決闘 ②



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「こんなおもろいドゥエル初めてやわぁ」



観客席ではスヴェンが涙を出して笑っていた。持っているのは長ネギであるのに、ミアは至って真剣な表情で戦っているのだから面白い。



「じ、自分を停学させようとしてる相手と友達になりたいなんて、へ、変な子……」



ドロテーが良い香りのする紅茶を飲みながら呟いた。

観客席からグラウンドではそれなりに距離があるとはいえ、魔法で声は届いている。



「な。イザベルもおったらどんな反応したやろ」



この場にはいないカトリナの姉。近付くのは家の名前に惹かれた者のみである妹の、“友達”を志願するクラスメイトを見て――彼女ならば、どう感じただろうか。





「分かってはいたけど、厳しいな。やっぱ」



テオがぽつりと言った。魔法で自分から出る音を遮断しており、この声は隣のブルーノにしか聞こえないようになっている。


ブルーノはテオの呟きに対し肯定した。



「ああ。ミアは攻撃魔法の練習をしていたが、カトリナの攻撃はさすがの速さだ。これでは反撃の隙がない」

「……妙に落ち着いてるな?」

「誰が教えたと思ってる?」



自信有りげにニヤリと笑ったブルーノの顔は、先程カトリナに対して笑っていたミアの表情に似ていた。





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ぼっと火が燃え上がるような大きな音がしたかと思えば、ミアが防衛魔法を使って自分に結界を張っていた。


ミアの周りを呪文の鎖――文字の羅列が飛び交っている。カトリナがいくら魔法剣で斬りかかっても弾かれる。



ふん、とカトリナは鼻を鳴らした。この程度の防衛魔法は十分解除できるものだ。


剣をおろし、結界の解除魔法の呪文を唱えようとした時――結界の中のミアが、ドレスの横に差していた杖を引き抜き、先に呪文を唱える。



「――――エア・シャイネン!」



カトリナの後ろの地面が、円形に強い光を放ち始める。


この会場を照らすどの炎よりも強い光だ。



「……!?」



カトリナが後ろを振り返って、信じられないという風に呟く。



「今のは……召喚魔法の呪文……?」



召喚魔法はカトリナでも苦戦するような、苦手な魔法使いが多い分野だ。


それを防御魔法を発動しながら同時に発動するなんて。ぎりっと歯を噛みしめたカトリナの身に、次にゾッとするほどの寒気が走る。



何かが来る。


膨大な魔力を持った何かが。




結界の中で杖を持ったミアは息を荒げ、汗を垂れ流しながら笑っていた。



「よろしく、ロッティ」



ウニヴェルズィテートの獣。学園内で二度の未解決事件を起こした恐ろしい魔獣。

そのオオカミのような姿を見て、何か分からない者はこの学園にいない。



さすがのカトリナも怯み、怯える顔をしてロッティを見上げる。



「ど、どうして……」



優秀な魔法使いが集まるこの学校で、何度も死者や負傷者を出した、凶悪な事件を起こした魔獣が目の前に現れたのだ。





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観客席は一気にざわついた。


逃げようとする生徒、治安部隊に連絡しようとする生徒たちもいる。


教員たちはすぐに杖を構え、魔獣を捕縛しようとした。



しかしそのような動きをする者全てに魔法がかけられ、彼らは一瞬にして石になったかのように動けなくなる。




    『神聖な決闘ドゥエルの邪魔をするのは、オペラトップとして許せんのう』



脳内に響くその声が誰のものか分からない生徒はいなかった。


オペラのトップ、この魔法学校で最強の魔法使いとされるラルフだ。



どこに居るのかは不明だが、この会場内のどこかでこのドゥエルを眺めているらしい。



ラルフが魔法で制したおかげで邪魔は入らず、ドゥエルは続けられる。



ロッティがドラゴンのように炎を吐き出し、カトリナに攻撃した。



「ブラーゼン!」



カトリナは風の魔法を使い、その炎をかき消す。


本来ならばドゥエルが中止されてもおかしくない自体である。それなのに中止の合図がなされないことに戸惑いながらもロッティと対峙した。



(……上等ですわ)



ぐっと魔法剣を握り締めたカトリナ。



(ウニヴェルズィテートの獣が、なんだって言うんですの)




大量の魔力を魔法剣に込めて、カトリナは走り出す。




この獣を倒せば

わたくしの実力を認めて

わたくしを見に来てくださいますか、

お姉さま




オペラの特別な観客席の2つは、未だに空席である。




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