第12話 だから俺を巻き込むな (4)
そうは言っても、まだ新入生な俺は、そんな人目のない場所の心当たりなんてない。
とりあえず、定番は体育館の裏とかか?
いやそこは告白の定番だ。まずい。
もし万が一クラスのやつに見られたら、盛大に誤解されて何が起こるかわからん。
なんてことを考えながら、とりあえず小山内を連れて校舎を出た。まだまだ校内に人は多い。運動部は盛大に声をあげてるし、トランペットも鳴り響いてる。
でも、ちょうど図書館の横を通った時、図書館の陰になんかいい具合に人影のない藤棚がベンチ付きであるのに気づいた。枯葉も落ちてるから利用者は少なそうだ。小山内に声をかけてとりあえず、座る。
小山内はちょっと、ベンチと俺を嫌そうに見て、軽く埃を払って座った。
「じゃ」
「あんたやっぱりモテないでしょ。」
いきなり俺に被せて余計なことを言い出す小山内。ケンカのタネ増やしたいだけじゃないのかこいつは?
「それはわかってるから。」
嘘つき君がモテるわけないだろ。は口の中だけで。
改めて。
「じゃ、バカな俺にもわかるように丁寧に説明してもらおうか。」
俺は「丁寧に」のところに力を込めて言った。
小山内は、はーっと小さくため息をついて、説明を始めた。
「まずやらなきゃならないことは、関係ない人が入ってこないようにすることなの。大丈夫。私がその辺ちゃんと考えてるから。中世史にしたのはそのためよ。」
ん?
んんん?
「丁寧に」説明はしてる、と思う。でもな、俺が求めてる説明とかなり、というか全然違う。
「もっと最初から説明しろ。なんで俺がおまえの部活を手伝わなくてはならないんですか?」
最後のあたりに怒りがこもってしまった。
だが小山内はそれでも平気だった。
「それは、あなたが結成時部員のところに名前が載ってるからでしょ。」
…
わからん。
顔にでたんだろう、小山内はポケットから折り畳んださっき紙を取り出して俺に突きつけた。
「ほら。ここ。俺君の名前であるしょう。」
あるでしょう、って確かにあるけど、俺は知らんぞ。というか、中世史に全く興味のない俺をいれるな。
「あのな小山内。俺は中世史に興味がない。それどころか中世っていつからいつまでだか、受験が終わったらもう忘れたくらいだ。」
「私も同じようなものよ。」
はい、小山内も残念な美少女でした。わかってたけど。そうだホリーと釣り合うぞきっと。そう思った時、ちょっとチクッときたのは気のせいだ。
とにかく。
「とにかく俺は中世史とかに興味は無いから、おまえと一緒に部活する気は全くない。他を当たってくれ。」
これで諦めるだろう。かわいい子のお願いを振るなんてたぶんこれが最初で最後だろうな。
「聞いて。」
小山内は背筋を伸ばして、強い視線で俺の目を正面から捉えながら話し始めた。
「俺君の持ってる超能力はきっと、すごいものなの。それを使えばきっといろんな人を救える。」
何故かいきなり俺の超能力の話を始めた小山内の瞳の光が、小山内がこれ以上ないくらいに真剣に言葉を語っているってことを示している。
「それは俺君に与えられた、いいえ、俺君にだけ与えられた力なの。あのクレーン車の事故の時それがわかった。」
なんか背中を嫌な汗が流れる。
自分に特別な力があることを喜べ?
そんなことができるやつは、その力を使っても誰も傷つかない奴だけだ。
「あなただけが救える人がきっといる。あなたしか出来ない救いを待ってる人がいるの。だから助けて、お願い。」
その結果は、嘘つき君の出来上がりだけれどね。
俺はそう呟いた。
俺だって、そう思ったことが確かにあったよ。
小学生の時、小山内に俺は超能力を使えるって言った時には、半ば諦めてはいたけどまだそんな気持ちがあったような気がする。俺はその時まだ挫けきってなかった。
もし、俺の超能力が逆の形で、俺が絶対に起こると言ったことが起こるという能力だったとしたら、どうだっただろう。
もしかすると、高校生になった今でもそれなりに超能力を使ってたかもしれない。慎重さも身につけて、でも、もう少し大きなことに、大事故から人を救助する、とか災害の被害を減らすとか。
俺が宣言したことが現実起こるのなら、誰かの不幸が俺の宣言通りに回避されるなら、俺は誰からも責められなかっただろう。それが俺の超能力によるものだったことがたとえ証明されなくても、俺が人の命が救われることを、人の大事なものが守られることを願ったことは誰にも否定できない。
俺は超能力者であることを誰にも認められなくても、誰かを傷つけることも、誰かに傷つけられることもなく生きていけただろう。
でも。
現実は違う。
俺が人の幸せを信じて、祈って、口にした言葉はその人を不幸にしてしまう。
たとえ、その人が、俺の超能力によって不幸になったことを知らなくても、俺だけは知ってるんだ。
そして。
俺が、誰かが傷つくことから、失われることから守ろうとして、
俺の口から迸る言葉は、
人が傷つき、失うことを、不幸になることを高らかに宣言する言葉なんだ。
その結果。
その人は確実に襲われるはずだった不幸から救われ、
俺は誰も口にすることを憚った、確実に訪れると誰しもが思った酷い不幸を、平気な顔であえて口にした、
最低の人間の烙印を押される。
これが嘘つき君の正体だよ。小山内。
だから。
「だから、俺を巻き込むな。」
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