短編作品9 マッチョな妹が酷いイジメを受けているお兄ちゃんを助けマッスル!!

 少し肌寒く小鳥たちのさえずりも弱々しく聞こえる十一月の初日。男子高校生の綾瀬灯香あやせとうかはベッドの温もりからしばらく出たくない時、勢いよく部屋のドアが四トントラックが激突したかのような轟く音が鳴り響くと同時にドアが粉々に砕け散った。


 何事かと勢いよくベッドから飛び起きると目の前にはガタイのよい小学生の少女とは思えないような体型のツインテールをした妹、綾瀬眞紀奈あやせまきなが豪快にお越しに参上した。


「……お前普通に起こしに来れないのか」

「豪快で起こした方が気持ちよく目覚めることができるでしょ」

「部屋のドアをぶっ壊すほどの勢いで起こされて気持ちよく目覚めるわけないだろ! ――ていうかどうするんだよこの残骸、誰が片付けるんだ!」

「お兄ちゃんが片付けてね」


 役目を果たした妹の眞紀奈は一階のリビングにへと戻っていく。

 これが初めてじゃなく毎日このような起こされ方を初めてではない。もっと酷い起こされ方だと、鋼のような筋肉質できている身体で気持ちよく寝息を立てる灯香の首元目掛けてラリアットをかまして首の骨を折り、危うく絶命仕掛けたこともある。

 無残にも破壊の女王に壊された扉の残骸を片付けるのを後にして、まずは腹ごしらえがしたいので灯香はリビングに向かうのであった。




「なあ、眞紀奈お腹すいたんだけど……」

「私もペコペコだよ、――さあ、食べよ」


 可愛らしい笑顔を兄に向けてくる眞紀奈だが、差し出された料理は朝食とは言えない。あくまでも灯香の主観では。

 テーブルにはプロテインシェイカーに入っているバニラ味のプロテイン、その他にバナナやブロッコリー、ささ身などどれもボディービルダーに欠かせない食べ物ばかり。

 両親が共働きのため、朝は妹が朝食係。灯香も自分で作ろうと思ったが料理ができないため、すぐに挫折してしまった。

 妹の作った筋肉料理を食べて学校へと登校とすると校舎前に大勢の男子高校生が囲むようにヤンキー座りをしているのを灯香は発見し素早く目をそらした。

 だが、大勢のウチの一人が灯香に気付き、声を掛けてきた。


「よう、灯香こっちに来いよ」


 手招きする一人の男子高校生にコクリと首を下げてそのまま昇降口へと早歩きで歩くと、リーダー格の男性柳沢剛毅やなぎさわごうきが立ち上がり灯香の方へと歩み寄ってきた。

 その巨体を動物で表すならツキノワグマ。

 灯香を見下ろしながら口を開く。

 

「おい、なに俺のダチをシカトしているんだよ」

「べ……べつにシカトなんかしてません」


 大量に脂汗を流しながら灯香は誤解を解こう必死になるが、目の前の男は聞く耳持たず、灯香の頭を鷲掴みにし引きずりながらどこかの場所へと移動する。




 HRホームルームが始まる前に何とか自分のクラスに戻った灯香は足を引きずりながら入る。

 クラスメイト達は灯香の姿に誰も見向きもせず、――それはまるで見えない幽霊のような存在だと思われてるように。

 席に着いた灯香パンパンに腫れた顔を押さえながら泥だらけのスクール鞄から刃物で無残に切られた教科書を机の中に入れてHR待つことにした。

 灯香はこの学校で一番厄介な不良グループ達に絡まれているせいで、周りの同級生達は目を付けられないために、あえて灯香から遠ざかっていたのだ。

 なぜそうなったのかというと入学したばかりの頃、正義感の強かった灯香は不良グループにいじめられた生徒を発見し、止めに入ったのが切っ掛けだった、その後助けた生徒はその不良グループにいじめを受けなくなったのに助けてもらった灯香に礼の一言もなくクラスの仲のいいグループ達と、なにもなかったように平和な暮らしをしてしていた。

 とにかく高校を卒業したら不良グループ達との縁が切れるので頑張って三年間を乗り切ろうと灯香は思い、辛い学校生活を送るのである。


 HRと午前の授業を終えて昼休みに入った頃、廊下から数人の歩く音が灯香のクラスの方に近づいてくる。


「おい綾瀬! ちょっと来い」


 クラスに現れたの不良グループのリーダー柳沢剛毅だった。


「…………わかった、今行く」


 ここで変に断るとクラスの生徒達に迷惑が掛かると思い、剛毅と一緒に指示された体育館の裏に向かう。

 目的地に着くと剛毅の手下が待ち構えており、体育館側の壁に立たされた灯香に凶器ある笑みを剛毅は見せ口を開く。


「ヤクザの先輩に上納金を払わなくちゃいけなくなったんだけど俺やこいつら学生だろ、だからお金がないんだよ」

「こいつらと言うことは自分も含まれているんだよね」


 その答えにキレた剛毅は鋼鉄でできたような拳を思いっきり灯香の頬を目掛けて殴り飛ばす。

 脳が激しく揺れるほどの衝撃と、口の中が複数箇所裂けるほどの激痛に襲われ地面に崩れ落ちる。


「ぐぅぅぅ」


 あまりの痛さでうめき声を上げる灯香の髪を鷲掴みにし剛毅は自分の顔に近づけてこめかみに青筋を浮かばせて恐喝する。


「あまりふざけたこと抜かすな、――いいか今日中に百万用意しろ、いいな」


 弱者から何もかも奪おうとする剛毅も実際奪われる側だったのだと思うと灯香は哀れみの表情を見せる。

 その表情に感に障ったのか剛毅は激しい剣幕で灯香を捲し立てる。


「テメェ、その表情はなんだ! 馬鹿にしてるのか!!」

「いや、バカにはしてない……。ただ残念だけどその要求には応えることはできない……」

「おまえ……殺す!」


 力に自信のある拳で何度も灯香の顔面を機関銃のように顔面へと浴びせる。

 さすがに灯香も殺させると悟り、そのまま気を失いかけたとき、聞き覚えのある声が辺りに響く。


「お兄ちゃん!」


 身長二メートルを超え、ゴリラほどの肩幅のボディービルダーかと疑うような筋肉の持ち主、一見成人と見間違うほどの体格なのに小学生が被る通学用黄色帽子を被り、規格外の特注の大型ランドセルに装備したツインテールの眞紀奈が現れた。

 さすがの光景に周りの不良達が何度も目をしばたいた。中には何度も目を擦り幻覚が見えているのか疑いを持っている者までいる。


「なあ……誰だアイツ? お前の知り合いか?」

「……そうだ」


 さすがの剛毅も自分の視界に入る衝撃的な光景に、殴るのをやめて灯香に訊ねた。


「……せない」

「なんだこいつ、筋トレのしすぎで頭がおかしくなったか? ここは学生の来るところだぞ、変質者のおっさんはここから去れ」


 剛毅が率いる不良グループの一人が眞紀奈の方へと近づいたとき、突然物凄い轟音と共にその不良が体育館の外壁がいへきに頭がめり込んで気を失っていた。

 一体なにが起きたのか周りは把握できていない。

 脂汗を流し始めた剛毅は身の危険を感じ、手下全員に命令を下し一斉に眞紀奈を襲う、――が、瞬きをする早さで大勢いた不良グループはみな、体育館の外壁に頭部が突き刺さり戦闘不能になる。


「何なんだコイツ!!」

「俺の妹だよ」

「はぁぁぁぁぁ!! どう見ても中年の脳筋おっさんだろ」


 顎が外れるかの勢いで剛毅が驚く、しかもまだ小学六年生と発言すると白目をき失神しそうになっていた。

 その失礼な発言に眞紀奈はキレて剛毅のところへ殺意を向けながら近寄ってくる。


「待て待て待てっ!! 悪かった! だから兄を解放するから許し――がくあは!」


 鎌のような鋭く振り上げた拳が剛毅の顎へとクリーンヒットし、円をえがくように地面に頭がめり込むほど激突し、戦闘不能にさせた。

 その光景を見た灯香は絶対妹の眞紀奈怒らせてはいけないと心に誓う。


「お兄ちゃん大丈夫」


 急いで駆け寄ってきた妹に抱きかかえられてもうらうが、人間離れしている常識外れのパワーのせいで抱かれてるというよりは絞めているに近いため、呼吸ができない。


「……眞紀奈……俺は……大丈夫だから……とりあえず離れろ……」

「なに言っているの! 今にも死にそうじゃない!?」

「……おまえがキツく抱くせいだ」


 自分が絞め殺そうとしていることに眞紀奈気付いていなく、灯香は危うく三途の川が見えそうになっていた。

 慌てて離してくれた眞紀奈にホッと灯香は胸をなで下ろす。


「大丈夫?」

「ああ。――どうしてここに来たんだ」

「最近のお兄ちゃん様子がおかしかったから学校でなにか起きてるんじゃないかと心配で私、学校を早退して様子を見に来たの」

「そうだったのか……ごめんな心配させたみたいで」


 今までのことを包み隠さず全て眞紀奈に話した。

 すると眞紀奈は立ち上がり自宅に帰るのかと思い校門まで見送ろうと思ったが、なぜか校舎の中へと入っていく。


「おい、どこに行くんだ。ここは校舎の中だぞ、用がない奴は入れないぞ」

「用事ならあるよ、ところでお兄ちゃんのクラスは一学年の四組だよね?」

「ああ。そうだけど……」


 そのまま眞紀奈は四組の教室に向かうと突然暴走したゴリラのようにもう暴れしだす。

 その光景に悲鳴を上げる生徒や、眞紀奈が投げ飛ばした椅子や机などがクラスメイトに直撃して大けがを負う者など、その光景を見た灯香は地獄絵図にしか見えなかった。

 急いで眞紀奈を止めに入ろうとしたときに何事かと職員達が駆け寄ってきたとき、眞紀奈はクラスメイトから職員にターゲットを変えて、両手に持っていた机と椅子を職員達に目掛けて剛速球に投げる。

 幸い職員達に当たらず激突したが、壁に穴が開き外の風景が丸見えになっていた。もしこれが人に当たっていたとすると灯香や職員は背筋が凍るほどの恐怖がこみ上げてくる。


「私の灯香お兄ちゃんをいじめていた不良グループは一番悪いけど、それを見て見ぬ振りをするクラスメイトや先生達も悪い! だから妹である私がこの場で天罰を下す。特に」


 そう言葉を切り、眞紀奈はつかつかと灯香が助けた最初に不良グループにいじめられていた子だった生徒の前に立ち、鬼のような形相で睨み殺す。

「……なんですか」

「勇気を振り絞ってあなたを助けたお兄ちゃんに礼を言わず――それどころかあなたのせいで酷いイジメを受けることになったお兄ちゃんに手を差し伸べなかったあなたも不良達と同じくらい同罪よ」


 今にも下半身から何かを出さんばかりな状態の元いじめられっ子の身体を眞紀奈を掴み、そのまま勢いよく教室の窓を目掛けて砲丸投げのようなフォームで投げ飛ばした。

 元いじめられっ子は絹が敗れるような甲高い悲鳴を上げなが教室の窓ガラスを突き破り、空高く飛んでいく。


「はあ~、すっきりした」


 満足な表情を眞紀奈は見せてクラスメイト全員と職員に何かを告げようと声を上げる。


「私のお兄ちゃんをまた傷つけるようなことをしたらこの学校に居るもの全員ただじゃおかないからね」


 そう告げて眞紀奈は去って行く。


 それから不良グループ達は職員の制裁で高校を退学になり、クラスメイト達は逆に灯香と関わると妹に殺されるかも知れないと距離を置いてしまうが、楽しいスクールライフを灯香は送ることができるのであった。

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短編作品集(ラブコメ) 関口 ジュリエッタ @sekiguchi

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