第2話 入学おめでとう? (1)

入学の日とあって、学校中が華やかに彩られている。

さすがに高校ともなると、門には「入学式」と墨痕鮮やかな達筆で書かれた看板が掛けられてるだけだけど、桜が全力満開。

親と入学式に臨む新入生達も、ほぼ笑顔満開。

多くの人が生み出すざわめきも心なしかうかれて聞こえるようだ。


つらい入試を乗り越えてここに立てたんだから、そりゃ基本はウキウキでしょう。


ただ、やっぱりというか何というか、伝統ある進学校であるとはいえ、進学実績で言えば県下で3番目か4番目なので、この英堂館高校に入学してしまったことが不本意な人もいるみたいだ。

降りた駅から教室への道すがら、同級生になる奴らの顔をそれとなく執拗に観てたんだけど、なんか、嬉しいけど複雑な表情を見せている奴や、明らかに周囲を見下してるような目つきをしてるのも男女問わずいたからな。


ちなみに、なんで俺が同じ新入生の顔を観察しているかというと、同中の奴がいないかどうか確認してるんだ。

一応、入試の出願終わったあたりに、さりげなく、この英堂館高校に出願したの俺だけか担任に確認した。

けど、担任は、あんまり記憶を探る素振りもなく、手控えを確認する気はなおさらありませんて顔で、


「うーん、そうだったと思う。」


という誠意あふれるお返事をいただいたので、内心不安。

おれの人生を賭けた勝負をいきなり1日目でマイナスからのスタートにならないか不安になっても仕方ないよな?

そのせいで、校舎の近くまで一緒に歩いてた父さんが、


「どうした、大丈夫か?」


と声を掛けたくなるくらいに不審なキョロキョロをしていても仕方ないよな?


昇降口の横に張り出されたクラス分け表もきっちりチェックした。幸い、知り合いが入学してるかもしれないって顔でクラス分け表をチェックしてた奴は結構いたので、目立たずに全部チェックできた。心あたりのある名前なし。

ここまで順調。


指定された教室に入るまでに確認した顔にも見覚えのある顔はなかった。さすがに、中学3年間一緒にいたんだから、名前もクラスも知らなくても、見たこともない顔ってのはないはずだ。


廊下までざわめきが漏れてた教室に入ると、男女同数くらいの、これから同級生になる奴らがいた。この学校の制服は男女ともに紺のブレザーで男子はベージュのネクタイ、女子はそれよりもうちょっと明るめのリボンをつけることになってる。なんか、ありふれてる感じだが、伝統校らしいと言えばらしい。

さすがに入学式とあって、いきなり着崩してたり、改造してたりする奴は皆無みたいで、行儀良く着てる。女子のスカートの丈が微妙に短い子もいるみたいだけど、そんなのじろじろ観察できるわけがない。だろ?


小さいグループになってる奴もいれば、所在なげに立ってるのも男女同数くらいいる。グループの方から聞こえてきた声をなんとなく聴いてると、同中出身者と言うより、塾が一緒だったらしい。いずれにせよ、他県出身の俺には塾が同じ奴もここには殆どいないはず。


とりあえず、俺は張り出されてた座席表を確認して、俺の名前が書かれてた席について観察業務を続けたんだけど、やっぱり見覚えのある奴はいなかった。


で、集合の指定時間を数分過ぎたくらいに、このクラスの担任になるだろう教師が入ってきた。


多分30代の男性教師。髪は短めに整えられている。かっこいい系イケメンに近い顔をしていて、女子校なら人気が出そうなレベル。入学式向けらしい黒の礼服を着てるので普段の趣味はわからない。

体つきはスレンダーで少し背が高めに見える。


教室のざわめきの中を教卓の前に立つと、その担任教師は、良い声を売りにしてる芸人に近い感じの声を張り上げた。

「みなさん、入学おめでとう。私は、この1年3組の担任の今井孝晃だ。すこし入学式の説明をしてから入学式会場の体育館に行きます。クラスの前に座席表を貼ってあるので、それを見て着席してください。はい、はじめて。」


大体みんな教室に入ってきたときに座席表が貼ってあるのに気がついてたので、既に自分の席に着いてたり、自分の鞄を指定された席において喋ったりしてたので移動は直ぐに終わった。机の数は36こあってどうやら空いた席がないので36人学級らしい。

全般的におとなしいクラス。

なんかそんな感じがする。


そのあと、入学式の注意を聞いて、体育館に移動して、着席して、名前呼ばれて返事して、在校生代表と新入生代表が挨拶して、

あ、校長挨拶と来賓代表挨拶が抜けた。そのあたり寝てたし。

そんな感じで入学式が始まって終わって、また教室に戻ってきた。

その間にも不自然にならない程度にキョロキョロ。むしろ新入生なんだから、キョロキョロしてもいいだろ?


最初の担任の説明ではこの後は明日からの予定なんかの連絡事項があって、自己紹介が始まる。

ここが大事。嘘つき君の高校デビューにならないように、平凡で断言なしの自己紹介を考えてきた。


五十音順で決められた出席番号順に座席が並んでいるので、右端の一番前の眼鏡をかけた相原くんから自己紹介が始まった。

うん、予想どおり、出身中学と、なんか小ネタっぽいの一つだな。

真面目な奴が揃ったクラスなのか、そんなに突飛なことを言う奴はいなさそうだ。


ただの人間には興味がない。

とか

超能力者がいたら来い

とか言い出すのもいない。


超能力者がいたら、の方はそんなこと言い出す奴がいたら困ったかも知れない。 担任と俺が。


で何人目かに俺の番が回ってきた。立ち上がって一応教室を見回してみんなに顔を見えるようにした。勿体ぶってるんじゃなく、何人か前のおかっぱの女子がやり始めて、その後みんな真似してるんで俺もやっただけだけ。

ほぼ全員の視線があんまり期待感なく俺に集中してる。いたずら心が起こるには俺は辛い目に遭いすぎてるので考えもしなかったけど、俺は超能力者です、とやってもネタですんだかもな。


でも、そんな自爆をする事もなく、普通に名乗って出身中学も付け加えた。県外から来てるのが珍しいのかちょっとだけ視線の温度を変えた奴がいたようだけど、特に茶化されたりすることもない。

ちなみに、小ネタは特技を言ったけど、もちろん、超能力じゃなくて、どこでも寝れるとか、そんなあたりさわりのないのを。


で、軽くなった心で俺は着席し、無事にみんなの視線は後の奴に移った。約1名を除いて。



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