第6章 小山内凜香

第47話 後日談から始まるストーリー (1)

あの事件のあとの話しだ。


春田さんちで大騒動があったの次の日、登校したら、鞄を置く暇もなく口角を引き攣らせてアレな笑顔で近寄って来た小山内に、ドスの効いた声で


「来なさい。」


といつもの藤棚に招待された。


そんで大人しくついて行ったら、藤棚に着く前なのに、人気がなくなったところでいきなり、


「このバカ、このバカ!」


って抑えた声で罵られながら2回蹴られた。

まあこれはしょうがないよな。


「なんであんなことしたのよ!」


とも言いながらだったから、たしかに小山内達に何も言わずに警察に協力して貰ったのは悪かったかもな、と思ったんで


「警察に来てもらって、もし俺たちの勘違いだったら、怒られるのは俺だけにした方がいいじゃないか。」


って説明したら、さらにすごい形相になって


「あんたバカなの?本当にそんなバカだったの?」


だってよ。

何が?何を怒られてるのか分からん。

その不満が顔に出たのか、小山内は、


「あんたの顔なんかしばらく見たくない!」


って言いやがるわ、俺をほっといて教室に戻りやがるわだし。

そこまで怒られるようなことをしたとも思えないので、俺も腹たったから、それ以上謝る気にもならなかった。


その週の金曜日、学校に出てきた春田さんが俺の教室にやってきて呼び出された。


「小山内さんだけじゃなく春田さんまで、くっ!」という、どこかで聞いたような声を背後に浴びながら、連れて行かれたのは何故か体育館裏。


そんなことがありえないのはわかってるけど、ドキドキだぜ。

何故ありえないってわかってるかって?

あの変態探偵の姿を見せられてそんなことがあるわけないだろ。

おまえらラノベの読み過ぎ。


体育館の裏で春田さんは俺に頭を下げてから話し出した。


「俺君、今回はほんとうにありがとう。お父さんはまだ入院してるけど、明日には退院できるそうなんだ。お父さんをこんな目に合わせたやつらも捕まったし。

警察の人が教えてくれたんだけど、あの日、警察の人に来てくれるようにお願いしてくれたのは俺君だったんだってね。お陰で家族がこれから安心して暮らしていけるよ。ありがとう。」


そう言って春田さんは俺にもう一度頭を下げた。


「うん。あいつが自分から喋らなかった時は焦ったけど、下手な芝居を打ってよかったよ。」


しかし、春田さんは俺の言葉に微妙な反応をした。


「そのことなんだけど、一つだけ言ってもいいかい?」


ん?


「なんだ?」

「小山内さんのことなんだ。」

「小山内?」

「そう。あの時、俺君が中橋を追い詰めて行ってたあの時、小山内さんがひどくその怯えてたというか動揺してたというか、とにかくそうなってたことに気づいてた?」

「いや、気づいてない。ドン引きしてるように見えたけど、実際はそうだったのか?」

「うん。小山内さん、私の手を握ってくれてたんだけど、震えてたし。」


なんでだ?小山内が震えるようなこと起こってたっけ?


「あの日の夜、小山内さんと話したんだけど。俺君は小山内さんと相談もなしにいきなり中橋に秘密を全て知ってるフリをして喋らせようとしたんだよね?」

「ああ。超能力が効いてるはずなのに、自分から喋ってくれないから、何か喋る動機を作らなきゃと思ってな。警察がすぐ横で聞いてくれてるのも知ってたし、危険はないと思ってた。」

「そうだったんだ。でも、小山内さんは、警察のことも知らなかったし、中橋は平気で犯罪に手を染める奴だから、口封じとか逆上してとかで俺君を、その、刺したり撃ったりするんじゃないかって思って恐ろしかったんだって。」

「そんなことは…」


いや。たしかに可能性としてはあったかもな。

その直後に警察が出てきたら逃げようとして大暴れするような奴だったから。

俺は超能力が効いてるはずだから、追い詰めていけば喋ると考えてたけど、俺を殺そうとしないって保障はどこにもなかった。

今頃気づいたけど、有名サスペンスみたいに瀕死の俺の前でペラペラ喋るってパターンもあったのか。


今更ながら背中にどっと冷や汗が出てきたぜ。


何度も言うように、俺は超能力を持ってるだけのただの高1だ。一直線にナイフを突き刺されたり、拳銃で撃たれたりしたら、超能力を使う暇もなく多分あっさりやられてしまう。


そうか、もしそうなったら、警官が飛び込んでくる前に小山内や春田さんや春田さんのお母さんも殺されてたのかもしれなかったのか。

俺は自業自得だから、と言っても死にたくないけど、それよりも、もしかしたら俺のせいで小山内達が。

俺、ダメな奴だ。調子に乗ってガキみたいに突っ込んでって、周りの人を危険に巻き込んで。

俺、本当にバカなやつだ。


そこでようやく俺は気づいた。

小山内の怒りの原因はこれか。


俺の勝手な判断のせいで小山内達を危険に晒したこと。

警察のことを知らせなかったせいで、小山内と春田さんまで殺されるかもしれないという恐怖に晒したこと。


「そうだな。ごめん。春田さんを危険に晒してしまって。」

「ははっ。私は大丈夫だって。あんな運動神経鈍そうなおっさんに襲われても、返り討ちだよ。」


春田さんはそう言ってにっこり笑い、スッと体をかわしてパンチとキックを浴びせる真似をした。

そして真剣な表情に戻り教えてくれた。


「でも、小山内さんは違うからね。」

「ああ。今から謝ってくる。」

「うん。あ、その前に。」

「ん?」

「あの探偵みたいに追い詰めてくのが俺君の超能力だったのかい?」

「それ、俺にも分からない。春田さん、いつか解明に協力よろしく。」


そう言うと俺は春田さんに手を振って急いで教室に戻った。


朝のホームルーム前のざわつきが最高潮に達してる教室に駆け込む。と同時に小山内と目が合う。

ブスーっとしてるが、無視はされ無いと思うんだけど、どうだろう。

俺は小山内に近づいていく。

席についていた小山内は俺を見上げる。


「小山内…」

「あんたバカの上に物覚えも悪いの?しばらくあんたの顔見たく無いんだけど。」


そう言って小山内は机に両肘をついてそっぽを向いた。


「凛ちゃん、そういうこと言っちゃダメだって。」


小山内の前に座ってる榎本さんがオロオロ気味にとりなしてくれるが、ここは一方的に俺が悪いんだ。


「榎本さんありがとう。でも俺は小山内にそう言われて当然のことをしたんだ。だから小山内は間違ってない。ただそれでも一言謝りたくてな。」


小山内はそっぽを向いたままだ。俺は小山内の机の横に立ち尽くす。


俺たち周囲から異様に静まり返っていく。教室中の視線が俺達に集まった頃、チャイムが鳴った。


委員長の榎本さんが、俺たちの方をコソコソ話しながら見てるみんなに席に着くように促した。


「俺君もね。何やったのか知りませんが、小山内さん優しいから誠意をもって謝ったらきっと許してくれますよ。ね、凛ちゃん。」


榎本さんは、何も知らないだろうに、俺に優しく声をかけてくれた。

小山内は榎本さんの声に何も言わなかったが、ぴくりと背中を動かした。


その背中に、俺は、声を掛けた。

「放課後、いつもの所に来て欲しい。たのむ。」


小山内は、何も言わなかった。



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