短編作品8 ヤンデレ義妹に監禁されました……
肌寒い時期から徐々に温かみを感じ寒さを忘れるような春の季節。
黒髪ツインテールに童顔の可愛らしい中学三年生の義妹と、寝癖をつけ、まだ眠たそうにナマケモノみたいな表情をする高校二年生の剣斗達は無駄に会話もせず黙々と朝食を続ける。
今日は祝日という日なのに両親二人は共働きで休日出勤で今は二人だけ。大人になると休みの時間が減るのは大変だなと剣斗は思う。
ホクホクでホカホカの白米を一口含んで赤味噌を使った味噌汁をそのまま口に流し込んでいると、キラリが一言口ずさんできた。
「お兄、最近彼女できたって本当なの?」
「ああ。でも、どうしてその事知っているんだ? 家族や友人にも話していないんだぞ」
「バカお兄のことは何でも知ってるよ」
彼女ができたのは昨晩の土曜日。
元々仲の良い友人だったクラスメイトの異性の女子生徒からメッセンジャーアプリから通話が来た。
それから彼女の言う公園で会い、告白されたのだ。
周りには自分と彼女以外誰もいなかったのだが、もしかしたらキラリはこっそり後をつけてきたに違いない。
「俺の後をつけて来ただろ」
「さあ~」
白々しく惚ける義妹に内心むかついた剣斗だが、ここで反論したいけど口論でいつも負けている剣斗はここはグッと堪える。
幼い頃のキラリは金魚の糞みたいに兄の剣斗の側を離れなかったほど懐いていたのに、今は粗大ゴミを見てるかのような眼差しで見つめてくるし、言葉にできないほどのきわどい暴言を毎日のように浴びるほど責めてくる生意気なクソ義妹へとド進化してしまった。
だが、いくら嫌っていても両親が残業や早番で仕事から帰ってこなかったときなどは、ちゃんと剣斗のぶんまで食事の準備をしてくれたり、身の回りの家事などはしてくれているので完全に嫌っている訳ではなさそうだ。
今日もいつも通り朝食もキラリが作ってくれたのだが、すこしいつもとは様子が違う。
なぜならキツく死にたくなるような暴言を剣斗は浴びていない。
それに今日は妙にそわそわしてる感じにも見える、なにかを企んでいるような感覚に剣斗は少し警戒心が出始めたとき、身体の異変に襲われた。
急に視界がくらみ、手足に力が入らなく手に持って箸や茶碗を落としてしまい、そのまま剣斗は床に倒れ意識を失う。
意識を取り戻した剣斗は瞼を開けると思わず平静を失う。
さっきまでリビングでキラリと一緒に朝食を取っていたはずなのに、今剣斗の目に映る光景はカビ臭く、ホコリが舞うほど手入れをされていない見知らぬ一室にいたのだ。
ここから出ようとしたとき身体が動かないことに気付き自分の身体を見ると、椅子に座っている身体の周りを太いロープで身体や手足をキツく縛られていた。
ウナギのように必至にからを藻掻くとき、目の前の扉から何者かが入って来た。
その人物を見た剣斗は目大きく見開いて驚愕してしまう。
部屋に入ってきたのは見覚えのある人物であるキラリだったのだから。
「キラリ、ここはどこなんだ!?」
「都内にある廃墟の一室だよ」
「どうして俺が拘束されているんだ? もしかして考えにくいけどお前の仕業か?」
「お兄が悪いんだよ」
一瞬キラリの目からハイライトが消えたように見えた。
「どういうことだよ」
「私みたいな可愛い妹がいるのにどこかの目狐を彼女にするなんて許せないよね」
つかつかとこちらに近づき、キラリは顔を間近に寄せてきた。
今まで共に生活してきたキラリとはまるで何かに取り憑かれたような変わりよう。
そんなキラリを目の前にした剣斗は危うく狼狽しそうになる。
「ちょっと待て、俺に彼女ができたからその嫉妬でこんな計画をしたのか!? ――そもそもおまえは俺のこと嫌いじゃなかったのかよ」
剣斗のことを毛嫌いしている行動とは思えない。
「私がお兄のことを嫌いになるわけないでしょ。今まで嫌いな振りをしていただけだよ。だってあまりに好きすぎて暴走する自分を抑えていたのよ」
とんだ爆弾発言に思わず夢物語を聞かされているようだった。
「まだ頭の整理が追いつかないけど、おまえ学生なのにどうやってこの施設を手に入れたそれに俺をどうやってここの施設に運んできたんだ?」
「女の子には秘密がつきものなのよ、おにぃ」
「いやいや、秘密隠し通したらいけない領域だろ! お前のバックには黒の組織でもいるのか!?」
「何度も言うようにその回答も秘密だよ」
これからはキラリを怒らせるのはとても危険な行為だと実感してしまう。
とにかく今はこの場から避難することを考えないといけない。
なにか脱出するのになにかキーアイテムがないか辺りを見渡したり足元を確認したりしているとあることに気付いた。
脱出することができると思った剣斗はキラリに一つ大事なことを伝えなくちゃいけないことがある。
「なあ、キラリに伝えてないことがあるんだ」
「つたえてないこと?」
「そうだ。実はな俺は誰とも付き合ってないんだよ」
「ごめんね、そんな嘘をつくお兄には、とりあえず片腕折っておくね」
ルンルン気分で剣斗の片腕を折ろうとしてきたので、すぐにその理由を声を上げて説明をする。
「俺はアイツと付き合っていない、――そう擬視カップルなんだよ」
「どういうこと?」
「仲のいい女子が他校の男子生徒にしつこく告白されて困っていると相談されていたんだよ。だからしばらくの間、擬視カップルとして付き合うことになったんだよ」
「じゃあ、その人を助けるためにカップルの振りをしたんだね」
「そうだ。だからお前の誤解なんだ。この縄を解いてくれ」
「証拠は?」
「えっ?」
「そういう計画を立てているなら二人で相談とかしていたんでしょ。そのやり取りなどの文章かなにかを見せてくれれば解放してあげる」
一瞬誤解が解けたと安堵したのも一瞬に砕け散る。
この場に証拠となる物を提示する物は無い。
唯一証拠にできるのはこの計画を提案した被害者のクラスの女子だけ。しかしここにはいないので呼ぶにも監禁されてる場所もわからないし仮に呼んだとしても義妹のキラリがなにをするかわからない。
だから剣斗が今の危機的状況を打破できるのは今まで義妹と出会ったときに抱いていた気持ちをここでぶつけるしかなかった。
「確かに証拠は無い。だがな俺の本当に好きに思っている人物がいるんだ。それはお前だよキラリ」
「急になにを言い出すの。私を動揺させて逃げようとしてるのは見え見えだよお兄」
「だったら両親にメールして見ろ」
本気の眼差しをキラリにぶつけると少し動揺してるそぶりを見せ、効果はあったと確信。
半信半疑な状態でキラリは仕事中の父親と母親二人にメールで本当に剣斗は異性として意識しているかメールで打って二人に送信した。
メールを送って五分後、先に母親から連絡が来た。
ちなみに剣斗にとって母親は義母にあたりキラリの実母。
内容を確認すると剣斗の言っていた通り、剣斗はキラリのことを異性として見ていた。
危うくキラリはスマホを落としそうになるほど激しく動揺していると追い打ちのように一親からメールの返信が来た。
結果は同じ内容。
両手を頬に付け、顔をサクランボのように淡い赤色になるキラリは今にもその場で気を失いかけそうな状態。
「これでわかったろ、キラリ」
「あわわわっ!!」
会話ができないほど嬉しくてたまらないキラリは目を泳がせながらゆっくり剣斗のほうに向く。
両親の再婚の時無口で人見知りのキラリを優しく接してくれた剣斗に徐々に心を開き、それがいつの間にか兄妹愛から異性の愛へと変わり、剣斗を振り向かせたかった。
だが、友人から兄弟で恋愛はおかしいと言われ必死に嫌いになろうと剣斗のことをわざと冷たくしていたのだ。
だけど今は我慢しなくていい。お互い両思いで両親からも二人の恋に賛成しているしったキラリ人生産まれて一番の幸福の気分。
あまりの嬉しさに手招きしている剣斗に思いっきり抱きつく。
「大好きだよ、お兄」
「俺もだよキラリ。――だからお前を厳しく教育しないといけない」
「…………へっ?」
キラリの目が点となる。
縄で縛っていたはずの剣斗がいつの間にか椅子から立ち上がりキラリの前にそびえ立っていた。
「じゃあ、まずはこの施設の件や食事に睡眠薬を混入したことなど、じっくり聞かせてもらうからな」
表情は笑顔だか目が笑っていない。
「私急に用事が……」
「逃がすわけいだろ!」
二時間もの過酷な説教をされたキラリは肩を縮込ませて反省する。
ドが過ぎる義妹の行動は許せるレベルでは無いが、自分のことが好きすぎて起こってしまったことなので嫌われてないことにホッとした剣斗は縄でぐるぐるに縛り付けたキラリを肩で担いで自宅へと帰っていくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます