二景

BGM『虹』

通学路

横断歩道

舞台奥に男子生徒Aと女生徒Aがいる

スズメの子供たちが手を挙げて上手から下手へ消えていく

かかしが誘導している

大人の学生が上手から下手へ消えていく


大人の学生 てくてくてくてく。てくてくてくてく。今日も勉強。明日も勉強。もうやになっちゃうなぁ。てくてくてくてく。てくてくてくてく。

女生徒A なんでみんなおなじところをおなじようにありみたいに歩いているのかしら?

男子生徒A そりゃあきみもわかっていることだろ? この道を歩けば学校へいけるからだろ?

女生徒A がっこう? なにそれ?

男子生徒A なにそれって… まったくもってなんて返事すればいいか困るよ。

女生徒A ならしなければいいじゃない、返事。

男子生徒A そういうわけにもいかないんだよ。

女生徒A なんで?

男子生徒A なんでって…会話するってそういうことだろ?

女生徒A あんたってほんとおたんこなすね。あまりにもおたんこなすだわ。おたんこなすすぎておたんこなすとしかいえないわ。このおたんこなす。

男子生徒A わかった。わかったよ。ごめん。あやまるよ。ほんとに。

女生徒A おたんこなす。


場所が変わる

学校の教室

2-B組の生徒が机を持ってきて座る

先生が歴史の授業をしている

男子生徒Aは机に座っている

女生徒Aは立ったままである

生徒たちは笑ったり、内緒話をしたり手紙を回したりキャッチボールをする


女生徒A みんなおなじおなじだわ。なぜこんなにもおなじに染まるのかしら?

男子生徒A 同じになるのがいいからじゃない?

女生徒A そう? でもみんないってるわ。わたしたちはちがうものになりたい。異人になりたいって。

男子生徒A 偉人だろ?

女子生徒A いいえ。異人。異なる、ことなる存在よ。おなじとはちがう気が狂った誰しものともすれ違う寂しい存在よ。

男子生徒A だれもそんなものになりたいってわけじゃないとおもうぜ。

先生 その通りだ。将来キミは出世するよ。うん。


先生、男子生徒Aを指さす


男子生徒A 僕ですか。ふふふ。

女生徒A 非常におかしいわ。馬鹿気ているわ。だからこんなことがまかり通っているのね。そうなのね。

男子生徒A そこまで言うことないだろ。

女生徒A あたしはどこを歩いているの?

男子生徒A 授業中だよ。

女生徒A 違うわ。ここは。ここは。

男子生徒A 大丈夫かい。


男子生徒A、女生徒Aに近寄る


女生徒A こないでっ。

男子生徒A キミが心配なんだ。

女生徒A そんなの知らないわ。

男子生徒A 何故だ。友達じゃないか。

女生徒A 私に構わないで。

男子生徒A 先生、保健室に。


鐘の音

授業は終わりみんな教室を出ていく。

男子生徒A、周りを見渡す


女生徒A なくなる。

男子生徒A なくなる?

女生徒A わたしがどんどん失われていくわ。

男子生徒A 失われる?

女生徒A そう失われる。だんだん ゆっくりと 着実に わたし わたしが剥離していく。とろりとろけて混ざりあい つぶしあい なにもなにもかもがみえなくなっていく。まっくら。それすらもわからない。そんなにみえないのにどんどんなぜかわたしがわかっていく。もうわたしはいないのに。こわい。こわいわ。

男子生徒A わからないけど… ある意味仕方のないことなのかもしれないよ。生きるっていうことを続けるためにはさ、それって。

女生徒A そうね。仕方のないことだけど 許せないわ。


女生徒A、男子生徒Aに向かいあう


女生徒A 私はね、キミ。

男子生徒A うん。

女生徒A トンボになりたいの。

男子生徒A それはまた変わってる。

女生徒A 誰かが死んだ場所を悼むように無性に飛び回るトンボになりたい。無邪気で無垢で。

男子生徒A 決めつけは良くないよ。トンボにはトンボの気持ちがあるはずだ。

女生徒A あんたにしては上出来ね。このおたんこなす。

男子生徒A 僕は何になりたいんだろうか。

女生徒A そんなの自分で考えなさい。

男子生徒A その通りだね。

女生徒A トマト。

男子生徒A 藪から棒だ。

女生徒A なすじゃない。トマトよ。

男子生徒A 意味わかんねぇ。

女生徒A べー。


女生徒A退場する


男子生徒A ほんと勝手だなぁ。


男子生徒A笑う


暗転

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