第4話 幼馴染みとデートの約束!?

 それから月日が流れ、美琴みことと打ち解けるようになり、本当の妹のように仲良くできるようになった。

 これからも楽しい家族生活を送れるのだと思っていたが、それは大きな間違いだと後々まことは思いさせられる。


 朝を迎え、真はまだ気持ちよくベッドの上で眠りについていると、なにやらフルーツのような甘い香りが真の鼻腔に通ってくる。

 香りのする方に抱きつくように横ばいになると人肌の温かさが伝わり、物凄く離れたくない感情もあるがその反面、脳裏では危険な感情も抱いている。

 複雑な感情が入り交じりながら真は薄らと目を開けてみると、なにやら目を開けた先には布団が盛り上がって隣に誰かが寝ていることが確認できる、真は恐る恐る布団をめくり上げると、そこにいたのは寝間着姿の美琴だった。

 知らずに美琴に抱きついている状態で寝ていたため、急いで腕を放し美琴を必死に起こす。


「美琴起きろ! ここで寝るな!」


 いくら女性への耐性ができたとは言え、このシチュエーションは初めてだ。


「……おはよう……お兄さん」

「おはようじゃねぇよ! なに人のベッドに潜り込んでいるんだよ!」

「だって一緒に寝たいから…………」


 また美琴は寝息に着く。

 この光景を両親に見られたら問題になると思った真は無理矢理ベッドから引きずり下ろそうと美琴の身体を抱きかかえた時、


「真君。朝だよ起きな――お邪魔でした?」


 最悪な光景を瑠依子るいこさんに見られてしまった。

 他人から見れば真が美琴を押し倒してる姿にしか見えない。


「違うんだよ! 勝手に美琴が!」


 全て伝える前に瑠依子は申し訳なさそうに扉のドアを閉めた。

 弁明することもできないまま真は美琴をおいて、しぶしぶリビングに向かい朝食を始める。


「今朝はごめんね。気が利かなくて」


 白い炊きたての白米を真は口に入れていると、瑠依子さんはとんでもないことを発言してきた。

 口に含んでいる物が一気に吐き出しそうになるが必死に堪えた。


「美琴が勝手に人のベッドに潜り込んできたんです! 自分は何もしていません!」

「なんだ! 美琴ちゃんと昨晩セ――」

「黙れ発情期のサル! それと最後の台詞は言わせねぇぞ!!」

 

 朝から父親の発言にイラッとさせられる。

 瑠依子は嘆息たんそくを漏らして真に向かって話しかけ始めた。

 

「あの子、私と二人で暮らしていたときも、いつの間にかベッドに潜り込んでくる癖があったのよね……」

「そんな癖があるなら早く治してあげてくださいよ」

「ごめんなさいね。でも、悪気があってやった行為じゃないのよ。父親が亡くなって以来、あの子は一人で眠ることができないのよ」

「俺は死んでないぞ」

「父さん。大事な話の最中だから間に入るな」

「なに言っているんだ。俺も――」

「春男さんは黙ってください。今、真君と大事な話をしているので!」

「…………はい」


 父親は肩をすくめる姿を見て真は情けなく思った。

 気を取り直して瑠依子は話を続けた。


「あの子が真君の側で寝るということは、それだけ心を開いている証拠なの。だから感謝してるわ」

「心を開いてくれたのは嬉しいことですけど、さすがに一緒に寝るのは……」

「確かに今の真君には刺激が強すぎるからね……。美琴には私から言って聞かせておくから」

「お願いします」


 話が終わると、リビングに美琴が入って来た。


「……おはよう」


 美琴の顔を見て瑠依子は眉をキリリと上げる。


「美琴起きるのが遅い! みんな朝食を済ませたのよ。早く食べて学校に行く支度をしなさい」

「……うん」

 

 美琴は俺の隣の椅子に座り食事を始めた。


「なあ、美琴ちゃん」

「…………なんですか?」

「今日は母さんと父さんと川の字で一緒に寝ないか?」

「…………」

「美琴ちゃん?」

「…………ごちそうさま。それじゃ学校の支度をするので」


 父親の話を無視してリビングから出て行った。

 シカトをされた父親は花が干からびて萎れたように俯く。

 未だに美琴は父親に心を開いてはいなかった。

 それもそのはず、毎日のように父親は美琴に対してセクハラ的な発言をしてくるからだ。

 昨日も美琴に「美琴ちゃんは可愛いね」とか「母さんに似て足が綺麗だね」とか変態親父の言う台詞を吐いていれば嫌われるのも当然。

 リビングから出て、真は学校に支度を始めた。


 美琴は今通っている高校は自宅よりも距離があるため真よりも早く家を出る。

 両親から転校を進められていたが、本人曰く面倒くさいらしい。

 身支度を調えた真も玄関から出て、自分の通う高校へと登校するのだった。


 

 学校での授業もようやく終わり、教室で帰宅の準備をしていると、活発の明るい声が教室中に響き渡たる。

 

「真! 一緒に帰ろ!」

「……うるさいな、一人で帰りたいんだ」

「そう言わずに十二年ぶりに再会した幼馴染みだろ」


 紅色のショートヘアーに顔の輪郭りんかくも綺麗に整っている美少年と思わせる謎の美少女の名は、白鳥鳦しらとりつばめという人物で、真と幼少期の頃に仲のかった幼馴染みである。

 昔は同じ同性と勘違いしていたが、最近父親の転勤理由で真の住んでいる街に引っ越し、同じ高校に転校してきたのだ。

 まさか超絶ボーイッシュ美少女に変身していたことに驚きを隠せなかった。


「早く、帰ろうぜ!」

「ちょっ!」

 

 無理に腕を引っ張られ、強引に教室から引きずり出された。


「たく…、相変わらず強引なんだから」

「いいじゃない。私は真と一緒に帰りたいんだから」


 美琴と瑠依子以外の女性に免疫がない真でも鳦に対しては幼馴染みでずっと男性と勘違いしていたこともあり、緊張など皆無だった。


「ねえ、真」

「ん、なんだ?」

「明日、学校が休日だから一緒にデートに行かない?」

「はっ!?」


 一生言われないワードを突き付けられ、真は理解に苦しんでしまう。


「急に変な言葉を突き付けるな! ビックリするだろ!」


 鳦は眉をキリリとつり上げながら口を開く。


「私は本気だよ。真剣に言っているのに失礼だよ!」

「わっ、悪かったよ……。そう怒るなよ……」

「で、行くの、行かないの?」

「…………行きます」

「よし! 決まりね。明日、九時に迎に行くから。――それと来た時にまだ寝ていたら許さないからね」


 急に子供のように喜び、ルンルン気分の鳦は道の途中のT地路で別れを告げ、帰って行く。予期せぬ出来事に、まだ信じられない気持ちを抱きながら自宅に帰路をする真であった。


 自宅に着き、玄関のドアを開けるとそこには美琴が出迎えてくれていた。


「……お帰りお兄さん」

「ただいま」


 普段着に着替えるため真は二階に上がると美琴も一緒についてきた。


「美琴、服着替えに行くんだから、ついて来ちゃダメだろ」

「…………わかった」


 飼い主に怒られた小動物のようにシュンとしてリビングに戻っていく。

 

 それからしばらくし、夕飯を終えて家族四人はリビングで一息ついていた。


「そうだ、明日夕飯いらないから」

「あらそう、友達と遊びにでも行くの?」

「うん。鳦と街でブラブラするだけだけど」


 デートに行くと言ったら両親と美琴にイジられそうなので、さすがに言えなかった。

 なのに女性との遊びと聞き、両親はニッコリと笑顔になる。


「真くんも彼女ができたのね」

 母さんは微笑みながら話す。

「真、女性と遊ぶのもいいけど羽目を外すなよ」

 父親は真顔になり真に話す。


 父親には言われたくない発言だ。


「…………寝る」

 突如、不貞くされるように美琴はボソッと告げて自室に戻って行った。


 なにか怒らせるような発言を父親がしたのか、と思い、真は両親との会話を続けた。


 

 会話も終わり自室に戻ろうと階段を上っていくと、家の中から鈍い音が微かに鳴り響いていた。

 その音は階段を昇るにつれて少しずつ大きくなり、音のする方へ進んでいくと、どうやら美琴の部屋から聞こえてくる。

 ドスッ、ドスッ、となにかを叩き付けてる音が聞こえた。

 なにをしているのか気になり、美琴がいる部屋のドアをこっそり開けようとしたとき、


「――なにやっているんだ真?」

 

 背後から父親の声が聞こえ、真は素早くドアの取っ手から手を引っ込めた。


「なんでもないよ!」

「なに戸惑っているんだ。――さては美琴ちゃんに夜這いを――」

「するわけないだろボケェ!」

「仕方ない。俺も共犯者になってやるから一緒に部屋に侵入するか」

「気持ちの悪いことを言うな!」


 なにを言ってもこの父親は無駄なので相手をせずに真は自室にそそくさと戻った。


 明日は大事な日でもあるため、素早く宿題を終わらせてすぐに風呂にも入り、早めに真は就寝したのだった。

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