第1章 嘘つきと言われない新生活
第1話 嘘はついてない
俺は、あの「超能力者だ」宣言から今まで何も嘘はついてない。もとから俺は嘘をついてきたわけじゃないし春休みであんまり人に会うこともなかったしな。むしろ高校の入学式の今日からが勝負だ。
高校デビューとかチラッと思ったやつ、いるだろ。
俺の超能力のことはわかってくれたと思うけど、もうちょっと付け足すぜ。
俺の経験から、何かこれから起こることを言って、「間違いない」、とか、「絶対」、とか、とにかくそういうのを付け足した時に俺の超能力が発動することがわかってる。
「そうなって欲しい」とか「そうなるかもしれない」と言った時には超能力は発動しない。
だから、出来るだけ断言系の言葉は口にしないように慎重避けて、出来るだけ言い換えるようにしてる。
「おまえ絶対合格するよ!」
を
「おまえ合格するかもしれない。」
みたいにな。
どっちにしろ友達を無くす気がするけど、嘘つきっていわれないだけマシだろ。
言い換えれない時はどうするかって?
そんな時は誤魔化すか、黙ってるのさ。
ノリ悪い奴って言われるのは嘘つき呼ばわりよりもずっとマシだからな。
そのうち泣き出すから期待して待っててくれ。
多分、あの宣言でこの超能力は消えたはずなんだけど、それを確かめる勇気が俺にはない。
そんなに毎日深刻に生きてるんだったら、超能力が消えたか残ってるか確かめればいいじゃないか、って今思っただろ?
普通ならそう俺もそう思うよ、ぜっ…ぜっ…好調な時なら。
でも、俺には俺の理由がある。よく言う、ここに至るまでの経緯って奴がな。
中学ん時、俺が嘘つき君て呼ばれてたのは話したっけ?まだか?
とにかく、俺はそう呼ばれてた。
中3になっても何故か2学期には1年ですらそう呼んでた。
あれが嘘つき君先輩?ってな。
そんで俺は決意したんだ。
もうこのまま近くの高校に進学したら、俺はこれからも嘘つき君て呼ばれて、
同窓会の時でも、
「嘘つき君やっぱ顔出せなかったの?」
「そりゃ嘘つき君嘘ばっかりついてたから出席の返事も嘘だったんだろ。」
みたいに盛り上がられるかもしれない。
それだけは嫌だ。
そうならないためには俺のことを知ってる奴がいない高校に進学して、そんで「俺は超能力者だ間違いない」宣言をやって超能力を消せばいいってな。
そこから俺は勉強頑張った。
最低でも県外の高校で、わざわざ県境跨いで進学してもおかしくないくらいのちょっといい高校で、同じくらいのレベルの学校が県内にあるせいで同級生がわざわざ来ない高校。
これを探して、ちょっと…まあかなり足りない偏差値を追いつくために勉強した。
もともと中の上くらいの成績だったからこっちの方は、なんとか最後の模試で間に合わせることができた。
そんで次の問題は両親だった。
両親は俺の中学生活を見てて、近くのあんまり頑張らなくても入れる高校に行くと思ってたようだ。
それがいきなり勉強始めて志望校を県外のちょっといい高校に変えると言い出したんで、なんか変な顔をした。最初な。
そんで俺が必死に勉強し始めたんで心配し始めた。両親なりに俺が志望した高校を調べて、県内に同レベルの高校があると知ってから、ますます心配し始めた。
俺は最初そのことに気が付かなかったんだけど、ある2学期半ばの晩ご飯の後、両親から心配顔で
「なんか学校で嫌なことはないか。」
って聞かれて、両親が心配してるのに気づいた。
そん時は
「大丈夫。なんにもないよ。」
って答えたんだけど、かえって両親は心配したみたいだった。
いつのまにか、学校の様子を担任に聞いたみたいで、それから2週間ほどしてから、また両親に聞かれた。
「おまえ、学校で嘘つき君て呼ばれてるんだって?」
って。
俺、もう飛び上がるくらいびっくりして、ものすごい汗が顔中から背中からすっごい勢いで吹き出してきた。
さっと顔伏せたんだけど、両親はかえって確信したみたいだった。
「怒らないから正直に話しなさい。」
両親はそう言った。
でもな、考えてみみろよ。
「俺は、超能力です。絶対起こるって言ったことが絶対起こらない能力持ってます。」
真剣に心配してる親にこう言ったらどこのご家庭でも、どんないい両親でも怒るだろう。
「実はパパも超能力者で透視能力持ってるんだ。」
とか
「ついに血の因果が巡ってきたのね。そうあなたは呪われた家系に生まれたのよ。」
とか言い出すのはラノベだけだ。たぶん。
なので、俺は黙るしかなかった。
おっそろしく気まずい沈黙が続いて、壁にかかってる時計のコチコチって音がすっごく大きい音に聞こえた。
ただ震えてはいなかった。俺は超能力使ってわざと誰かを傷つけようとしたことは一度もなかったから、
だと思う。
両親は俺が話すのを待ってる。たぶん、俺に声を掛ける前に、両親は時間がかかっても聞き出そうとか相談してたんだろう。
父さんのスマホの呼び出し音が鳴っても、母さんの大好きなドラマの時間が来ても、両親は俺への視線を外さなかった。
俺はひたすらテーブルの模様を睨みつけてたけど、やっぱり何か俺が言うまで、朝までこのままか?
どう言ったら、嘘つき君と呼ばれてるけど、ひどい嘘や人を傷つけようとした嘘を言ったことなんてないって納得してくれるんだろう。
そりゃ生きてたら小さい嘘なんて言うだろうけど、嘘つき君て呼ばれるほどだからひどい嘘を言いまくってるって両親は思ってるだろう。担任もそう思ってるから両親にそう話したんだろうし。
たしかに担任に話した時にうっかり「絶対」って言葉を使って、嘘になってしまったこともあった。だから担任も、俺を嘘つき君と呼ぶ奴を嗜めるんじゃなくて、俺の両親に心配事として話したんだろう。
担任の口からそんなことを聞かされて両親もとんでもない衝撃を受けたんだろう。
その衝撃が俺への信頼の裏返しだってこともなんとなくわかる。
この無言の時間がそれを語ってる。
それでも。
だから。
そう、だから俺が言えるのはたった一つのことしかなかった。しばらくお付き合いしていただいたテーブルから視線を上げて、俺は話した。
「俺は人を傷つけようとして嘘をついたことはない。信じて欲しい。」
どうかこの言葉が嘘になりませんように。
「信じて欲しい。」なんて恥ずかしい言葉使ったことがなかったから、俺はそう祈るしかなかった。
俺の言葉を聞いても両親はまだ沈黙してる。
その時、俺は受験のことを言うなら今だと思った。なので切り出した。
「俺は県外の高校を受験しようと思ってる。それは嘘つき君と言われてることと関係ある。そのこと含めて俺は決して恥ずかしいことはしてない。」
それを聞いて父さんが口を開いた。
「わかった。」
そんで母さんは俺が予想もしてなかったことを口にした。
「虐められてるんじゃないのね。違うのよね。」
あ、そうか。普通そっちだよな、両親が心配することは。
なんか肩の力が抜けた。
「違うよ。俺は虐められてない。みんないい奴らだよ。」
俺を嘘つき君て呼ぶこと以外は。
こうして俺は無限の2時間を超えて晴れて今日、私立英堂館高等学校に入学した。
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