第4話 入学おめでとう? (3)
もしかして。多分。
「ええと、小山内…凜香さん、だよね。」
「そうよ。憶えてるんなら変な間をつくらないでよ。」
鮮明に記憶が蘇った。こいつだ、この声だ。
「俺君が絶対起こるって宣言したことは絶対起こらないんだったら、いつかヒーローになれるじゃない?」
とうすら笑いしながら言ったのはこの声だ。
俺は、壮大な見落としに気付いた。
同じ中学校から、ここに来る奴はいないはず。同じ塾からもここに来る奴もいないはず。
じゃあ、同じ小学校からは?同じ小学校か中学校に通ってて引っ越した奴は?
いや、これ、見落としとかじゃなくて、知りようがないだろ。
事故だよ。
入学一日目にして発覚した致命的事故だよ。
「まじかよ。ありえねぇよ。」
俺はそう言って項垂れた。
「何があり得ないのか知らないけど、どう?あんたヒーローになれた?」
何言ってんのかも、なんでそんなこと言うのかもわからん。
なんで項垂れたまま聞いてみた。
「なんでそんなこと聞くんだよ。」
「だって、『僕、超能力が使えるんだ。』って以上に興味をひかれる言葉、ある?ないでしょ。だったらあの後どうなったか知りたいじゃない。」
あの後どうなったか、っていうのは何を期待してのことだろう?
俺が嘘つきで有名になって、辛い学校生活を送ったって聞いて俺を見下そうってんだろうか?
なんか腹立ってきた。
で、奴を正面から睨みつけてやろうとして顔を上げて気がついた。
いや、距離近くないか?やつは、凜香は上半身をつきだしてるんで余計に顔と顔の距離が近い。すっごい目が綺麗だぞ。
いやいやそっちじゃなくて、意地悪してやろうって顔か、これ?
むしろ純粋に知りたいって顔じゃないのか?
「ねぇ、どうなのよ。」
ちょっと焦れてる。のはわかった。でも声の抑揚が興味本位の聞き方としては違和感が。
表情もなんかあの昔の薄笑いとも違う。少し期待となぜか不安のかけら?も混じってる気がする。
嘘つき君と呼ばれて、他人の表情を気にするようになったからこそ聴き取れ感じ取れる違和感。
なんで?なんかあった?
「ちょっと。何馬鹿みたいに、私の顔見てるのよ。あ、あんた離れなさいよ。」
と言って両手で俺の胸を押した。
細い指だなぁ。
いやいや。
「なんか俺が近づいて行ったみたいな言い方するけど、逃げてる俺を追っかけて近づいたのはお前だろ。」
「そうだけど。」
あれなんか立場逆転?
なんで?
なんかモゴモゴ言ってるし。
ちょっと気分に余裕が出たのを感じた。なので反撃開始。よく考えたらやられっぱなしになってるけど、俺もちょっと理不尽な感じに責められてもやもやあるし。
「いや、ヒーローとか小学生じゃないんだからな。」
「そういうことじゃなくて、もう。あんたの超能力ちゃんといい方向に使ってるのかって聞いてるのよ。」
「なんで?」
「へ?」
「いやそれお前に関係ないよな。」
「なんか言い方腹立つ。それにお前って言わないで。」
「いやそっちこそあんた呼ばわりしてるし。」
「私はいいのよ。」
「それ身勝手すぎるっしょ。」
その言葉をきっかけに、なんかどっと体の力が抜けた。
奴もそうみたいだ。なんか表情から刺々しさが消えた。
「まあいいわ。ママを待たせると怖いから今日は許したげる。」
そう言って奴は俺に背を向けた。
なんとなく釈然としない気持ちの俺を尻目に、さっさと立ち去ろうとして、何かに気づいたように振り返って、
「入学おめでとう。」
それだけ言って、俺の返事も待たず、振り返らずに階段を登って行った。
うん笑顔は可愛いぞ。とびきりな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます