第20話 入部テスト (2)
俺は再び小山内に呼び出されて、今度は正解が記入された紙を配った。
その後、小山内の指示で、俺も含めて、自分の答案を隣の席の奴と交換して、穴埋めと選択肢の部分を採点。
採点する赤ペンの音が満ちてしばらくした頃から、教室内の空気が、なんとなく、それまでの押し殺したような空気からほっとしたような空気に変わっていった。
みんな、自分だけが不出来だったんじゃないかと恐れてたのが、隣の人の採点をして、そうじゃなかったとわかって安心した、ってとこだろう。
険しい顔をし続けてるのは、俺の答案を採点してる俺の隣の、別のクラスの奴だけ。
チートでごめんな。
採点の音が大体消えた頃、小山内は、採点が終わった答案を持ち主に返すように指示した。
配点はどれも1問2点だから計算は早い。
俺の元にも答案が戻ってきた。赤い字で俺の名前の横に点数が書いてある。
「74点」
小山内から、満点を取らずに1問か2問はわかったとしても間違えなさい、と言われてたこともあるけど、実際は、どうしてもわからなかった問題が2問。
結果を見ると、どうやらそれ以外にも間違えた問題があるらしい。
目で追っていくと、穴埋めの空白でわからなかった問題以外でもう1問、誤字で間違いになってたのがあった。
小山内が指定した以上に間違えてしまったけど、どうなんだろう。大丈夫だろうか。
そういう気持ちで小山内をみたら、感情を読み取れない、厳しい目をした小山内とが合った。
俺の視線を受け止めた小山内は、教壇から降りると俺の方へ。
「では、俺君の点数を確認します。」
近寄ってきた小山内は、遠見ではわからなかった僅かに心配の色を眉に乗せ、それでも有無を言わせない手つきで、俺の答案を取り上げた。
小山内にどんな表情が浮かんでるかは答案に遮られて俺からは見えない。
「俺君は74点です。53点以下の人は不合格になります。」
その瞬間、
「ええーっ!」
「そんなー!」
「ありえない…」
という声がクラス中から巻き起こった。
青木なんて、また立ち上がって俺をにらみつけながら武士をやってる。たぶん。
河合は、あ、今まで眼中になかったから言わなかったけど、もちろん死ね死ね河合も参加してるぞ、その河合も
「嘘だーっ!」
って……泣いてるのかあれ?
小山内が冷静に、でも無言でクラスを見回すと、その騒ぎはだんだん収まった。
でも、1人、見慣れない、このクラスじゃない奴が立ち上がって落ち着いた口調でみんなが思ってることを代弁した。
「この結果は納得できない。僕の点数は48点だったけど、これは、おそらく普通にしてて取れる点数の限界を超えてるはずだ。言っては何だけど、君は、その俺君になにか問題を漏らしたとか、弱みを握られてるとかじゃないのか。」
なんか、すごい自信満々なことをさらりと口にしやがった。
ん?
あ、こいつ入学式で新入生代表だった奴じゃないか。
つまり、入試成績トップだったってことだ。
なんで、そんな奴がこんなニッチな部活に興味持つんだよ。やっぱりお前みたいな優秀な奴でも、小山内の、いい方の中の人にめろめろにされたのか?
とはいえ、言いたいことはよくわかる。
おれも、こいつの意見に頷きまくってる一同と同じ意見だ。
現に問題が漏れてるからな。
小山内は、教卓に戻りながら、優秀君の目を見据えて反論した。
「そんなことはありません。私が、個人的な感情で俺君を自分の部活に入れたり、弱みを握られたりしてたりということは絶対にありえません。
私のクラスの人に聞いてもらえればわかりますが、私は、俺君からの告白をあっさり断っています。弱みを握られていないことはこれでわかるはずです。
また、同じ理由で、個人的な感情で俺君を自分の部活に入れたりしないことも分かるはずです。」
これか。ここに通じていたのか、この数日間の俺の艱難辛苦は。
たしかに、2人だけの部活を飲まされるような弱みを握られてたら、そもそも告白をあっさり断らないよな。
って、あっさり断られてなんてないぞ、俺は。
いや違う。
告白なんかしてないぞ、俺は。
それに、俺が感心したのは、「俺君になにか問題を漏らした」とあの優秀君は指摘したのに、小山内は「個人的な感情で俺君を自分の部活に入れたりしない」と話しをずらして答えたことだ。これは嘘じゃない。
小山内が俺を部活に入れたのは、個人的な感情じゃなくて、俺と小山内の利害の一致によるからな。
屁理屈コネ男と屁理屈コネ子、今ここに爆誕!
でも、小山内の弁明は意外にも強い効果を発揮した。
俺は俺で小山内に告白したことを認めた形になってたし、俺が教室で酷い目に遭って、しかも小山内がそれを冷たく突き放してたのは、俺のクラスメート全員がしっかり目撃してたことだ。
あれを見てたら、小山内の言い分を信じざるを得ない。
現に、
「たしかに、あっさりふられたみたいだし、青木もあいつが泣いてたって言ってたな。弱み握ってる奴の態度じゃないな。」
とか
「あの2人釣り合うはずがないから、凜ちゃんにあっさりふられたっていうの、とってもわかる。」
とか、ささやきが飛び交ってる。
しかし優秀君は、まだ言いつのる。
「僕は、なぜそう言い切れるのか、理解できない。彼が告白してあっさりふられたというシーンも見てないからな。」
おまえらあっさりあっさり言い過ぎだろ。いくら俺でも傷つくぞ。
あ、小山内の口元が、なんか歪んだ。
あれは何だ?悪い予感もするが、俺の数少ない小山内経験(きゃーっ!)からすると、罠にかかったぞ、的なゆがみ方にも見える。
「わかりました。そこまで言うのでしたら。」
一旦、教卓に戻った小山内が俺の方に近づいてくる。
や、これ、もう悪い予感だけしかしないぞ。
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