第18話 新入部員募集中(嘘) (2)

小山内からの指示はこうだった。


「あんた、もし、なんで私の作る部活に入れたのかって聞かれたら、何て答えるつもり?」

「ありのままに。呼び出されて、気がついてたら入れられてたって。」


小山内の表情を見た俺は、慌てて付け足した。


「そう言うつもりだったけど、まずいよな。」

「そうね。」


小山内が、「まるで信用出来ない」って言いたいときの表情はこれか。記憶しておいてやろう。


「そうね…こうしましょ。あなたが、私に下心を持ってどこの部活に入るか聞いてきたの。私が正直に答えたら、なぜかあなたは中世史に詳しくて、断り切れなくなった私は泣く泣くあなたの参加を認めたの。しくしく。」


小山内は、調子に乗って本当に、「しくしく。」まで言って、おまけに、長いまつ毛に触れそうに手まで当てる振りをしてたからな。俺の創作じゃないぞ。いくら、希望どおりお助け部を出来そうだからって、浮かれすぎだぞ、お前。

今一瞬垣間見せた笑顔がすごくかわいいから許すけど。


まあ、それでも正直に経緯を話さないとなると、この線で行くしかないのかと思ったから、その時は仕方なく、俺は、「わかった。」と言った。



だがしかし。一瞬の笑顔で買収できる範囲は超えてるぞ。これは。


この場面で小山内のシナリオどおりの説明をしたら、どうなるか。

肉壁3.0だろ?


なんかいい感じに脚色してやる。

みんながこっちの会話にも注意を向けてるみたいな、昼休みにしては教室内が静かになってることを確認した俺は、さらに効果的になるように勿体ぶった声音で言った。


「小山内さんが勝手に俺の名前を使った。」


爆弾炸裂!


「なんでー!!」


教室中に響く悲鳴に怒号!

小山内も「なんで、あんた!」って顔をして慌てて立ち上がってる。

小山内含めていい気味だ。


「それは冗談として。」


おい、おまえら、バラエティ番組の見過ぎだ。

盛大にコケるな。

勝手に俺たち3人の会話を勝手に聞いてたんだからお前らにブーブーいう資格はない。

まあ、とりあえずフォローだな。


「小山内さんが、職員室の前で誰かと話してたんだよ、中世の部活がないから、自分で作るって。それを聞いて、俺も前から源平とか南北朝に興味あったから、声かけたら話が合って、それで入れてくれって話になった。」


「まぁそんなところだと思った。」


さっきのコケに参加しなかった伊賀がクールに言った。

そんなところって、お前ね、一応俺の友だちだろ。


「き、君は、小山内さんの親切を逆手にとって、告白までやったのか、このっ!このっ!痴れ者が!」


青木、おまえ、武士か?武士なのか?

猛烈な勢いで立ち上がって、俺を指で指してまで非難する青木に、さすがにカチンときたので、俺は言い返してやった。


「人の告白を覗いて、言いふらすのは痴れ者じゃないんですかー?」


青木の顔色が真っ赤から真っ青になった。

いい気味だ。スッキリしたー!

青木の武士発言であっけにとられたクラスのみんなも爆笑!

ホリーも笑ってる。伊賀も、苦笑いだ。

まぁ、俺が告白したと自供した形になった以上、もう、後で、違うって言えなくなったけど、それはもういいや。


「とにかく、偶然だよ。」


「そうほんとに偶然なのよ。せっかく部活を作るんだから、詳しい人がいたら便利でしょ。」


ようやく小山内登場。

俺を睨んでからだし、俺を猫型ロボットのポケット扱いしたのは気にくわない。けど、このへんが落としどころでしょう。

立ち上がった小山内はみんなを見渡しながら、シナリオどおりの流れがくるのを待っている。知ってるのは俺だけだけどな。


「俺も、俺も興味あるから!」

「わたしも入りたい。」


最初は遠慮がちに、そして、我先にとわき上がる声。

もちろんこの流れは小山内の読みどおりだ。


「困ったな。どうしよう。歴史研究会とかぶらないようにこぢんまりとやるつもりだったし。ちょっとだけ考えさせてくれる?」


これもシナリオどおり。

次は、入部試験の話になるけど、どう切り出すつもりだろうか?

小山内はしばらく考えるふりをして、申し訳なさそうな顔をして話し出した。


「うーん、ええと、そうだ。俺君に入って貰うかどうか決めたとき、真剣に取り組んでくれるかどうか、ちょっと入部テストみたいなことをしたの。せっかく作る部活だから、ちゃんとやりたいから。」


さっきの俺の説明と微妙に食い違ってる気がするけど、これがもともと小山内が考えてたルートなんだろうな。

脚色して悪いことをしたかもな。


「どうだろう、みんなを希望どおりに入れたら俺君に悪いから、俺君と同じような入部テストしてもいい?顧問の森先生にも、お願いするとき、ちゃんと部活するのでお願いしますって言ったから。」


もと肉壁軍の皆さんはそろいもそろって、余計なことしやがって、みたいな顔でおれを睨んでるし、女子達は女子達で、あんた何なのよ、みたいな顔をしてるのもいる。


「そうね。凜ちゃんがいうこともわかる。凜ちゃん真面目だもん、そんな不義理出来ないよね。」


おっとぉ、意外な所から援軍が。竹内さん、ナイスアシスト!ありがとう!

小山内も、感謝の笑みを浮かべて、「ありがとう」なんて言ってる。

なあ小山内。その言葉、俺にも言ってくれても良いと思うんだが。


小山内は、ぺろっと舌を出して、


「ごめん、じゃあ明日までに、問題考えてくるね。」


と、入部試験の日程を明日に決めてしまった。内心、無理だよ、そんなの、ってみんな思ったと思うが、舌だし小山内に反対できる奴、いたと思うか?


さて、小山内が予想していた最終場面だが、来るかな。


「小山内さんを疑うわけじゃ決してないけど、奴がそんなに出来るとは思えない。奴にも、その入部試験をとやら受けさせて欲しい。公平にお願いする。」


奴とかって、青木、お前はやっぱり武士か?

「疑うわけじゃない」、の前に「決して」ってつけるくらいのヘタレなのに、お前は武士なのか?


で、もちろんここまで読んで、小山内は俺に、あの分厚い資料と、カンニング用試験問題を渡してたわけだ。


小山内、おまえの本名は、諸葛凜だったりしないか?

そんな気持ちを込めて、俺は小山内を見つめたが、小山内は俺の方を見向きもしなかった。

どう解釈したらいいんだ。これ?











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