第3章 部活始めます

第17話 新入部員募集中(嘘) (1)

やり遂げた。

まずそれを褒めてくれ。

その後なら、あの忌まわしき出来事を耐えられる。


俺は小山内から宿題を出された後、帰りの電車の中から、寝る前に行った便所の中まであの資料を読みまくった。ついでに言うと、小山内も同じ資料を読みながら問題を作っていったことに気がついたので、途中で問題も見ながら読んでいくことにした。

家ではそれに気づいた両親が俺を不思議そうに見たが、進学校ということで納得したらしい。具体的にいうと夜食のおにぎり2個分の納得な。ありがとう母さん。


源平って頼朝以前から色々あったんだな。

それに源氏と平氏が綺麗に分かれて大喧嘩ってイメージだったけど、もっと複雑に入り組んでたんだ、なんて新たに発見もあったけど、基本これじゃ受験勉強だぞ。

もっとも小山内によると、入部試験用なので受験勉強と言えばその通りなんだが。


そんで、翌日も朝から小山内の資料を見ながら登校した。もちろん電車を降りたら誰が見てるか分からんから、その直前までな。でも資料がなくても頭の中で読んだことを整理しながらてくてく歩いて教室へ。


まだ慣れないけど、「おはよう」とか言いながら教室に入ると、いつもの朝のざわめきが静まり返った。

念のために言うけど静まり返ってた、じゃないぞ。

俺を見て、目を逸らす奴、怒りの目を向ける奴、哀れみを垂れる奴、ニヤニヤしながらヒソヒソする奴。

なんだ一体?

俺に聞こえるようにわざとらしくプッと噴き出して見せたのは、入り口に近い席に座って、足を止めて戸惑ってる俺を見上げた青木だ。


青木?!


こいつ。


ハッとした俺は小山内を見た。小山内はこっちを見もしねえ。前の席に座ってる委員長の榎本さんと二人でなんか真剣に話し込んでる。あ、机の下にやってた手の片方を俺に向けて拝むように立てやがったぞ。


隊長!援軍来ません!

我が軍は孤立無援です!


卓球部の佐村が近づいて来た。肉壁軍の副隊長だったなこいつ。


「おい、俺はお前を見直したぞ。青木に聞いたけど、おまえ、小山内さんに堂々と告白したんだってな。勇気あるじゃないか!」


大いに違う。全く全然1ミリも合ってない。

なんなら一回は俺が小山内を振ってる。だいぶ違った意味でだが。

だが、まあ、そう言うならその間違いは許してやろう!

青木が言いふらしたに違いないと踏んでたけどしっかり証言もしてくれたし、小山内も何故かこの設定でいくみたいだしな!

口の端がピクピクしながら言いやがったんで、根には持つけど。

超能力者を怒らせるとどうなるか味わってもらってから、完全に許してやる。


この俺の葛藤がきっと顔に出てたんだな。小山内がこっちを見て俺を睨んだ。

教室にいた奴は、俺が小山内に迷惑をかけたから小山内が睨んだと思っただろう。でも俺はきちんと理解した。

悪戯でも超能力を悪用しちゃダメって子供を怒るママの目だ、あれは。


「みんな、やめなさいよ!」


その様子を見た榎本さんがいきなり立ち上がって男子を嗜め始めた。


榎本さん、小柄だけど委員長にふさわしく結構な迫力がある。今時珍しいのび太くん風の丸メガネの奥の目を怒らせ、お下げの髪を揺らしながらすくっと立ち上がって、青木と佐村とその他モブを睨めつけるように順繰りに見て、


「あなたたち。本気で人を好きになって告白した時、それを覗き見されて、言いふらされて、茶化されてもいいの?」


ちがーう!全然ちがーう!!

この公開処刑を否定していいか、と小山内に目で問いかけた。

…却下だそうだ。あの冷たい目はきっとそう言ってる。

頼むから。

もう一度半分涙目で訴える。

あいつ、今度は声に出さずに口だけ動かした。


「絶対ダメ。」


なんでだよ。

部活の相談してただけで、ミスした小山内が謝ったとかにしてしまえば、俺の名誉は守られるんだよ。


そういう意志を込めて小山内を睨んでやった。

もちろん弾き返された上に。

「あんたバカなの?」の顔までされた。

何でだよ。


とにかく、俺と小山内が無言の会話をしてる間も榎本の説教は続いていた。


「あなたたちは、凛ちゃんにも酷いことしてるってわかってる?凛ちゃん優しいから、自分が振ったことで俺くんがこんなになるのは望んでないよ。ね?」


最後の「ね?」は皆んなに言ったんじゃなくて、小山内に向き直って言った。


「う、うん。」


俺ジト目。小山内は目をそらしつつ、つつーっと汗が。

榎本さん、こいつそんなタマじゃないぞ。


それでも、榎本の勢いに飲まれたか、小山内に悪印象を持たれることを恐れたか、肉壁軍は追及をあきらめた。ありがとよ、榎本さん。


そういえば、河合は?あの「死ね」女の。

ちょっとだけ余裕の出た俺は、肉壁軍別働隊の河合が何にも言ってこなかったことに気がついた。


あ、河合のやつ、自分の席で必死になんか書いててこの騒動が眼中にない様子だぞ。

宿題忘れたか?

俺を呪うことばっかり考えてて、宿題忘れたんだな、きっと。人を呪わば穴二つだ。ざまあみろ。


もちろん、俺は、後で、机に「死ね」の文字が一面に書かれたレポート用紙が置かれているのを見て、人を呪わば穴二つを実感させられることになりました。

怖すぎる。


こんな最悪な感じで青木フラグはきっちり回収されたんだが、もう一個の問題はそのままだ。



それは、その日の昼休みだった。

おれはいつもどおり、ホリー、伊賀と弁当。

こいつら、いつもどおりに接してくれてるよ。

二人とも心配そうな口調で慰めてくれた。


「テル、災難だったな。」

「いくら何でもあれはないよね。」

「佐村じゃないが、勇気があると思う。きっとそれはテルのプラスになるよ。」

「うん。僕には無理。」


まあ俺が告白してふられたことにはなっちゃってるが。

友だちって、素晴らしいな。


「ねえ凛ちゃん、凛ちゃんの作った部活、私も興味あるんだけど。」


ちょっと大きな声で言い出したのは小山内カーストの一人、今も小山内を囲んで昼飯食べてる中の1人で、俺の見るところクラスで3番目くらいに可愛い竹内さんだ。ショートヘアで目のクリッとした美人さんだぞ。この前、約束どおりに小山内の卵焼き貰ってから、一層小山内になついたみたいだ。

おおっ!

この子が入ってきたら俺とも部活仲間か。


小山内、一瞬だけ俺によこした視線で呆れたって伝えてこなくてもいいぞ。妄想だって自覚してんだから。


いずれにしても、これが、もう一個の問題。

竹内さんの言葉をきっかけに、カーストの内外に波紋が広がった。


小山内の周りでは、「わたしも」とか、「中世史?だったっけ?それ何?」とか盛り上がってるし、それを横目で伺ってる男子は何か、決意したように頷いたりヒソヒソしてる奴多数。


「テルはどうやって、小山内さんの部活に入れて貰ったの?」


こっちにも波紋が来た。

それより、やっぱり俺が入れてくれって頼んだことになってるんだな。

小山内からは、昨日下校中にこう聞かれたときにどう答えるかの指示はあった。

けど、イヤだ。ますます、俺ヤバい奴になる。とくに、みんなが耳をそばだててるこんな場面では言いたくない。

朝のトラウマで、俺はちょっとだけ反抗することにした。



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