第4話 師弟

 エマと出会って1ヶ月、彼女たちの兵役期間が始まってから3ヶ月が経った。


エマは筋がよく、狙撃の基礎から『弾丸操作』の魔術まで、割とそつなくこなすようになっていた。


 ダンッ!


「よし、移動しようか」


「はい……!」


敵兵に聞こえないよう小さく、それでいて元気に返事をするエマは、私の後ろについて移動する。


 この調子なら単独任務につけても良いかもしれない。


「師匠。次はあそこなんてどうですか?」


「どれどれ……うん、良さそうだ」


狙撃地点に移動し終え、エマの提案で次の狙撃位置を事前に決める。


 その場に伏せて、スコープを覗く。


 ダダンッ!


銃声とともに私とエマの手首が発光する。

偶然か必然か、エマの痣は私と同じ手首にあった。違いは彼女の痣は左手首にあること。


曰く月下美人の花の形らしい。


「「『弾丸操作』……」」


 私とエマの声がハモる。同時に放たれた2発の弾丸は敵戦車の砲身に吸い込まれ、『弾丸操作』の応用技、によって爆発した。


 エマは生粋の魔女である。という島国生まれ、メイド育ちのメイド国軍兵士だ。ややこしい……。

故に彼女は魔術をよく使う。それを隣で見ていたせいか、私も魔術に対する抵抗が薄れてきているような気もする。


「目標撃破確認。師匠、移動しましょう」


なんてたくましく育ったん――いけない、親じゃないのに親バカが出るところだった……。


 言われたとおりに、先ほど決めた位置に移動する。


「よし、あの2台を破壊すればあとはキリエがやってくれそうだ。殲滅できれば任務完了だね」


「キリエさんはすごいですね……あんな動き、魔女離れしている……」


魔女目線でも驚異的な動きを見せるキリエ。彼女にも憧れの人……魔女がいることに驚きだ。

よもやま話はさておいて――。


 ダダンッ!


ブルーグリーンの光を纏った弾丸は、狙い通り戦車を破壊する。魔術で操作しているから外すことはないんだけれど。


 2台の戦車が爆散するのとほぼ同時に、キリエたち歩兵部隊も残りの戦車の殲滅に成功した。


「やりましたね師匠!」


「うん。敵が来ないうちに戻ろうか」


「はい!」



  ――✿✿✿――



 銃声から離れて、無事に兵站へたどり着くことができた。ここは安全だろうけど、毎日人を殺して、仲間が殺されて、平然としていられる自分に驚いている。

前世でこんな状況に置かれたら、間違いなく気が狂っていただろう。


「おお、お疲れー枝分かれー。なんてね」


オヤジかっ! とツッコみたくなるがこらえる。

彼女はコト=シュテルンベルク大佐。私が中尉でキリエが少尉だから、私達の上司に当たる人だ。


「ただいま戻りました」


「今日もお疲れ、魔少女諸君」


暗い銀色に輝くボブヘアを揺らしながら、コト大佐は私とエマの肩に手を置く。


「あとはキリエが戻ってくれば3人組は今日も維持か」


傍らでエマが嬉々とした表情をしている。3人組の中に入っていると思っているんだろうが、3人組というのは私とキリエとルリなんだ。申し訳ない。


 その時、背後に誰かが着地する音がした。

こんなことするのは――。


「ただいま戻ったぜ大佐!」


やっぱりキリエだ。


「お帰り、揃ったね」


「おう、任務完了だぜ!」


キリエこれが許される軍は、前世含めメイド国軍だけだろう。もしかしたら更にコト大佐だけかもしれない。

それくらいコト大佐は私たち若者のことを、大差の言葉を借りるならのことを大事にしてくれている。


「さてさて、早く3人組を合流させてあげたいところだけど……」


「任務ですか」


「話が早くて助かるよ。目標は敵の兵站。君たちの活躍でだいぶ前線を上げられたからねこのまま敵の拠点を叩こうってわけさ」


「了解です。私とエマは援護として、突撃はいつ――」


「それなんだけど、今回はヒバナとエマは別行動を取ってもらいたい」


「えっ、どうしてですか!」


エマが残念そうに声を上げる。


 流石に驚くほどのことではないけれど、物事には必ず理由がある。そういう意味では「どうして」と問いたい。


「ヒバナには先回りして、敵の注意を引きつつ戦力を削ってもらいたい」


「なるほど囮ですか……はは、狙撃手に頼む任務じゃありませんね」


「分かってる。自分たちもできるだけ早く終えられるように善処するよ。10分で方を付けるさ」


たくさんの敵の注意を引きながら狙撃する。相手にだって狙撃手はいるはずだ。反撃が来ないとは限らない。

そんな危険な任務、返事はもちろん――。


「了解しました。全力で遂行します」


「頼もしい限りだね……」


大佐は任務を伝える険しい表情から一変して、穏やかな表情になる。

任務を受けたのは他でもない。飄々としているが、コト大佐の強さを知っているからだ。


「エマは私の反対から突撃部隊の援護を、キリエはエマについてほしい」


「あたしが離れて大丈夫なのか?」


「大丈夫。10分くらい持ちこたえるさ」


「分かった、エマのことは任せとけ!」


 魔女に転生したら、人間と戦争してるわ魔術で寿命が短いわで嫌なことばかりだと思っていた。

でもそれ以上に、頼れる上司、かわいい後輩、優しい親友、そして頼もしい相棒ができた。


「任務開始は明日の夜明けだ。それまで英気を養ってくれ」


「「はっ!」」


全く、いつまで経ってもキリエの敬礼は決まりきらないな。



  ――✿✿✿――



 空が明るみはじめた頃、私の1発の弾丸が任務の開始を告げる。


 ダンッ!


兵站の天幕の入り口で歩哨に立っている敵兵の頭が貫かれる。今日の私も好調だ。

敵襲に気づいた別の兵士が、慌てて仲間を起こして回る。


そこへさらにもう1発。


 ダンッ!


さて、少し離れよ――。


 パシッ! と音がして、背後の木の枝が弾け飛ぶ。


「ひ〜、危な!」


少しずれてたら貰ってた……。


 明るくなってきたとは言えまだ薄暗い。魔術の光でバレないように、使うのは控えてたはずなんだけどなぁ……。

寝起きのくせに敵もなかなかやるな。

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