第2話 異世界の戦場

 爆音が響き、私は目を覚ました。そこは戦場。とは言っても後方の比較的安全なところだけれど……。

それにしても懐かしい夢を見た。随分と鮮明だったものだから、後頭部が痛いと錯覚している。


 今のは私がこの世界に転生して来てから間もない頃の出来事だ。3歳の頃の記憶があるとは、前世と比べて記憶力が良くなった気がする。


 あれから早十数年。私はもう18歳になってしまった。

あの時水の入った瓶をふっ飛ばしたのが、私が初めてを使った時だったなぁ。今では当たり前に使っている魔術も、当時は本当に驚いたものだ。


「さてと……今日も仕事だ」


 私は、に転生した。そう、ラノベなどで黒い三角帽やローブに身を包み、仲間と一緒に戦うあの魔女。

――だったら良かった。

この世界で魔女は、魔術を持っているが故に人類から迫害され、虐げられ、殺される存在。


、行こう」


「おう!」


 私の言葉に元気よく返事をする彼女は、相棒のキリエ=エアハルト。彼女もまた魔女であり、魔術を持っている。

キリエは手に持っていた紐で金髪を短く束ねると立ち上がり、天幕の外へと顔を出す。


「おし、向かおうぜ」


「うん」


 私とキリエは天幕を出て前線へと向かった。



  ――✿✿✿――



 曇天の下を私は狙撃銃を持ってひた走る。

戦場での私の役割は「狙撃」――のはずなんだけれど、存外目標地点が遠い……。これじゃもはや凸砂突撃するスナイパーじゃないか。


「ヒバナ、大丈夫か?」


「大丈夫、まだ平気さ」


 とは言いつつも多少息は上がってきてるんだけど……。

対してキリエは、顔色一つ変えずに私と並走している。何だったらまだ全力ではない。


 それもそのはず、彼女はFPSで言うところの「ナイファー」。しかも魔術で身体能力が大幅に上がっているからだ。


「いるね。2、いや3台か」


 前方に戦車を発見し、戦闘体勢に入る。たかが歩兵二人に戦車3台がやれるわけがないと思うかもしれないが、魔女ならそうとも限らない。


「キリエ、1台任せていいかな」


「おう、もちろんだぜ」


 キリエは返事をすると凄まじい跳躍力で戦車の方へと跳び去った。


 私は走りながら木製のストックに頬を着け、スコープを覗く。振動で大して狙いが定まらないが、そこは魔術でカバーしよう。


 ダンッ! ダンッ!


 戦車に向かって引き金を引き、連続で2発の弾丸を放つ。ボルトアクションはこの排莢するときが楽しいんだ。


……」


 声に出す必要はないんだけど、余裕があるときは、ね。

つぶやいた途端、私の右手首の内側がブルーグリーンに発光する。正確にはそこにある、彼岸花のような模様の痣が光っている。

この光こそ魔術が発動した証拠だ。


 向こうも私とキリエに気づいたけれどもう遅い。ブレブレのエイムで放たれた弾丸は、私の魔術『弾丸操作』によって軌道修正、そして加速し、吸い込まれるように2台の戦車の砲身の中へと入っていく。


 そして、私に向けて放たれるはずだった砲弾をも貫き、空気を震わすほどの爆発を起こした。戦車はもちろん木っ端微塵に吹き飛んだ。


「もう1台は、と」


 キリエが迎撃に向かった方を見てみると、驚くべき機動力で戦車を翻弄し、戦車の中へ潜り込むキリエの姿があった。

中から数回悲鳴が聞こえ、戦車は動きを止めた。


 戦車から顔を出したキリエは、まるでヒーローかのように軽々と跳んで私の目の前に着地する。あ、女だからヒロインか。


 まぁそれはともかく、私とキリエは再び目的地に向かって駆け出した。



  ――✿✿✿――



 無事、かどうかは分からないけれど狙撃場所にたどり着いた私は、狙撃の体勢に入る。


 私とキリエの今の仕事は、兵役期間中の生徒を援護すること。キリエや白兵線が得意な魔女が近距離を、私や狙撃が得意な魔女が遠距離から危険になりそうな敵を排除する。


 兵役期間とは読んで字の如く、兵士として戦場で戦う期間のことだ。中等学校3年次、分かりやすく言うと中学3年生になると、10ヶ月間の兵役期間が設けられる。もちろん私たちも経験した。


「さて、ここからなら……」


 私の頭の中では「次の場所まで移動も楽だし良いだろう」と言葉が続いている。


 兵役期間の生徒の中には、もちろん狙撃を得意とする生徒もいる。そういう生徒は私のような教育係が1人ついて狙撃を教えるのだが、生憎私にはまだいない。


 魔術は個性、1人1つの超常的能力。だからこそ学校では魔術に合わせた戦い方を教えてくれる。

でも私は、基本的に狙撃で魔術は使わない。理由は2つ。1つは魔術を発動した時の光で場所が知られてしまうから。

彼のシモ・ヘイヘは、スコープのレンズによる光の反射で位置を知られるのを嫌ったため、スコープを付けずに狙撃したという。

太陽を背にすればたとえブルーグリーンの発光でも分かりにくいとは思うが、今日のような曇り空ではそうもいかない。


 2つ目は――おっと、敵が来てしまった。


「ふぅ……」


 下でアサルトライフルを乱射する敵兵たち。大陸を統べる人類は、資源が豊富でいいものだな。


 ダンッ!


 たった1発の弾丸で人が1人死ぬ。どこから撃たれたかまだ理解できていない敵兵は、辺りを見回して隙を晒す。もう1発くらいならバレなさそうだ。


 ダンッ!


 300mもないところから頭を撃ち抜いては様子を見る。1人でもこちらを見ている敵が出てきたらすぐに移動する。そうしないとあっという間に反撃されてしまう。

敵から見えない丘の裏側に周り、斜面を滑るように下って場所を変える。前世ではこういう場所から落ちて死んだのだ。二の舞にならないようにせねば。


 さてさて、私が狙撃であまり魔術を使わない理由2つ目、それは。


 ――魔術の発動に、が必要だからである……。

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