第149話 傾向と対策 (2)
「あの子を助けるですって?」
小山内は俺の言葉に絶句した。
まあ小山内としては、あのがるがるしてる相手を助けようだなんて、想定のはるか外側だったのだろうから仕方がない。
だからしばらく小山内が戻ってくるまで待つ。
「ちょっと待って。」
戻ってきた。
「ええと、薮内さんを助けるってことはどういうこと?」
まだ戻ってくる途上だったらしい。
なので俺の方から迎えに行く。
「それは、俺を夫にしろっていう省三さんと武光さんの命令をぶっ壊すってことだな。」
「いいわ。やりましょう。何か方法を考えてるの?」
ん?小山内は縮地使いか?いきなり戻ってきたと思ったら、既に目的に向かって出発してた。
「いや、まだだ。だが俺はいま16歳だから結婚できない。だから時間には余裕がある。それに俺の気持ちも無視して結婚なんてできないだろ。」
「あんたの気持ち?」
「そうだ。」
小山内が電話の向こうで息をのむのが伝わってきた。
「そうよ。あんたはどうなのよ。あんた、あの子のことを綺麗って思ってるんでしょ。私から見ても綺麗だと思うわ。あんたあんな綺麗な子と付き合いたいって思ってるんじゃないの?」
小山内の声がだんだん小さくなり、自信なさげな声になっていった。
「いや。その気はない。」
俺は、力を込めて答えた。
だが。
「それは、あの子自身の問題じゃなくて、あの子と付き合ったらもれなく省三さんとか武光さんがついてくるから、とか?」
何でそういう、俺がお嬢様に気があるかも知れないってふうにとるかな。
俺がお嬢様に気がないってことをはっきり言っておかないと。
もう一度腹に力を込めてはっきりと言う。
「いや、俺には付き合いたいって思ってる人がいるから。」
俺の気持ちに気付いてくれよ、って願いも込めてみた。
「え?そ、そうなの。それは、藪内さんじゃ無いってことなの?」
「だからそうだって。」
「…それって、私の知ってる人?もしかして、ユリちゃんとかうっちとか。」
小山内には通じなかった。お前どんだけ鉄壁なんだよ。
そんなこと小声で聞いてくるくらいなら、「それもしかして私?」とか冗談めかしてでもいいから言ってみてくれてもいいじゃないか。
「さあな。」
だから、俺は気持ちを悟られて小山内と一緒の時間を失わないように、こう言うしかない。というか、小山内に、好きな人はいるんだろうか。
とても気になるところだが、今はそれは後回しだ。
…そんなこと下手に聞いてしまったら、答えによっちゃ大打撃だしな。
「さあなって、あんた。」
「とにかく、俺は藪内さんには、友だち以上の気持ちなんて持ってない。」
「そうなの…。」
「だから、省三さんや武光さんがいくら言っても無理なものは無理なんだ。あとは、藪内さんがしっかりと省三さんたちに自分の意思を貫いてくれれば、全部解決する。俺たちは、そのサポートをしよう。」
「わかったわ。一緒にアイデアを考えましょ。」
この感じは。
きっと、スマホの向こうの小山内の視線にはいつもの強い光が戻ってたんだろう。
「ああ、その前に、俺たちの考えを藪内さんに伝えるかどうか、小山内、どう思う?」
「そうね。でも、最終的には、藪内さんの口から、省三さんたちにノーって言ってもらわなきゃならないのよね。」
「そうだな。でも、今は、藪内さんは諦めてるみたいだから最初から伝えても、反対されるだけで、やる気にはなってはくれないかもしれない。」
「そうね。」
「一番いいのは、藪内さんに好きな人が出来て、省三さんたちと戦う気持ちになってくれることだよな。」
「それもそうね。意外とすぐに好きな人が出来るかも知れないし。あんたよりもいい男はきっといるわ。」
俺の脳裏に、伊賀やホリーの顔が浮かんできた。
「そうだな。」
浮かんではきたが、わざわざ小山内に名前を出したくない。
だが、思いついたことがあった。
「藪内さんに、好きな人が出来るってふうに超能力を使うのはどうだ?」
「そういうの良くないと思う。それに、自分たちのためには超能力を使わないって決めたじゃない。」
「そうか、そうだな。藪内さんだけじゃなく俺自身のために使うことにもなるもんな。」
「えっ?ええ。そ、そうね。」
なぜか小山内は、慌てたようだ。なぜだろう。
ただそれよりも、超能力無し縛りで、俺たちに何が出来るかの方が大事だ。
しばらく俺たちは無言で考える。
「うーん、なかなかいいアイデアが…」
「私もいいアイデアが浮かばないわ。」
「困ったな。」
よく考えたら、一度も誰かと付き合ったことのない俺たちに、他人に恋愛してもらおうなんてアイデアがすぐに出てくるわけがない。
「とりあえず、あんたは、あしたすぐに藪内さんにお前とは絶対結婚しない、諦めろ、って伝えるのが先決ね。」
「だから、『絶対』って使ったらだめだろ。」
「だったら、ええと、結婚はしないかもしれないって、そんなんじゃだめじゃない!」
「俺に怒るなよ。だが、困ったな。弱い言い方だと聞いてくれなさそうだ。」
「そうよね。」
そうだ、もともとの話はお嬢様でなく省三さんたちなんだから、黒幕を直接攻めるってのはどうだろう?
「なあ小山内。思いついたことがあるんだが、直接省三さんに会いに行って、俺が大した人間じゃない、買い被りすぎだ、って言うのが1番かもしれない。」
「あんたに省三さんを説得できるの?薮内さんですら説得出来なかったのに?」
たしかに孫の言うことすら聞かないのに俺の言うことを聞き入れてくれるはずもない。
結局、2人ともいい考えは浮かばず、俺が夕食に来ないことに切れかけた母さんの乱入で小山内との電話は唐突に終わってしまった。
俺たちが相手にしなきゃならないのは、お嬢様なのか、それとも省三さんたちなのか。それすらわからないまま。
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