異例のコンビ ②



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魔法図書館の1階中央、本棚と本棚の間にある自習スペースで、ミアとカトリナの信者たちは互いに分かることを教え合いながら探索魔法の勉強を始めた。


ミアに信頼されたカトリナ信者たちは自尊心を刺激され、確かに自分たちにできないはずがないと意欲的に学習に取り組んでいる。


こうなると怖いのが《知の部屋》の生徒たちだ。


国内最高峰の魔法学校を“学力”を武器に受験した者たちの集団である。飲み込みの速さは常人のそれではない。



(……)



その様子を、たまたま魔法図書館に立ち寄ったドロテーが見かけた。


ドロテーはしばらく無表情でミアたちの様子を見ていたが、しばらくして本を借りて立ち去っていった。






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驚異的な学習能力で探索魔法の発動方法をスポンジのように吸収したカトリナの信者たちは、次の日から本格的に捜索を始めた。


途中で新聞部の生徒たちが取材のためミアに絡み始めると、「邪魔をしないでくださる?」とミアの前に立ちはだかった。その顔つきは非常に恐ろしく、あの新聞部の生徒たちも怯むほどであった。


そのおかげでミアはカトリナの捜索に集中できるようになり、カトリナの気配が消えた場所まで特定することができた。


探索魔法を発動すると対象者の足跡が視えるのだが、ドゥエル後のカトリナの足跡は、保健室の外の廊下で消えている。



「最後にカトリナ様に会ったのは私達ってことかしら……」

「私達があの後も外でカトリナ様を待っていればこんなことには……」



カトリナの信者たちが自責の念に苛まれている中、ミアは魔力を集中させてカトリナの最後の行動をなんとか視ようとしていた。


煙のような白さを持つ人の形をした“気配”が、保健室のドアから顔だけ出して廊下の様子を見ている。


その後、ゆっくりと廊下へ出て、歩いていき、足跡の終了地点で屈んだかと思えば――“気配”は消えた。



(やっぱりだめか……)



探索魔法を使っても、これ以上の情報は得られなさそうだ。


加えて先程使った魔法は足跡とは違い対象者の最後の行動をトレースするもので、かなり魔力を消費するため、ミアは疲弊してしまった。



「……とにかく、ここで何かあったのは間違いないね。今日はもう遅いし、みんな寮へ戻ろう」



ミアはそう言ってカトリナの信者たちを解散させた。


七不思議通りであれば、魔法の靴は“夜”に“女生徒が一人でいる時”に現れる。


これ以上の被害を出さないためにも念には念を入れ、できるだけ早く寮へ帰した方がいいだろうと判断したのだ。




カトリナがいなくなった場所が分かっただけでも収穫だ。今日できることはもうないだろう。寮へ戻ったら、次の手を考えよう――。


ぶつぶつ独り言を言いながら保健室の前の廊下を言ったり来たりしていたミアに、ある人物が声をかけた。



「久しぶりだね。何をしてるんだい?」



――養護教諭、アブサロン。


新聞部に目をつけられてから昼休みは逃げるしかなくなったため、しばらく会っていなかった先生だ。



ミアは喜んで暖かい保健室の中へ入っていった。





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「……ふむ。とすると、カトリナが最後に居たのはこの保健室というわけだね」



ミアの話を聞きながらレモン味のする美味しい魔法茶を入れ、ハーブの葉を浮かべてミアに渡したアブサロン。


ミアは湯気のたつそれにふぅふぅと息を吹きかけた後、「アブサロン先生は何か気付かなかった?」と聞く。



「うーん。カトリナがここへ運ばれてきた時は居たんだけど、治癒魔法で治した後は職員会議に出てたからね。帰ってきたら居なくなっていて、まあ心配するほど重い怪我でもなかったし起きて一人で戻ったんだろうと思って然程気にしなかったよ」

「アブサロン先生は追跡魔法が使えるよね?カトリナもどうにか探せない?」

「追跡魔法はあらかじめ仕掛けておくものだし、マークしていなかった生徒に居なくなられたら打つ手がない」



ミアががくりと項垂れた。


言われてみれば、あれだけ追跡魔法を巧みに利用している新聞部でさえカトリナを見つけられていないということは、追跡魔法ではどうにもならないということなのだろう。




明日からどうしよう……と頭を悩ませているミアの身体を、保健室に住み着く、中世ヨーロッパの貴族のような格好をした婦人のゴーストが通り抜けた。



『探索魔法で探せないのは、魔法の靴が魂自体を蝕んでしまうからなのヨ』



婦人のゴーストが空中を飛び回りながら初めてミアに話しかけた。昼間はいつも奥のベッドで寝ているだけのゴーストのため、ミアはびっくりして顔を上げる。



「ああ、この人、夜になると元気になるんだよ」



アブサロンがミアの反応に笑いながら説明をした。




「……ゴーストさんはずっとここに居たよね?何か気付かなかった?」

『見ていたワ。イーゼンブルク家のお嬢さんが部屋を出ていくところを』



ゴーストと会話をしたことはあまりないので、緊張しながらミアが問いかけると、婦人のゴーストは優しく答える。


校舎内にいるゴーストたちは、基本的に生徒には優しいのだ。



「それでどうなったか、分かる?」

『不気味な気配がした……ワタシは近付くことができなかったわ。あれは、世にも恐ろしい魔女の魔力だったワ』

「……じゃあ、魔女の魂がまだ生きてるって話は本当なの?」

『同じ死者だから分かる。魔女の魂は本当にあるワ。この学園に、あと5つ。』

「5つ? 魔女の魂は7つって聞いたんだけど違うのかな」

『最初は7つ。今は5つ……2つの魂は、歴代のオペラが滅ぼしたから』



婦人のゴーストがちらりと意味ありげにアブサロンを見たが、アブサロンはにこにこと笑うばかりだ。



『探索魔法は生きている人間を対象とする場合魂を探すものだから、魂に影響を与えられたら探索できなくなるノ』

「もう魔法で探すのは無理ってことなのかな」

『そうネ。魂に干渉されたら、魔法学上ではその人は別人という扱いになるから』



ミアはしばらく顎を指で触れながら考え込む素振りをしていたが、ハッとして保健室にある時計を見て気付く。



「やばい、そろそろテオが迎えに来る時間だ……!ありがとうゴーストさん、アブサロン先生!」



そして、慌ただしく魔法茶を飲み干し、黒いローブを羽織って保健室を出ていった。




ミアが居なくなった後の保健室で、アブサロンが座ったまま短い杖を軽く動かし、魔法でミアが使った後のティーカップを片付ける。


空中を飛び回っていた婦人のゴーストが、先程までミアが座っていた椅子に座り頬杖をついて、テーブルを挟んで向こう側にいるアブサロンに問うた。



『今回はノータッチを貫くノ?』

「セオドラのことかい?ぼくが動いて何になるのかな。それは老害の過干渉だよ」

『生徒が危険な目に遭っているかもしれないのに?』

「若者たちが魔女相手にどう動くか見ものじゃないか。学園内の治安維持制度をきちんと受け継げたかどうか、確認しないとよくないだろう?」



クックッと意地の悪そうな表情で肩を揺らすアブサロン。その耳にぶら下がるローズクォーツのピアスが揺れた。



『卒業しただけで年寄りぶっちゃって。アナタだってワタシに比べたらずっと若いくせに』

「まあ、そりゃあ君よりは若いよ」



平気な顔で婦人のゴーストが気にしていることを言ったため、アブサロンは軽く睨まれる。



『……ハア。それにしても、あの子、気を付けた方がいいわヨ』

「ミアのこと?」

『普通じゃないわネ。死者の魔力の匂いがする』

「……」

『精霊由来の魔力も少しは吸収しているようだけれど、今彼女が使っている魔力の殆どは、死者からの贈り物だワ』



言いながらテーブル横のスティック菓子に手を付けようとした婦人のゴーストだが、その手は透けており、実在の物質に触れることはできないのだった。



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