行方不明 ③



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「カトリナ様!」

「カトリナ様、ご無事ですか!?」



保健室の一番奥のベッドで、ぼーっと窓の外の妖精たちの光を眺めていたカトリナの元に、カトリナのクラスメイトたちが集まってくる。


カトリナは治癒魔法で傷の手当てをしてもらったためほぼ無傷だが、一応様子見のために今日一日は保健室に滞在することになっている。



「……」



放心状態だったカトリナは、クラスメイトたちの声に対して反応するのが随分と遅れた。


ようやく顔をそちらに向けた時、クラスメイトたちが次々と先程の決闘ドゥエルに文句をつけ始める。



「あんなものはズルです!カトリナ様!」

「一対一で戦っていないではありませんか!本来勝つのはカトリナ様だったはずです」

「それにあの魔獣……!あんな危険なものを連れているなんて、あのミアという生徒は犯罪者かもしれません!もしかしたら、50年前の事件を起こしたのは彼女かも……」

「オペラの皆様に訴えましょう!」

「あんな下品な娘がカトリナ様を吹き飛ばすだなんて無礼にもほどがあります!」

「きっと今頃調子に乗っていますわ。今すぐにでも身の程ってものを――」


「おやめなさい」



それまで黙って聞いていたカトリナがピシャリと言い放った。


その言葉に、クラスメイトたちはぐっと押し黙る。



「負けは負けですわ。あれだけ精度の高い召喚魔法……わたくしは人生で初めて見ました。彼女が素晴らしい魔法使いであることは確かです」



カトリナは毛布の上でぎゅっと拳を握り締めた。



「しばらく、……一人にさせてくださいな。寝ている生徒もいることですし、保健室で騒ぐのはよくないですわ」



力なく微笑したカトリナを見て、クラスメイトたちは気遣うように保健室を出ていく。


全員が出ていったのを確認してから、カトリナはふうと溜め息を吐いた。



先程から脳内をぐるぐると回っているのは、召喚魔法を放った際のミアの力強い目付きだ。


何度思い出してもゾクリと鳥肌が立ち、ぎゅっと落ち着かせるように自分の体を抱き締める。



(わたくしはあの子を見誤っていた……)



いや、違う。予感はしていた。短期間で急激に成績を上げ、少しも使えなかった飛行魔法を使うようになり、薬剤の調合も完璧にこなし始めたミアを見て、先を行きながらもその成長速度に驚いていた。




(いつの間に、どうやって、どこであの魔獣を……)



得体の知れない才能への恐怖に震えるカトリナの肌を、冷たい風が過ぎった。





カトリナが顔を上げる。


窓は開いていない。



「……?」



不思議に思い、ベッドから降りて、静かに室内を歩いた。



先程クラスメイトたちが閉めていったはずのドアが開いている。


保健室にいる他の生徒たちは寝ていて、先生も今は会議で不在だ。




不気味に思い、ドアから顔だけ出して廊下の様子を見たカトリナは、ふと暗い廊下の向こう側が赤い光を放っているのを見つけた。





おそるおそる近付くと、そこには美しい――――靴。



赤く大きなリボンが付いた、カトリナの好みにばっちり合った靴だ。



カトリナはその靴に一瞬にして心を奪われてしまった。




何を犠牲にしても、自分の生命を絶やしても、その靴を履いていたいと感じるほどに。





その日を境に、カトリナは姿を消した。





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