第5話 楽しいデートに事件が発生!?

 気持ちのいい朝、今日はつばめとの大切なデートだが、まだまことは気持ちのい顔をしながら熟睡してる。

 すると真の部屋にノックもせずに侵入する人物が現れた。

 

「……きて」

(何やら声が聞こえる……)

「……きなさい」

(なに言っているんだ……)

「真君起きなさい。鳦ちゃんと今日デートに行くんでしょ」



〈――そうだ。今日は約束の日だった!!〉



 母親の瑠依子るいこが呆れてため息をついた。


「早めに起きて支度しないとダメだよ」

「ありがとう、母さん」


 瑠依子のおかげで時間にはまだ充分にあるけど、真は余裕を持って支度を始めた。


 朝食を終えて真はソファーで寛いでいると、

「真来たよ!」

 

 チャイム押さずにいきなりリビングのドアを開けてきた鳦に、真と父親以外の二人はビックリした表情をしている。

 昔もこうやっていきなり上がり込んできていたので、真と父親はなんとも思わなかった。


「もう高校生にもなるんだからちゃんとチャイム鳴らしてから入って来いよ」

「私もこの家族の一員みたいなもんだから別に問題ないでしょ」

「大ありだよ……」

「おじさんこんにちは、久しぶり」

「おお。鳦ちゃん久しぶりだね。子供の頃に比べてかなりの美少女になったね」

「ありがとう」


 鳦は母親と妹の美琴みことに顔を合わせて一礼して、

「初めまして、真の幼馴染みの白鳥鳦しらとりつばめと申します。よろしくお願いします」

「あら礼儀の正しい子ね。天界瑠依子てんかいるいこと申します。よろしくね鳦ちゃん」


 いきなり挨拶無しにリビングに突っ込んできた奴が礼儀が正しいなんてなにをはき違えているのか、と真は瑠依子に疑問を抱いてしまう。


「今日からよろしくね美琴ちゃん」

「…………」


 美琴は挨拶もせずリビングから出て行った。


「嫌われちゃったかな……」

「内気なだけだよ。早く行こうぜ」


 真と鳦は自宅から出て都内の街へと向かった。



 若者達がにぎわう都会の街中で二人は並んで歩いていると、

「ねぇ真、手つながないで歩こうよ」

「はしたないこと言うな!」


 鳦の発言に女性に免疫がない真は口を異常に震えながら発言してしまった。

 幼少期の頃は男の子だと思い、よく鳦と手をつないでいたが、今は女性と思うと戸惑ってしまう。

 真がいつまでも手をつながないのにじれったくなった鳦は強引に手を握りだす。


「ほら、グズグズしないで行くよ」


 カップルと言うよりは保護者と子供みたいな感覚だな、と真は思いながら二人は最初の目的地である高山公園に向かった。

 高山公園とは真の住んでる都市にある大きな公園で、その中心に展望台がある有名な観光スポットなのだ。


 高山公園にはいると、そこは広々としたところで通路の両脇には色とりどりの花が綺麗に植えてあった。

 展望台に向けて真は足を進めるたびに心臓の鼓動が高鳴りだしていた。

 何故なら見渡す限りカップルの山だったのだ。

 他人から見れば真達もカップルに見えるに違いないと思われているのだろう。


 二人は展望台に向かい歩いているとき、


「いたっ」

「どうした、鳦?」


 急に地面にうずくまった鳦を見て真は咄嗟に駆け寄る。


「お腹が……痛い」

「お腹? なにか悪い物でも食ったか?」

「わからない……」


 鳦は服をめくり上げて確認すると腹部に痛々しそうな紫かがった大きな痣ができていた。


「なんだこれ、どこかお腹でもぶつけたのか!?」

「ぶつけてなんてないよ。それに真と出会うまでは、痣なんてできていなかったんだから」

 

 どう見てもこの痣は最近できたばかりの痣だが、こんなに大きな痣ができているのに記憶にないことはありえない。

 痛々しいそぶりなんて見せてもなかったし、我慢もしてるような雰囲気もかんじなかったため、真は不思議がっていた。


「仕方がないから今日は帰って、病院に行った方がいい」

「そんな……今日は楽しみにしていたんだから帰りたくない。それに今日は土曜日で午後から診察してくれる病院なんてないよ」

「病院にいけないのはしょうがないとしても、この怪我で出かけるのは危険だよ」

「いや。絶対に途中で帰らない。だって、今日はすごく楽しみにしていたんだから!」


 こちらに強い眼差しを向ける鳦に真は少したじろいでしまう。

 だけどこのまま怪我している状態で仲良くお出かけなんてできるわけがないし。

 真は少しだけ考えていると、鳦は急に慌てだした。

「なんか揺れてない!?」

「確かに」


 急に地面が揺れはじめ、周りにいる人達はパニックになっていた。


「とにかくここは危険だからいったん離れよう!」

「うん!」


 真は急いで鳦の手を掴み、この場から全力で離れると灯台の根元から鈍い音が響き渡り亀裂が入った。

 身体が揺れるほどの地震が真や周りの人たちを襲う。

 鳦は恐怖のあまり必死で真の首を鷲掴みしながら左右に振る。


「つ……ばめ……苦しい……」

「このままじゃ展望台が崩れ落ちて下敷きになっちゃうよ!」


 展望台の亀裂が深く入り真達の方に傾きだした。

 周りから阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡る。


 鳦が首を絞めてくるせいで真は上手く逃げられない。

 息もできなくなり、その場で力尽きた真は地面に倒れこむ。


「立って! 立つんだ真!!」

 ボクシングアニメで聞いたことある台詞が真の耳にかすかに聞こえる。


「鳦、真っ白に燃えつ……」


 さらに鳦は真の首をキツく絞めてしまう。

「――真、早く起きて!」

「くっ、苦しいぃぃ」

「はっ! ごめん!」


 我に返った鳦は急いで真の首から手を離した。

 徐々に展望台がこちらに崩れかけてくる。

 今この場にいるのは、もう真と鳦だけ、後の人たちは無事にこの場から避難をすることができたのだ。

 もうダメだ、と思った瞬間、突如揺れが止まった。

 だが、油断はできない。大きな地震が起きたときは必ず

 気を失っている真をかついで鳦は急いでこの場から去って行った。



 しばらくして気を失っていた真は目を開けるとそこは公園のベンチだった。


「やっと起きた」

「すまん、寝てしまった」

「寝たんじゃなくて気を失ってたの間違いね。まあ、私のせいでもあるけど……」

「……そうか、でも助かったならいいか」


 さっきまで危機的状況に遭遇していたのに何故か心地のい気分になってしまう。

 多分そのわけは真の後頭部に伝わる感触が原因だ。

 頭から下の部分はベンチの堅い感触がするが、後頭部からは柔らかいモチモチした気持ちの良い感触をした。

 そう、真は今膝枕をしてもらっているのだ。

 このままでいたい気分だが、鳦に申し訳ないと思い、急いで頭を上げた。


「すまん!」

「なに謝っているのよ。むしろ私が謝罪しないといけないんだから。ほらまだ横になってなさいよ」

「いや、もう大丈夫だから」

「いいから!」

 

 無理矢理、鳦に頭部を手で押さえつけられた。

 内心真の心臓ははち切れそうなほどに鼓動が高鳴っている。

 お言葉に甘え、真は満足するまで鳦の膝枕を堪能するのだった。


 一日中鳦の膝枕を堪能したかった真だったが、一日をそれだけで潰すわけにはいかないので、二人は公園を出て、ショッピングモールで買い物したり、レストランで食事をしたりして満足したデートをすることができたのだった。

 帰り道にふと真はあることを思い出し、鳦に話す。

「そういえば、お腹の具合はどうだ?」

「あ!」


 服をまくって真に見せたとき、鳦の腹部が衝撃的なことが起こっており二人は目を疑ってしまう。

 なんと、鳦の腹部にあった痛々しい大きな痣が綺麗さっぱり消えていたのだ。


「どうして消えているんだ? あんな大きな痣が」

「私もビックリだよ。いつの間にか消えているんだもん!」

「でも、痣が消えて良かったな」

「う、うん」


 なにがともあれ一応、二人は無事にデートを楽しむことができて満足するのであった。



 命に関わることが起きたけど楽しいデートも終わり、真は自宅に戻ると玄関の中で妹の美琴が出迎えてくれた。


「お帰り、お兄さん」

「ただいま、美琴」


 美琴は真の身体に抱きつき甘えてくる。


「くっつくなよ」

「今日は離れたくない……」

「頼むから、今日は疲れたんだ」


 美琴の身体を強引に離し、リビングに入ろうとしたとき、

「お兄さん。怪我なくてよかったね」

「えっ?」


 とっさに美琴の方に顔を向けると薄らと不気味な笑みを見せながら階段を上っていった。

 まるで今日、真達の起きた出来事を知っているかのようなそぶり見せつける美琴の言葉に、一瞬背筋が凍るような感じがした。

 だが、痣の件はともかく地震のことはテレビで報道されるから、そのことの心配をしてくれていたのだろう、と思いながら真はリビングに入り、ソファーで寛ぐことにした。

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