三景

夕方 

駅前

舞台前に謎のモニュメント

舞台真ん中にベンチ 

男子生徒Aと女生徒Aがやってくる



女生徒A ここらへんはむかし、ただのはらっぱだったわ。

男子生徒A いまじゃただの駅だね。

女生徒A まったくもってひとはおばかね。あんなに純情無垢にほけっていたおばかでかわいいわたしの記憶のはらっぱにこんな安っぽいかざりを置くなんて。ほんとにおばかだわ。

男子生徒A そんなにおばかっていうもんじゃないぜ。まあでもこんなおおきな土地、都市計画とやらを推進しているおえらいさんがみのがすわけないぜ。

女生徒A そうね、まったくといっておばかだわ。

男子生徒A また。


選挙カーがやってくる

わーわー叫んでいる


女生徒A ねこってなんであんなにつぶされたがるのかしら?

男子生徒A この前のやつかい。つぶされたがるってべつにねこは潰されることに好意的ではないし、そもそもたがるっていうほど潰されていないとおもうぜ。

女生徒A 自由だからかしら。ひとがばかみたいに勝手なみちをつくって勝手に歩いて勝手に整備していくけど自分たちにはまっていくわたしたちとはちがうねこは縦横無尽にわたしたちを知らず歩きまわるわ。だからかしら?

男子生徒A おおむねそんなんもんじゃないの。危険なもののための道にぼくたちはそうははいらないけど、ねこまでもがそれを遵守するとは限らないからね。まあ仕方のないことじゃない? ねこのルールとぼくたちのルールが一緒なわけないんだからさ,

女生徒A わたしはそうおもいたくないわ。ひとの勝手なルールで自由で優雅なねこが潰される理屈がどこにあるっていうのよ? わたしは許せないわ。ねこにはねこのみちがあるんだから。嘆願書。嘆願書をかくわ。かきまくるわ。みちに。ひとに。わたしたちに。

男子生徒A そうはいっても潰されるねこなんてねこの中のねこ、極々一部の極一部だぜ。そんなネコのために道をあわせるなんて不可能だぜ。

女子生徒A でもわたしはかきまくるわ。ねこのために。

男子生徒A しらないけどほどほどにね。

女生徒A 冷めてるわね。

男子生徒A 僕は猫に興味ない。

女生徒A サディストだわ。

男子生徒A 意味がわからないっ。

女生徒A ナルシスト。

男子生徒A 道端の猫が一匹、不幸にあったとしても僕はどうもできないよ。

女生徒A そういう風に誰かを見捨てるのね、あなたって人は。

男子生徒A そうかもしれない。全員を救うことはできないんだから。

女生徒A 勝手にしなさい。自分の無力さに嘆いていなさい。私はなるわ。神に。

男子生徒A なれるわけがない。

女生徒A 祈らなければ始まらない。

男子生徒A キミが目指すというのなら祈っていてあげる。

女生徒A どういたしまして。この青トマト。

男子生徒A こちらこそ。

女生徒A 細胞って積極的ね。

男子生徒A 積極的って。

女生徒A わたし、わたしだよわたしなんだよって主張してくるの、細胞は。ひとりならまああんたもお好きねって適当にかわすこともできるんだけどそれが何兆ともいるから、気が狂いそうになるわ。

男子生徒A そりゃあ大変だ。

女生徒A 大変、大変よ。なにもそんな世界中からわたしをせめたてなくとも理解ぐらいするわ。わたしがわたしだってことぐらい。あなた、わたしのことどうおもっているの。

男子生徒A どうってどうも。

女生徒A そうわたしもだわ。わたしはしぬわ。

男子生徒A しぬって。そんなこといわないでくれよ。

女生徒A なぜ? しぬっておもったときにしぬっていってなにがわるいの?

男子生徒A そんな悲しいよ。死ぬなんて…。

女生徒A そう。でもわたしはしなないと哀しくなるわ。とても哀しく。いま いまよ。いましなないと。わたしは哀しみになるわ。

男子生徒A なぜいまじゃないといけないんだい? まだ生きられるじゃないか、きみは。

女生徒A わたし。

男子生徒A えっ?

女生徒A わたしになるのに耐えられないの これ以上。


暗転

車の音

急ブレーキ

衝突音

何かが地面にぶつかる音


男子生徒Aの叫び声

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る