第15話 廻り道 (3)
とりあえず。涙で強ばった顔をしながら。
「そこまで言うのなら、とにかく話だけは聞く。」
なんか偉そうだって?
これ読んでるおまえも俺の立場になってみろ。
クラス1の美少女に2日連続でみっともない姿見られて、苦しみも分かられて、俺には立つ瀬がないんだよ。
だったら出てくる言葉はこれしかないじゃん。
そうだ!青木!あいつにも見られたんじゃ?!
「青木君は私があなたに頭を下げて、あなたが泣き出したのを見てどこかに行ったわよ。」
なんで?
俺が先に人目につかない待ち合わせ場所に現れて、なんか小山内を待ち受けて、現れた小山内と少し話して、小山内が頭を下げて、俺が泣き出した。それを見て青木はどこかに行った。
うわー。明日の朝が楽しみだー♪
まあ肉壁に囲まれることはもうないだろうけど、俺に、振られヤローとか玉砕とかのあだ名がつく確率は半々て事か。
小山内は俺が頭を抱えたのを見てもキョトンとしてる。
いいね、美少女様は。
とにかく、なんかもう色々ズタズタにされたから、話進めてさっさと帰って今日は寝てしまおう。
「で?」
小山内は俺が聞く気になったのを感じて距離を詰めてきた。ちょうど俺と小山内の膝の間に鞄2個が置けるくらい。鞄が縦置きか横置きかは勝手な想像してろ。
「昨日はごめん。ちゃんと説明するね。」
「ああ。」
最初からそうしろ、というのは口に出さない。
「まず、私達の接点も昼間の活動時間も主に学校だから、学校で私と俺君が話してたり、一緒に何かしててもおかしくない、ええと入れ物と言えばいいのかな、そういうのがいると思ったの。」
たしかにもし活動するならそういうのはいるかもしれない。だから部活か。
ラノベでも部活作るってのはあったし。
「それはわかるけど、だったら素直にお助け部作ればいいんじゃないのか?」
「はぁ、あんたバカなの?」
俺、ジト目。
「ごめん。普通そう思うでしょうけど、それじゃダメなの。」
「なんで?」
「もし、そういう部を作ったらどうなると思う?」
「堂々と人助けできるし、助けてもらいたい人も見つけやすくなる。」
これ、なんで即答できたかというと、小学生の時に同じことを考えたからだ。小山内に、俺は超能力が使えるって話すよりももっと前のことだ。
「あんたは小学生なの?」
よくわかったな。
「もし、そういう部活を作ったらどうなると思う?
人助けしたいって子はいっぱいいるのよ。そんな子がたくさん入部希望してくるかも。私目当てで希望して来る子もきっといる。お助け部みたいなのを作ったら、そういう子たちを拒めない。」
「きっといる」じゃなくて、そっちの方が多そうだ。俺には青木や佐村やその他肉壁を作ってた連中の顔がありありと浮かんだ。俺に死ねと送ってきた河合の顔もな。
「そうか。そうなったら、俺の超能力の秘密が。」
「そう。あなたの超能力は、さっきも言ったけど、もしかすると、世界の人を救えるかもしれない。でもそうした力を正しく使える人だけとは限らない。ううん、仮に入部してくる子たちが純粋に人助けをしたいと思ってても、いつか必ずあなたの超能力に気づかれて、誰かに伝わっていくわ。」
そうだな。たしかに。
でもな、そんなことは小学生の俺だって気付いてたぞ。これ、決して後出しじゃんけんじゃないからな。もちろんその後のことも小学生時代に考え済。
「でも、仮にそうなっても、まあ多分そうなるんだろうけど、そうなっても、俺には超能力があるんだから、たぶんだけど、気付いたやつの記憶を消せると思う。
それに、仮に、悪の組織みたいなのがあったとして、俺の能力を利用しようとしても、俺の超能力で対抗できると思うぞ。」
悪の組織ってあたりが小学生らしいだろ。でもうまい言い換えが思いつかなかったんだ。とにかく、これ、なかなかいい考えだろ?
でも、小山内は同意してくれなかった。
いつものあきれ顔で俺のバカさ加減をじっくり睨めつけた後、いかにも小学生に説明するみたいな口ぶりで、でも真剣に説明してくれた。
「あんた小学生?ぼくは強いからきおくもけせるし、あくのてさきなんてやっつけちゃうぞって?いい?よく考えて。あなたが記憶を消せるとしても、誰が秘密を知ったかわからなくても消せるものなの?
誰かわからないけれど俺の秘密を知ってる人全員、この後も俺の秘密の記憶を持ち続ける、ぜったい!!ってやるの?」
そうだよ。
けど、なんか、こいつ、一部の言葉をわざわざ平仮名みたいに発音しなかったか?
「それやって、あんたの助けを求めに来た人も、それから私も、あんたの秘密を忘れちゃうわけ?バレるたびにそんなリセット続けるわけ?バカなの?」
ああ、ついに小山内の中の人が交代しちゃったよ。でも、言ってることは…
数日前の、いや、入学前の俺になら、どおってことのない選択肢だっただろうけど、これからは、多分、ダメだ。
「それに、あなたが危機に陥るのは、その悪の組織があなたを狙う時だけとか思ってる?」
「ああ、そう思ってた。」
たしかに小学生の時の俺はそう思ってました。なんか漫画じゃそうなってたし。
「ほんとにバカなのね、あんた。高校生でしょ、ちょっとは世の中のことわかってるんでしょ。」
いや、超能力を使って人助けなんて、小学校以来考えたことなかったんで、小学生の時の考えを再検討したり、更新したりしてないんだけど、何か問題が?
俺の顔に、「なんで?」とでも書いてあったのか、小山内は、またため息をつくと説明を続けた。
「あんたね、あんたの超能力を使いたいのは、非合法組織だけじゃない。それより、もっとあんたの認識が間違ってるのは、あんたの超能力を使いたい人ばっかりじゃ無いって事。そこらの何にも考えてなさそうな高校生が、場合によっては世界の未来を変えたり、世界を滅ぼしたり出来るかも知れない力を持ってて欲しいと、そんなこと誰が思うのよ。そういうとき、世界の未来を守るため、世界のバランスを保つため、どうすると思う?」
小山内は、マシンガンの時の森先生みたいに一気にそう言って、俺に顔を近づけ、真剣な眼で俺をのぞき込んだ。
何にも考えてなさそうな高校生、小山内は俺をそんな風に見てたのか、って、これだけ説明させてしまったら、そう言われても仕方ないか。
それより。
ええと、俺が、とっても不幸になる方向の話しだよな、これ。冷や汗が大量発汗し始めたんだけど。
俺は、もっと単純に考えてた。
小学生の時、俺は、人助けは正義が味方がすることだから、俺に手を出すのは悪の手先しかいない、そんな奴はやっつけてしまえばいいって考えてた。
中学生の時、俺は、ただ自分が傷つくことに苦しんで、この超能力を持ってることが社会にどう見られるかなんて考えもしなかった。
いま、小山内は、もっと社会をリアルに見ろ、考えろと言っている。
小山内は、じっと、俺の目を見て、俺が気付くのを待ってる。
俺が、自分で気付かなきゃならないことなんだ。
「…そうか。俺は悪にもなれるのか。俺が悪になったら、取り返しのつかない超能力を俺は持ってるのか。」
だから、俺は、正義の名の下に、殺される。かもしれない。
世界が滅ぶかも知れないリスクと、俺の命を天秤に掛けて、俺の命に天秤が傾くのは、おそらく俺自身と、あと、片手で数えるくらいの人間だけだろう。
そして、天秤を、俺とは逆に傾けた、世界を守る正義の側の人間が、俺の超能力を排除したいのなら、俺に気づかれないように狙撃でもすればいい。
俺が撃たれたと認識する前に俺の意識を刈り取ってしまえばいい。
それで、世界の危機は終わる。
「そう。だから、あんたの秘密は守らなければならないの。あんたを絶対に信じてくれる人以外に、秘密が漏れてはいけないの。
そして、あなたは、秘密が漏れようと漏れまいと、正しいことをし続けて、悪にならないこと、悪になっていないことを証明し続けないといけない。」
そうか。
そうだな。
なるほど。
俺は俺自身の命のために。
小山内は、何かしらないけど、人を救いたいという願いのために。
俺の超能力の秘密を隠して、人を助けなきゃいけないのか。
なんか、利己的なヒーローだけど、まあ、いいか。
納得した。
あーあ。
大きな回り道して、結局これか。
「俺君が絶対起こるって宣言したことは絶対起こらないんだったら、いつかヒーローになれるじゃない?」
小山内、お前は予知能力者か?
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