一番強い子が皇帝になるわかりやすい国だよ。

 最後3つ目がヒトの子のみで作ったネルセ教国。ここは僕のことをしっかり信仰してくれてるとってもいい国だよ」


 話を聞く限りやはり、ヒト以外の種族もいるらしい。にしても2つ目と3つ目の国、特に3つ目のネルセ教国とかいう国はかなりやばそうな気配がする。なにせこの神様を信仰しているんだ。まともな国とは到底思えない。そう考えているうちにも話は進んでいく。


「それでね、今この3つの国は戦争状態なんだ。帝国と教国がこの世界を統一しようとしてて、共和国がそれに抵抗している図なんだけど、実力が拮抗しててここ数年ぐらい停戦状態になっちゃってて面白くないんだよね。

 そこで君たちの出番ってわけさ。君たちには3人ずつ分かれて各国に行ってもらう。それで自分たちの国が戦争に勝てるように協力するんだ。そしてこの戦争に勝って世界を統一できた国の3人を元の世界に返してあげよう」


 どうやら戦争に協力して勝たせろということだが、ただの高校生と教師にどうしろというのだろうか?

 戦うなんて出来るわけもないし、ましてやここは魔法が存在する世界。死体が増えるだけだ。

 すると、神妙な面持ちで話を聴いていたショウが質問する。


「待ってくれ。俺たちに戦う力なんてないし、魔法も使えない。戦争に参加したところで何の役にも立つはずがないんだが、どうしろっていうんだ?」


 その質問を予想していたのかニアは待ってましたと言わんばかりの笑顔で答える。


「ふっふっふっ、よく訊いてくれたね。もちろんそれについても考えてあるよ!僕は神様だからね!戦うための力は僕が授けてあげよう。」


 ドヤ顔でそうのたまってくるが、見た目が綺麗なだけに無駄に様になっていて腹も立たない。


「それで授け方だけど君達にはこれを引いてもらうよ」


 そう言うと俺たちの椅子と玉座の間にゲームコーナーにあるようなガチャガチャが出現する。


「これは僕が作ったガチャガチャで回すと一つ特殊な能力が手に入るんだ。当たりの能力なら1人で国を滅ぼせるようなのもあるよ。もちろんハズレ能力もあるけど、そんな極端に弱い能力にはならないから安心してね」


 なんと俺たちの命運はガチャで決まってしまうらしい。そんな運ゲーは勘弁願いたいところだが、簡単に殺されてしまう可能性がある以上文句を言うこともできない。


「じゃあさっそく引いてもらおうか!

 順番は...僕から見て右の女の子から引いてもらおう」


 ニアから見て右からということは自分は一番最後になりそうだ。

 そして一番最初に指名されてしまったポニーテイルの幼馴染 小鳥遊 春たかなし はる は震えながら下を向いてしまっている。

 当然だ。いきなり戦争に参加しろと言われクラスメイト同士で殺し合いを強要されているんだ。怖くないという方が嘘になる。

 少しの間そのままでいるとおもむろに顔を上げ気合を入れて立ち上がる。

 ガチャの前までハルが歩いていくとニヤニヤしながらニアが話しかけてくる。


「引き方だけどレバーを持ちながら名前を言うと回せるようになるからね」


 ハルは深呼吸をして息を整えるとレバーに手をかけ名前を名乗る。


「・・・小鳥遊 春」


 そのまま一気にレバーを回すとカプセルが出てくる。

 出てきたカプセルを手に取って開けると文字が空中に現れる。


【千里眼】


 その文字を見たニアは声を上げる。


「すごい!!いきなり良い能力だ!!!

 あっ、ちなみに使い方とかは脳内に出てると思うけど、あんまり言わない方がいいよ。今後は敵同士だからね」


 ハルは何も言わず、少し安心した様子で椅子に戻っていく。


「じゃあどんどん引いてこっか!」


 そうして順番に皆引いていきショウと自分だけが残された。


「良いの引けよ、ショウ」


 そう声をかけると


「ああ」


 引きつった笑顔で返してくる。

 ガチャの前に着いたショウは名前を告げる。


「中村 翔」


 出てきたカプセルから出てきた文字は


【切断】


 強そうな能力だ。


「良いねー。皆いい感じの能力が引けてて僕はうれしいよ。

 じゃあ最後の君いってみよっか!」


 ニアに声を掛けられガチャに向かって歩いていく。ショウにすれ違いざま


「がんばれよ」


 と励まされるが何をがんばれというのだろうか。ショウの方を向くと笑顔でグーサインを送られる。少々気が抜けながらもガチャの前に立ち、気合を入れ直しレバーに手を掛ける。


「今崎 誠」


 名前を告げガチャを回す。そして出てきたカプセルを開け、現れた文字に目をやる。


【自然回復】 〈回復が早い〉


 同時に能力の説明が脳内に現れる。〈回復が早い〉・・・しょぼくね?

 そう思っていると気が付いたら左にニアがいる。

 先ほどまでの楽しそうな表情とは打って変わって能面のような表情で捲し立ててくる。


「何そのザコ能力。

 ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな。

 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。

 


 文句を言われてもどうしようもないのだが恐怖で声が出なければ足も動かない。

 立ち竦んでいるとニアは不機嫌そうな表情になる。


「はぁ、どうしよう。めんどくさいなぁ。このままじゃバランス悪いし..仕方ない。新しい子にしよう」


 そう言うと視界からニアが消える。軽く何かぶつかったような衝撃があった後また視界にニアが現れる。その右腕は血に塗れ、手の先には赤い何かがある。自分の胸元を見ると穴が開き血があふれている。どこかで悲鳴が上がったような気がする。ニアが手に持った何かを握りつぶす。声を出そうとするが何も出てこない。足に力が入らず倒れる。息ができない。胸元が燃えるように熱いのに寒い。何が起こっているのか理解できない。声が聞こえる。


「バイバイ」


 つまらなそうな声だ。何とか顔を見る。壊れたおもちゃを見るような目で見てくる。

「ドンッ」と蹴り飛ばされ体が宙に浮き、そのまま落ちていく。

 そこで意識は途切れた。







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