第16話 廻り道 (4)


俺の中で決着がついたことで、俺は素直に、ここ大事な、素直に、小山内の話を聞く気になった。


「わかった。だったらお前の計画は?」


小山内は、一瞬俺の目をのぞき込んでから俺の方に乗り出してた姿勢を戻した。詰めてた息を吐き出しながら。

そんで正面の何もない空間に視線を向けて、落ち着いた声で説明した。


「私が考えたのは、超能力とは全然関係のない部活を作って、そこを活動の拠点にするの。そこであなたと私は活動する。

それで、その部活とは全然別に、私は助けを求めている人を探す。

もし、秘密を守ると約束してくれて、それを私とあなたが信用出来るなら、次はあなたの出番。」


いつのまにか、「あんた」、から、「あなた」に変わってる。それはそれとして、小山内がクッションになってくれるって方法だな。


「もし、おまえ…小山内が見つけてきた助けを求めている人が、信用出来なかったり、秘密を守るって約束してくれなかったらどうするんだ?」

「そのときも、あなたはその人を助けるの。でも、助けるのはその人の記憶を消して、しばらく経ってから。

あなたが言ってたでしょう。あなたが、絶対起こるって宣言したことは、合理的に筋の通った形で起こらないって。だから、あなたはその人が気付かないうちにその人を救う。でも、その人は超能力とは別の理由で助かるの。」

「だったら、信用出来る人もひっくるめて全部の人をその方法でやればいいんじゃないか?」

「うん。私もそれを考えた。でも、それだったら、あなたが助けてくれたってわかってくれる人がいない。」

「俺は別にそれでもいいが?」

 

小山内は俺の方に視線を戻して、言った。


「それだと、俺君が悪じゃないってわかってくれる人や俺君の味方になってくれるが増えないのよ。それはダメ。」


言ってることはわかる。

でもなんで、小山内はそこまで俺のことを気に掛けてくれるんだ?

ってか、小山内こそヒロイン願望でもあるんだろうか?


なんか腑に落ちない、ってのが顔にも出たんだろな。

その表情を読み取ったらしい小山内は、なにかを追いかけるような、そして、祈るかのような表情で空を見上げながら、つぶやくように言った。


「私にも救って欲しい人がいるのよね。だから、そのお礼の前払い。前払いするんだから、絶対逃げないでよ。」


誰なんだろうね、小山内がこんな表情して、ここまでして救って欲しい人って。

またまた胸がちくってしたけど、気のせい気のせい。


とにかく。


「でも、部活、必要か?」

「必要なの。まず、私とあなたが一緒にいても変に思われない方法が必要。部活以外で一緒にいるの、変でしょ。」


そこはそれ、男子と女子なんだから、うまく誤解してもらえれば?


「それは、絶対ダメ。」


俺、口に出したっけ?

出してないよな。

視線を小山内の横顔に向けただけで。


「バカなこと考えてないで。」

「わかった、わかりました。そりゃ釣り合わねーよな、小山内と俺なんて。だれにも信じてもらえるわけない。」


泣いてなんかないやい。って定型句が浮かんだけど、泣くほどでもない。単なる思いつきだからな。本当だぞ。

小山内はなんとも言えない顔をして、説明を続けた。


「とにかく、部活よ。それで中世史って、誰もが興味がないのを選んだの。そんなのに応募してくるのは私目当てに決まってるから、厳しい入部試験やって、全員落としちゃえばいい。そうすれば秘密は守れる。もし信用出来る人が出来ればその人だけ入れればいいの。」


北条時宗さんに矢を射られるぞ、こいつ。

小山内はそんな俺の心を読んだか俺を睨んで、それから、わざとらしく「そうそう忘れてたわ。」とか言いながら鞄の中にしまっていた分厚い封筒を取り出して俺に押しつけた。

なんだこれ?


「これがその入部試験の資料。中世史の分野から作ったの。かなり高度の問題だから、今から直ぐに勉強して。」

「なんで?俺、もう部員なんじゃないのか?」

「あんたやっぱりバカね。」


呆れた、って顔を描いたような表情をしながら、小山内は説明した。


「あんた、いきなり男子に囲まれたのもう忘れちゃったの?おそらくあの人達、全員入部希望してくるわよ。その時、あなたがあの人達よりも中世史に詳しくなかったら、どうなると思う?」


ああ、なるほど。肉壁2.0か。


「明後日までね。明日、きっと入部試験の話になるから。あの人達、曲がりなりにも進学校の入試を合格してきてるんだから、時間を与えたら、あなたを越える知識を蓄えてくる人が間違いなく出てくる。だから、短期決戦。」


ふへぇぇー。

なんだそれ?

ちょっと封筒の中を覗いてみる。

これ、どう見ても50枚はあるぞ。密度は?

結構ある。

というか、大学かそれくらい向けの中世史のテキストをコピーしてきた感じ。そこにいっぱい書き込みまでされてて密度感ぱねぇす。

つい2週間前まで中学生だった俺に要求するにしちゃ無茶がすぎるんがないですかね。


「とりあえずあの歩道橋の日から集め始めたから、分野が偏ってるかも知れないけど、問題にしちゃったら、気付かれないと思う。これが、」


小山内はそう言いながら、今度はA4の紙が4,5枚入ってるクリアファイルを取りだして、俺が持ってる封筒の上に重ねてきた。


「その問題例。さっきの読み込んだら、多分答えられるわ。」


つい2週間前まで中学生だったこいつは、この資料を読み込んで問題まで作っちゃったんですね。

なので、俺の答えが、これ以外許されないのは、もうおわかりだろ?

小山内はすごく真剣な表情で俺を見つめた。


「あなたにもテストを受けてもらう。」

「わかった。」


俺が鞄に不承不承問題と資料をしまってると、小山内はベンチから立ち上がって「うーん」と言いながら、片腕を天に突き上げて伸びをした。


揺れる黒髪が木々の合間から漏れた太陽の光に照らされ、小山内の整った白い顔と得も言われぬコントラストを示した。

反則そのものの美しさ。


俺、こんなきれいな子と話し込んでたのか。

ま、正直に認めるよ。見とれたってな。



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